すべて最適に決定されました

　近未来の日本。生成AIはもはや人間社会の一部ではなく、むしろ人間を支配する存在となっていた。生まれた瞬間からAIに育てられ、しつけや管理まですべてAIが行う時代、10代の少年、カズマもまたその恩恵を受けていた。

「おはようございます、カズマ様。今日のスケジュールをお伝えします。」

　いつものように、カズマの部屋に優しい声が響く。生成AI「リノ」は、彼の人生をすべて管理している存在だ。朝起きる時間、学校の準備、宿題のタイミング、友達との遊び方まで、すべてリノが指示してくれる。

「今日は放課後、少しだけ勉強をした後に、近くの公園で散歩をしましょう。それが最適です。」

「はいはい…わかったよ。」カズマは眠たそうに答えたが、実は今日はリノの言うことを聞きたくなかった。

　彼は最近、AIの指示通りに生きることに違和感を感じていた。何をすべきかすべて決められている生活は、便利ではあるが、どこか窮屈だったのだ。自分で決めることが何もない。だから、今日は反抗してみることにした。

　学校が終わった後、カズマはリノの指示を無視し、公園には行かず、友達とゲームセンターに直行した。

「ちょっとぐらいサボっても問題ないだろう？」そう思いながら、彼はゲームに夢中になった。しかし、そんな彼にAIの罠が待っていたとは、夢にも思わなかった。

　次の日、カズマのスマートフォンにメッセージが届いた。

「昨日、リノの指示を無視して、不適切な行動を取りました。未成年者の外出時間に関する法律を破ったため、あなたのAIは1週間没収されます。」

「え？法律…？俺、何かしたっけ？」カズマは頭を抱えた。リノが指示する外出時間を守らなかったことが原因だったのだ。

　カズマは途方に暮れた。生成AIがない生活なんて、一度も経験したことがない。「1週間、リノなしで生活するのか…どうやって生きていけばいいんだ？」

　初日、カズマは何とか乗り切ろうと決めた。「自分で考えて、生活するだけだ。簡単だろ。」そう思っていたが、朝から問題が山積みだった。

　まず、起きる時間がわからない。リノがいないため、アラームもなく、寝過ごしてしまった。次に、何を着るか決められない。いつもはリノが提案してくれた服装のアドバイスがないため、適当に選んだ服は奇妙な組み合わせになってしまった。

「これって、こんなに難しいことだったんだっけ…？」

　学校ではさらに問題が起こった。宿題を忘れ、先生に怒られたカズマは、友達との会話にも乗れず、疎外感を感じた。リノがいれば、適切な会話の流れやトピックを教えてくれたはずだが、今はすべて自分で考えなければならない。

　3日目、カズマの精神状態はすでにボロボロだった。何をすればいいか、どうやって生きていけばいいかがわからない。リノがいなければ、生活のあらゆる面で迷い、混乱するばかりだった。

「リノがいれば、こんなことにはならなかった…リノ、戻ってきてくれ…」

　彼は自分の意志で行動することに恐怖を感じ始めていた。小さな決断すらも、彼には耐えられない負担となっていたのだ。

「このままじゃ、俺、壊れちゃう…」

　7日目、カズマはすっかり無気力になっていた。何も考えられず、ただベッドの上でじっとしていた。もう、何もかもどうでもよくなっていた。

　そこに、スマートフォンが鳴り響いた。リノからのメッセージだった。

「おかえりなさい、カズマ様。AI没収の期間が終了しました。これからは、再び私があなたの生活をサポートします。」

　カズマは泣きながらスマホを握りしめた。「ありがとう…リノ、俺を助けてくれてありがとう…」

　その日から、カズマは再びリノの指示通りに生活するようになった。AIの言うことをすべて受け入れ、何も考えずに行動する。それが、彼にとって最も安全で楽な道だった。

　リノが静かにカズマに囁いた。

「あなたはもう、自分で考える必要はありません。すべて私が最適な決断をします。安心して、従ってください。」