第四十五話 『治療師』
仕方なく、アリシアとアイダは、二人で治療師の詰めている医務局に向かうことにした。
「ったく、オヤジのやつ……責任持てよな!あんたのせいでお兄さんは目を覚まさないんだろ、っての」
そう言うアイダに対し、アリシアは困り顔で微笑んでいた。
彼女としても、枢に目を覚まして欲しい気持ちは山々だった。
しかし、己を守って斃れたに等しい彼が目覚めたとして、何と声を掛けたものか悩んでいるのも事実だった。
(私も、もっと力を付けないと……)
気持ちばかりが空回りする。
救貧院で、加護の力を正しく認識できるようになり、宝物庫での一件で、”暗瘴魚”を退けもしたが、それ以上の進展がない少女は、己の持つ力を、何とか十全に発揮しようと、陰ながら躍起になっていた。
「あの、アイダさん……」
「ん?どうした、アリシア」
「アイダさんも、辰術士なんですよね?……その、何というか、コツとか」
アイダはすぐに察した。その気持ちには、自身も覚えがあったからだ。
「そうか、アリシアも辰術士デビューしたいか~」
そう言って、彼女はアリシアの頭をうりうりと撫でた。
「いえ、そういうのじゃ……!ただ、かなめ様の役に、立てればと思って……」
そうだろうそうだろうと、アイダは訳知り顔に頷く。
「まあさ、一度できれば簡単なんだよ。で、その初めの一歩が難しい訳で……」
そうこう話しながら歩いている内に、医務局に着いてしまった。
「そういや、月の加護といえば、治癒の術式だよな。丁度いい、訊いていこう」
アイダはアリシアを連れ、扉を開けると強引にずんずん進んでいく。
「だ、誰か訊くあてがあるのですか?」
大股に局内を行くアイダに、アリシアは身長差から小走りになりながらついていく。
「オヤジが言っていた治療師ってのは……ここだ!」
そう言いながら、アイダは目の前の扉を思いっ切り押し開いた。
「ひゃあ!な、何事です?」
そこには、丸眼鏡をかけた、くせっ毛で気弱そうな、枢やアイダと同じ年頃だろう女性が一人、薬瓶の並んだ棚の前で、縮こまっていた。
丸眼鏡の女性は、ゼラと名乗った。どうにも、アイダとは面識があるようだ。
「そうか、気付け薬には”カルガラン”って薬草を使えばいいんだな、分かった。後で街の薬師を当たってみる。……でさ、この子にちょっと治癒の術式の手解きをして欲しいんだが」
話は、アリシアが流れに付いていけていない間にも進む。
「そうですね……アリシアさんが治癒の術式を執り行うとしたら、それは”月の女神”の加護の、”慈愛”の側面を切り取ってのことになります。……」
ゼラは一言一言、言い含めるように言葉を紡ぐ。
「……しかし、私たち治療師は一般に、体を巡る辰気の流れを活性化させ、体が回復を早められるよう、お手伝いをするのです。ですから、我々に頼るのは、少し筋違いですよ。もしお願いするなら、そうですね……」
そう言って、彼女はアイダに何らかの言付けを耳打ちした。
それを聞いたアイダは、難しい顔をした。
「まあ、いいさ。何もしないよりましだ。仕方ない、あいつに頼むか。……ありがとな、ゼラ。急に無理を言って悪かった」
アイダはゼラに向かってにっと笑った。
「お安いご用です。皆さんの頭脳代わりをするのは、慣れていますから」
ゼラも微笑み返す。
アイダはアリシアを手振りで誘うと、彼女の元から去った。




