第四十四話 『気付け薬』
それから五日後。
マティアスが直訴し、月内にも臨時の審問会が開かれることとなった。
国王エイゼイアが訴えられたと聞いて、貴族も庶民も、この一件に注視している。
しかし、その間、枢が目を覚ますことなかった。
「それにしても、三つ目の”遺物”、剣が本当にあったとはな。”雪降る渚”、か……」
枢を看護するアリシアとアイダの元に、彼の具合を尋ねに訪れたマティアスが、感慨深げに呟いた。
「オヤジ、クソッタレ陛下はどうやって、辰気の吹雪く中で、このお兄さんに雷撃を当てたんだ?あたしはそれが気になっててさ」
ああ、とマティアスはさして関心もなさそうに、生返事を返した。
「王族の蒼い双眸には、透徹の力が宿っているんだ。あらゆる遮蔽物を見透かし、人の心の内を正確に推し量る……まあ、厄介な代物だ」
「ふぅん。それじゃ、戦っても、お互い面白くなさそうだな。相手の考えが読めるんだろ?」
アイダは、王の無謬ぶりに嫌気がさしたかのように、大欠伸をした。
「そうだな。まあ、その道の達人ともなれば、考えと行動を乖離させることもできるんだろうが……お前ぐらいでは、相手にならん」
「あっ、なんだよそれ。あたしだって……」
アイダが大声で、己をくさしたマティアスに反駁しようとした時。
「う……」
枢が、斃れてから初めて、声を漏らした。
「かなめ様……!?」
アリシアが慌てて、驚き半分、喜び半分の声を上げた。
「目を覚ましたのか!?」
アイダもアリシアに倣う。しかし、枢に続く言葉はなかった。
「……無理もない。陛下も恐らく全力を出されたのだ。その雷撃を受けては、そう簡単に目を覚ますことはないだろう」
「なーに偉そうなことを。オヤジが無理言って、あたし達を陛下の護衛役なんかに抜擢するから、お兄さんはこんな目に合っているんだぞ」
「……それもそうだな。悪かった」
マティアスが素直に謝ったので、アイダは毒気を抜かれた顔をした。
「ま、いいんだよそんなことは。それより、お兄さんが目を覚ますために、何かできることはないのか?」
「ふむ……気付け薬……それも、ごく強力なもの……だろうか。よし、治療師にかけあって、その筋を当たってみるといい。許可は出しておく」
マティアスはそう言って、腰を上げると、どこかへ去って行った。
残された二人は、互いの顔を見、枢の顔を見やると、ひとつ溜め息を吐いた。
あまりにも、マティアスの態度は投げやりだった。




