第二十話 『王都ロドレス (一)』
という訳で、ぼちぼち書き進めていけたらと思います。
テオドールに導かれて、王都を守る城壁に設けられた通用門をくぐり、ロドレスに足を踏み入れた枢は、その賑わいぶりに大いに感服した。
海路の要衝であるオーセオンも中々の規模の街だったが、王都ともなるとやはり輪を掛けてさわがしい。
行き交う馬車の内には、華やかな装束に身を包んだ貴族らしき男女も見受けられ、この街が社交の花形であることが容易に見受けられた。
ジュードの元へ案内してくれるのかと思っていたが、テオドールは枢を伴い、街の中心、王宮の方へとずんずん近付きつつある。
枢がもしやと思っていると、やがて衛兵の詰め所らしき簡素な建物が見えて来た。
「なあ、テオドール殿。某は……」
「何、怖いことなんてない。レイフィールド隊長だって、君に責任がないことくらい分かっているはずさ。だから、審問では正直に話すんだぞ」
「はあ……」
取り付く島もないとは、このことだった。枢は仕方なく、連れられて詰め所に入った。
「遅い。どれだけオレをここに足止めするつもりだ。もう五日も待ったんだぞ」
そこには、苛立った様子のレイフィールドと──
「君が件の幽世人か。話には聞いている。災難だったな」
漆黒の髪も流麗な、年若い眉目秀麗の女性が、鎖帷子を纏って端然と微笑を寄越していた。
「これはレイフィールド殿。待たせたことは申し訳ないと思っている。時に、そちらの御仁は──」
「ああ、私は──レングーンの軍の総合的な統括を担う、このカイナの姉、リュミエール・レイフィールドだ。よろしく頼む」
レイフィールド──カイナが答える代わりに、彼女が割って入った。
「こちらこそ、よろしく。……そなたが軍の長、か。しかし、某が幽世人ということは殆どの者に口外していないのだが──一体、どういう経路で入手した情報かな」
枢が少しく色めきだった。
「何、メルバーユ殿から言伝があったのさ。こちらに流れ着いた幽世人が、じきに王都に着くから、よろしく頼む、とね」
「天耳通の持ち主、という訳では無いのだな。安心した」
聞き慣れない言葉に首を傾げたカイナとテオドールだったが、リュミエールは、
「そうであれば面白かったのだが──残念ながら、それほどの業は積んでいなくてね。生憎と、ご覧の通りの只人さ」
「……そうか。では、何故某を待ち受けていたのだ」
枢は話を戻した。
「君が“遺物”を持ったままだと聞いてのことさ。渡し渋るかと思ってね」
「厶──確かにその通りだ。だが、聞いて貰いたい話があってだな。これはそちらにも有益だと思うのだが──」
「問答無用だ。渡さないというのなら、大魔女の仲間として、今度こそ処断するぞ」
カイナが口を挟む。
「まあ待て。そこまで言うのなら、聞いてやろうじゃないか」
そう言うと、リュミエールは姿勢を少し正して、聞く体勢を作ってみせた。