表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日はまだ見ぬ空模様  作者: 東陸士
二章 『不朽の都』
16/46

第十六話 『囁きの森 (一) 』

途中の街々で適宜休息を挟みつつ、(かなめ)の乗る馬車は王都まで後一息という所まで来た。

午後、やや遅くなってからのことだ。

「クガミネさん。これ、食べてください」

馭者を務める青年──名をジュードと言った──が、昼食代わりの黒パンとベーコンを差し出して来た。

今停車しているのはシュールーズという大きな街で、この先に広がる“囁きの森(マーレム・アーレ)”という地を迂回するかどうかについて、相談がてらの昼食を取ろうということになったのだ。

「なるべく急ぎたい。抜けていく場合の危険とはどのようなものか」

食事の合間に、枢はジュードに話しかけた。

「これと言った危険はない……はずなんですが、(みんな)ここは不吉な地だと言って、避けて通るんですよ」

「ふむ。どのような謂われがある」

「何でも、木々の葉がこすれ合う音が、呪いを囁く声に聞こえるとか」

「成る程、それで“囁きの森”か」

枢は一概に迷信だと断ずる気にもなれず、暫く思案に暮れていたが、

「噂の原因が分かれば、ひとつこの地に貢献できたことになる。さすれば、宝物庫襲撃の件の追及の手も、少しは弱まるかも知れん。ここは通り抜けて行こうと思うが──そなたはどう思う、ジュード殿」

「えっ、オレですか?そうですね……正直、危険は避けて回りたいですが、クガミネさん、強いんでしょう?それなら安心かなあ」

ジュードの呑気な返事に、枢の緊張もいくらか解れた。

「森はどのくらいの広さだ。今からでは、日が暮れるまでには抜けられまい」

「ですね。今日はこの街に泊まりましょう!」

久し振りに床で休めるということで、ジュードの声は弾んでいた。


その日の夜。宿の床で眠れずにいた枢は、空気を吸おうと、一旦外に出た。

街は静かなものだった。夜警が見回りに、ランタンを灯して歩き飽かしている姿が見える。

空を見上げる。

夜天には、いつか波残寿(なごじゅ)で見た時と同じ、北辰が耀いていた。

(何か胸さわぎがする……道行きを急がねば)

オーセオンで待つアリシアたち、幽世に置いて来たままの両親、そして久し振りに、計らずも自らをこの地に送り届けたクゼなどに思いを馳せながら、枢は浅い眠りに就いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ