表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日はまだ見ぬ空模様  作者: 東陸士
一章 『渚の街』
14/46

第十四話 『責任の在処、助力の対価』

「どうしましょう、かなめ様……というか、どういうことなのですか……?」

慌てふためくアリシアだったが、手紙の真意までは掴みかねているようだった。

「要するにこういうことだ。『お前達に力を貸し、王都の防備が手薄になった結果がこれだ。潔く責任を取り、然るべき対価を我々に示せ』と言っている」

(かなめ)は苦り切った顔で要点を述べた。

「ひどい……救貧院(ここ)に隊員の方を置くことは、レイフィールドさんも納得の上じゃないですか……!」

「奴との約定には、隊員の派遣とそなたの警護、そして相互連絡の誓いしか含まれていない。他のところでどう足が出ようが、知ったことではないとも言える。しかしだ、アリシア……それでは筋が通らないことは、そなたにも分かるはずだ」

「そうですけれど……!」

少女はいつになく憤っていた。己の預かり知らぬ所で、己の関与したことが近しい人に累を及ぼしてしまうのは、どうしようもなくもどかしく、やり切れないものである。

「私にも、何かできること……!」

「落ち着け」

枢はそう言って、少女の(すべ)らかな灰金(かいこん)色の髪を弄ぶでもなく、己の掌をその上に置いてぐりぐりと回した。

「わわ……何するんですか〜かなめ様〜!」

「そうだ、それでいい。そなたはまだ子供なのだから、己のことを第一に考えよ。誰かの為に生きるのは、自らの身の程を十分に理解した上で、なお猶予ある者の特権だ」

「そんな……!それじゃ、かなめ様はご自分にはその猶予があるとお思いなのですか!?」

枢は僅かに沈黙し、深く瞑目するとこう言った。

「例え猶予は無くとも、誰かがやらねばならぬ場合もある。そして今回こそが、その場合の顕著な一例だ」

「……私なんかに、一体どれだけの価値があると言うのですか…….!」

そう言ったアリシアの声の末尾は、震えていた。

「そう卑下するな。そなたの才は、今に花開く。今はまだ固く結ばれた蕾でも、きっと桜のように見事な花が咲くさ」

「さくらの花は、儚いって言ったじゃないですか……」

そう反駁する声は、けれど最前の勢いを失い、ともすれば水っぽい()の混じるものとなっていっていた。

「そう案ずるな。そなたの悪いところは、その取り越し苦労ぐせだ。自らが指示を出した手前、レイフィールドとて、そう悪い条件は出せないはずだ。そうは思わぬか」

「は、はい……そう信じています」

「うむ、良い返事だ。では、某は一度メルバーユ殿の元で経緯(いきさつ)を話し、それから王都ロドレスでレイフィールドと話を付けて来る。こうなっては、大魔女の手先も現れないとは思うが、万が一ということもある。メルバーユ殿とは仲良くな」

「……分かってますよ、もう」

少し拗ねたような口調だったが、もう嗚咽の波は止んだようだった。

「荷物を纏め、明日明朝に発つ。何、すぐに帰るさ」

そう言って、枢はアリシアに向かって、強かに微笑んでみせたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ