第十四話 『責任の在処、助力の対価』
「どうしましょう、かなめ様……というか、どういうことなのですか……?」
慌てふためくアリシアだったが、手紙の真意までは掴みかねているようだった。
「要するにこういうことだ。『お前達に力を貸し、王都の防備が手薄になった結果がこれだ。潔く責任を取り、然るべき対価を我々に示せ』と言っている」
枢は苦り切った顔で要点を述べた。
「ひどい……救貧院に隊員の方を置くことは、レイフィールドさんも納得の上じゃないですか……!」
「奴との約定には、隊員の派遣とそなたの警護、そして相互連絡の誓いしか含まれていない。他のところでどう足が出ようが、知ったことではないとも言える。しかしだ、アリシア……それでは筋が通らないことは、そなたにも分かるはずだ」
「そうですけれど……!」
少女はいつになく憤っていた。己の預かり知らぬ所で、己の関与したことが近しい人に累を及ぼしてしまうのは、どうしようもなくもどかしく、やり切れないものである。
「私にも、何かできること……!」
「落ち着け」
枢はそう言って、少女の滑らかな灰金色の髪を弄ぶでもなく、己の掌をその上に置いてぐりぐりと回した。
「わわ……何するんですか〜かなめ様〜!」
「そうだ、それでいい。そなたはまだ子供なのだから、己のことを第一に考えよ。誰かの為に生きるのは、自らの身の程を十分に理解した上で、なお猶予ある者の特権だ」
「そんな……!それじゃ、かなめ様はご自分にはその猶予があるとお思いなのですか!?」
枢は僅かに沈黙し、深く瞑目するとこう言った。
「例え猶予は無くとも、誰かがやらねばならぬ場合もある。そして今回こそが、その場合の顕著な一例だ」
「……私なんかに、一体どれだけの価値があると言うのですか…….!」
そう言ったアリシアの声の末尾は、震えていた。
「そう卑下するな。そなたの才は、今に花開く。今はまだ固く結ばれた蕾でも、きっと桜のように見事な花が咲くさ」
「さくらの花は、儚いって言ったじゃないですか……」
そう反駁する声は、けれど最前の勢いを失い、ともすれば水っぽい音の混じるものとなっていっていた。
「そう案ずるな。そなたの悪いところは、その取り越し苦労ぐせだ。自らが指示を出した手前、レイフィールドとて、そう悪い条件は出せないはずだ。そうは思わぬか」
「は、はい……そう信じています」
「うむ、良い返事だ。では、某は一度メルバーユ殿の元で経緯を話し、それから王都ロドレスでレイフィールドと話を付けて来る。こうなっては、大魔女の手先も現れないとは思うが、万が一ということもある。メルバーユ殿とは仲良くな」
「……分かってますよ、もう」
少し拗ねたような口調だったが、もう嗚咽の波は止んだようだった。
「荷物を纏め、明日明朝に発つ。何、すぐに帰るさ」
そう言って、枢はアリシアに向かって、強かに微笑んでみせたのだった。