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第1章 『獄門島狂想曲』 4話 「迷子の子供」 前編

 満足したメビーは颯爽とノーヘルでバイクに跨がり、部下たちを乗せたバスを引きつれて来た道を戻る。

 メビーたちの一団をキャラヘンたちは、黙って見送るだけしかできない。

「あいつ、ほんと毎回何しに来てるんだよ」

 キャラヘンが、爆音を上げて帰っていくメビーたちに毒づく。

「結局、自分が偉いってことを、誇示しに来ただけでしょうからね。立場上、舐められるわけにもいけないでしょうし」

 ヌーナンはそれっぽいことをいって、メビーの考え方に一応の理解を示す。

 しかしキャラヘンにしたら、ただ単に暴力を愉しんでいるにしか思えないのだ。


「まあまあ、いつものことですよ。今回は、少々手荒な歓迎になりましたけどね。気にしないでいきましょう……」

 事務員がため息混じりにいう。

「少々? あれが?」

 キャラヘンが事務員の言葉に引っかかり、声を荒らげる。

「どう考えても、やり過ぎだろ! なんで彼は、あそこまで普通に暴力振るえるの? 自分が看守だから? 看守って、そういうことが許される職業なの? 死んだらどうしようとか、考えないの?」

 キャラヘンは「理解できない!」といわんばかりだ。

 ここまで強烈な暴力には、キャラヘンも今回はじめて遭遇したのだった。


「キャラヘン副所長のそれが、やはり答えじゃないですかね?」

 ヌーナンの言葉に、キャラヘンは不思議そうな顔をする。

「新入りに強烈なインパクトを残すのは、刑務所モノでは鉄板ですからね」

 ヌーナンは古くからこの島にいるので、メビーの暴力をよく知っていたが、まだ着任して三年ほどのキャラヘンには理解しがたい出来事のようだった。

「ああ、ヤダヤダ! どんなステレオタイプの看守像だよ! ていうか、鉄板って、どの世界でのお話しなのよ?」

 一気に眠気が吹き飛んだキャラヘンが、興奮気味にタバコを踏み消す。

 彼の足元には、すでに十本以上の吸い殻が転がっていた。


 キャラヘンは残りの作業を部下たちに任せ、新入りの囚人たちがチェックされているのを観察していた。

 時間が経つと同時に、先ほどのメビーの暴力きっかけで、惹起されていた興奮状態も薄れてきていた。

 手にしたタバコがそのまま指を熱しても、気にならなくなるような、激しい睡魔に見舞われる。

 この退屈な業務からも、あと少し辛抱したら開放される。

 キャラヘンは、このあとやってくる人物を思いだし、必死に睡魔と戦う。


(あの人と会えば、眠気も吹き飛ぶはずなんだよ……)


 まどろみの誘惑に打ち勝とうとするものの、キャラヘンはフラフラと身体を揺らして、今にも睡魔に敗北しそうな感じだった。


「所持品は、この箱に入れていけ!」

「向こうに着いたら、改めて照会を行う!」

「列を乱すな! まっすぐ歩け!」

 メビーの暴力を、間近で見せつけられた新入り囚人たちは、看守たちの命令に従順だった。

 「舐められない」という要素は、こういう職業にとっては必須だった。

 メビーのような粗暴な人物も考え方の違いこそあれど、従事している他の看守たちにとっては、自分たちの仕事がやりやすくなるために、必要不可欠な存在だったのだ。


 港から刑務所に向かうバスに班分けされて、乗り込んでいく新入りの囚人たち。

 三十人以上の人数を、二台のバスに強引に押し込んだ。

「メビーのあの演出に、貴重なバス、使わせるの止めさせられないか? なんで二台も、あの人が私用に使うのよ」

 キャラヘンが新しいタバコを吸いながら、また愚痴をいう。

「キャラヘン副所長がいえないのに、わたしらが、いえるわけないじゃないですか」

 部下の看守が、無茶をいってくるキャラヘンに困惑する。

「ほんと、体裁ばっか気にする男だからなぁ!」

 キャラヘンのメビーへの不満や反感は、自身の疲労度の蓄積に比例するように、ここのところエスカレートしていっていた。

 本人は、態度に示していないからバレていないと思っていそうだが、部下たちにしたらけっこう露骨で、ヒヤヒヤすることも多かったのだ。

 以前はキャラヘンも、メビーには看守の先輩として気を使い、彼のやることにはそれほど不満を口にしなかったのだ。

 互いのテリトリーを重視し、干渉しあわないようにしてうまく均衡が図れていたのだが、最近はそのバランスが微妙に崩れだしてきているのだ。

 特にヌーナンのようなそれなりのベテラン看守にすると、著しく表面化してきたふたりの副所長の確執が不安でたまらなかったのだ。


 そんな中、ポツンと麻袋を被った小男が、港にひとり取り残されていたのを発見するキャラヘン。

 黒い燕尾服を着込んで、パーティー帰りのような格好をしている男。

 移送されてきた新入りは、すべてチェックしているのに、彼だけまだ残っていたのだ。

 しかも、全員バスに振り分けて出発を待つ段階だった。

「あのちっこいのは、なんなんだい?」

 キャラヘンが眠い目をこすりながら、麻袋を被った小さい男を指差す。

「どうも、おかしいんですよね……」

 ヌーナンが小男と船を交互に見て、首をかしげる。


「何がだい?」

「いや、さっきまで、付き添っていた男がいたんですが……。あとで話すといったきり、船に戻って帰ってこないんですよ」

 キャラヘンの質問にヌーナンは答え、妙に辛気臭い男との会話を思いだした。

 たまに現れるエンドール王国の刑吏の男で、とにかく「印象が悪い」という一点で、強く印象に残っていた人物だった。

「なんだそりゃぁ? リストにあるから、連行されて来たんだろ?」

「いや、それが……、リストにも載っていないらしくて」

 キャラヘンとヌーナンがそんな会話をしたあと、互いに顔を見合わす。


「まさか……」

 キャラヘンとヌーナンが、異口同音に発する。

 チラリと、麻袋を被せられている小さな男を眺める。

 そこに、事務所から出てきた事務員がやってくる。

「そういやキャラヘン副所長、彼はなんなんですか? なんか、さっきから気にはなってたんですが……」

 事務員は麻袋を被され、ひとり取り残されてる燕尾服を着た小男を指差す。

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