5 アーティファクト
ドーンと爆音が胸を叩いた。
気づけば、私は土砂にまじって宙を舞っていた。
きりもみしながら砂山に突っ込み、パイに刺さったニシンのような気分を味わった。
砂の中で身をよじって振り返ると、六角形の横穴が並ぶ壁の一角に大穴が穿たれているのが見えた。
引き金を引いたら、これだ。
チカッ、と光ってドーンでガラガラ、ゴシャアア。
私はぴゅー、でズボッ! ――だ。
あまりのことに語彙力が終わっている。
水を出す魔道具?
冗談じゃない。
これ、武器だ。
大砲だ。
しかもめちゃめちゃ強力なヤツだ。
ふたたび砂まみれとなった私の手の中では、ラッパ状に展開された謎ブロック砲がイィィィィンンと震えている。
空気が揺らめいているのを見るに、どうも放熱中らしい。
『残……2。環き……ネルギ、の自……填をか、始し、す。満充填、で残……8、間、す』
例の脳内アナウンスの後、側面に刻まれていた光の線が3本から2本になった。
残弾数ってところか。
それも、時間経過で回復すると見た。
満充填もいいが、私は饅頭を食べたい気分だよ。
砂山に寝そべって謎ブロック砲を観察してみる。
魔道具には間違いないだろうね。
魔力が濃いダンジョンでは道具に特別な力が宿ることがあるらしい。
でも、これは自然に生まれたものというより、どう見ても作られたものだね。
俗に、『古代の遺物』とか呼ばれる代物だろうか。
アーティファクトは魔道具の中でも性能が頭3つは抜きん出ていると聞いたことがある。
国宝に指定されているものも多いんだよね。
未来を映し出す『アン・ト・マルギーの未来鏡』や永遠の若さを与えるという『久遠の石棺』なんかは有名どころだ。
岩壁を一撃で粉砕したばかりか、おしゃべりまでできちゃうのだから、これもアーティファクトと見て間違いないだろう。
地上に持って帰れば高値がつくんだろうな。
は……っ!
冒険者たちに狙われるかも。
これは、非力な私が持てる唯一の牙だ。
肌身離さず持ち歩くことにしよう。
「お前、元の形に戻れたりする?」
『――、ッ……、ザザ――』
およそ聞き取れない返事のあとで変形が始まり、元のブロック形状に戻った。
コンパクトになった上に、軽くなった。
質量保存の法則に一石を投じそうだな。
とりあえず、ガルスの大砲だから、ガルス砲とでも名付けるか。
うっかり変なボタンに触って暴発されても困るので、遺物いじりはここまでだ。
私はガルス砲の命中箇所に目を向けた。
崩れた壁の奥には、別の空間があるようだ。
瓦礫を乗り越えて覗き込んでみると、またしても六角形が整然と並んだ壁があった。
その奥にも壁。
さらにその奥にも壁が等間隔で続いている。
蜂の巣箱の中がちょうどこんな感じだ。
ここまで大きくはないけどね。
ところどころ蜜が残されているが、蜂の姿はない。
立派な巣なのに、どうして放棄してしまったのだろう?
その答えは、巣穴の一番奥で見つかった。
温泉が湧いていた。
ボコボコと煮え立ちながら、もうもうと白煙を噴き上げている。
下にある『溶炎の祭祀場』で熱された水脈がここに湧き出しているのだろう。
さしものドラド・ホーネットたちも巣ごと蒸されてはひとたまりもない。
放棄せざるをえなかったというわけか。
とにもかくにも、水場ゲットだ。
それも、安全地帯の一番奥というおあつらえ向きな場所だ。
煮沸済みというのも実に都合がいい。
泥水をすするのは衛生的にもアレだが、領主令嬢という絵ヅラにも傷がつきそうだからね。
どれ、飲めるかどうか確かめてみるか。
ガルスの銀製カップで掬ってフーフーしてから舌の上で湯を転がしてみた。
柔らかな舌触りだ。
臭みはないし、イガイガもしない。
飲めそうだな。
もしかしたら、変な成分が混じっているかもしれないが、飲まなければどうせ死ぬ。
体調がおかしくなったら、そのとき考えるか。
砂まみれだから湯にも浸かりたいところだけど、さすがに熱すぎるね。
危険なダンジョンの奥底で素っ裸になるのも気が引ける。
贅沢は言うまい。
飲めれば十分さ。
「ここを『蜜の湯』と名づけます!」
誰というでもなく宣言して、マーキングの代わり石を積み上げておいた。
当面ここは私だけの秘湯とさせてもらおう。
命の源泉だからね。
誰かにとられたら大変だ。
さあ、次は食料だな。
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