32 凱旋
魔結晶か。
すごい爆発だった。
どうやら爆風で結界は吹き飛んだらしく、その後に押し寄せてきた土砂の濁流にもみくちゃにされて、気づけば私は大根みたいに土の中に埋もれていた。
這い出して辺りを確認。
マッカスとジーナのパーティーは全員無事。
おのおの自嘲気味に笑いながら、軽く手を振ってくれた。
ウルスは白髪が土砂で茶色くなっていたが、怪我はなさそうだ。
頑丈さが取り柄のシャイナも元気なものだった。
怯えきって震えていたけどね。
最後に逆立ち状態で埋もれていたライオを引っ張り出して、これで全員の無事が確認された。
「えらい目に遭った。ぺぺ……ッ。口の中まで土だらけだ。ナインについていくと命がいくつあっても足りそうにないな」
ライオの悪態に半分くらいのメンツが首を縦に振っていた。
私をトラブルメーカーみたいに言わないでくれ。
どっちかと言うと、解決を迫られるタイプだ。
「スカロ・シェルは?」
爆風で天井が落ちてきたらしい。
地形がだいぶ変わっていた。
スカロ・シェルも埋もれてしまったようだ。
小山ができている。
「やったのか?」
ライオが妙なフラグを立てたので、非難の目が集まっていた。
でも、いくら待ってもスカロ・シェルが姿を現すことはなかった。
マッカスが剣を納めた。
「嬢ちゃんが殻を破ったからなァ」
「だねぇ。中身は剣で簡単に斬れちまうくらい柔らかかったから、あの爆風でイチコロさね」
ジーナも脚が伸びきっている。
「よしんば生き残っても土砂の重みには耐えられやしないよ」
どうやら、そうらしい。
土砂の山から黒い水が噴き出している
血だろう。
死んだのだ、第5階層の主は。
階層主、初めての討伐だ。
きっと王国の冒険史に残る大快挙に違いない。
私はへなへなと座り込んだ。
疲れた。
ガッツポーズする気にはならないね……。
みんな同じ想いだったらしく、歩き疲れた子供みたいにしゃがみ込んでしまった。
「知ってるかァ、嬢ちゃん」
マッカスがあごヒゲを愛でながら、ニヤニヤしている。
「階層主にも世代交代があってなァ、前の主を倒した奴が新しい主になるんだぜ?」
じゃあ、なにか?
「私たちは第5階層の階層主になったってこと?」
「何が私たちだ。お前が、だろ」
ライオはぶすーっとしていた。
まだ、剣を投げた件を根に持っているらしい。
「階層主になったナインさんも素敵です」
ウルスはというと、私を全肯定する姿勢を貫徹していた。
「ななナインさんはぁ、小さいのにすっごぉいですぅー!」
ありがとう、シャイナ。
でも、標準サイズだ。
冒険者は基本デカイから、この中じゃ一番小さいけどね。
「帰ろっか」
私はよろっと立ち上がった。
道の駅でみんなが待っている。
最高の報告ができそうだ。
◇
重い足取りで道の駅に戻ると、バリケードの向こう側で冒険者たちが首を長くしていた。
状況を説明するのも面倒なので、とりあえず、満面の笑みで親指を立てておいた。
そしたら、大歓声が轟いた。
冒険者たちが次々にバリケードを飛び越えて迎えに出てくる。
飛び越えられるバリケードって……。
と思いつつも、英雄の凱旋っぽさを私たちは味わった。
「心配は要らんかったようじゃのう。わしの鍛えた剣は活躍したかの?」
ベナッフは自分で作ったらしい鎧に身を包んでいた。
駅が襲撃に遭ったら戦おうとしていたのだろうか。
へっぴり腰であまり強そうではないけど、剣の斬れ味は先刻承知済みだ。
意外と活躍するかもね。
「役に立ったよ。ベナッフが磨き上げた剣でトドメを刺したんだ。仇討ちになったと思う」
そう報告すると、ベナッフは目を潤ませた。
護衛をしてくれた若い冒険者たちに思いを馳せているのだと思う。
「そうか。礼を言うぞ、ナインよ」
タコまみれのゴツゴツした手が私の手を握り締めた。
「そう! そこで、ナインが剣を投げたんだ! 俺の剣をな! 俺の剣で魔結晶を割って、それで巨大な爆発が――」
ライオはシャイナに肩車されて武勇伝を吹聴している。
剣を投げられて不貞腐れるのは、もうやめにしたようだ。
「「ナイン! ナイン! ナイン! ナイン!」」
ライオのせいで、冒険者たちがコールを始めてしまった。
仕方ないね。
応えてやるか。
私は大広間で一番大きな岩の上によじ登って、拳を突き上げた。
「階層主は私が討伐した! 明日からも道の駅『蜂の巣箱』をよろしくっ!」
わああああああ、と今日一番の盛り上がりだ。
ウルスがなぜか私を見上げて泣いている。
なんだそのお嬢様の成長に感極まる往年の執事みたいな顔は。
もう、あんたはずっと私の執事をしていなさい。
ともかくだ。
明日からも道の駅は賑やかに続いていきそうだ。
いいことだね。
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