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31 最後の一投


 粉々になった貝殻の破片が雨となって降ってくる。

 ジーナとウルスが結界魔法を張ったが、破魔の力を持った破片は難なく貫通した。

 シャイナが大盾で守ってくれなければ大怪我していただろう。

 切羽詰っていたとはいえ、もう少し考えて撃てばよかったな。


 貝殻を砕かれたスカロ・シェルは骨格を失ってしまったように、ぐでぇ……、と流れ出している。

 階層主でも軟体動物の宿命は免れないのか。


 触手の嵐は収まった。

 一安心ってことで、いい?


 さて、と。

 私は自分に注がれた無言の眼差しと向き合うことにした。


「なに?」


「なに? じゃないだろ!」


 ライオが怒った猿みたいに突っ走ってくる。

 一直線に。

 スカロ・シェルに背を向けながら。

 無用心な奴だ。


「ナイン、確認だ。スカロ・シェルの殻が突然ぶっ壊れたが、お前がやったのか?」


「そうだけど」


「その手に持っている物騒なものはなんだ?」


 物騒なものとは、ガルス砲のことだ。

 目下、蜂の羽音のような音を立てて放熱中である。

 物騒さが際立っているね。


「アーティファクトかな。実は、私もよくわからないんだ」


 と正直に答える。

 ガルス砲は、魔力の砲弾を飛ばす武器だ。

 でも、魔法とは少し違うらしい。

 魔法を雨粒のように弾いたスカロ・シェルの貝殻にも有効打を与えられたからね。

 敵に合わせて砲弾の特性を変えることができるのだろう。

 私にわかるのは、それだけだ。


 なんだ、ライオ?

 私が秘密兵器を隠し持っていたことを咎めるつもりか?

 そういう目をしているぞ。

 能ある鷹は爪を隠すものなんだ。

 自慢げに剣を見せびらかす君とは違うのだよ、私は。


「フッハ。道の駅の次は古代文明の遺物か。お前は人を驚かせるのがうまいな」


「僕は驚きません。ナインさんはそういう人だ。それに、綺麗な花にはトゲがあるものです」


 処置なしと肩をすくめるライオの横から、ウルスが純朴な子羊みたいな目を私に向けてくる。


「オレは驚いた口だぜェ? お荷物の嬢ちゃんを抱えてどうすりゃ逃げられっか考えていたのによォ――」


「そのナインがスカロ・シェルの野郎をノックダウンさせちまったんだからねぇ」


 マッカスの言葉を継いでジーナがため息まじりに言った。

 私も驚いたよ。

 このダンジョンで一番トロい私が階層主のド頭をカチ割ったんだからね。


「で、どうするんだ? このタコ」


 一息ついたところで、ライオが剣をスカロ・シェルに向けた。

 ぐでぇ……、とした巨体には若干の可愛さが感じられる。

 でも、腐っても階層主だ。

 触手を伸ばして散らばった貝殻をかき集めている。

 まさかとは思うけど、再生できるのか?

 なら、その前に決着をつけないと。


「シャイナ、スカロ・シェルの弱点ってわかる?」


「ええっとぉ、食材のスカロ・シェルと弱点が同じならぁ、水管の根元に脳があるはずですぅ」


 シャイナは大きな体をおっかなびっくり縮めて教えてくれた。

 水管の根元ね。

 了解だ。

 残弾数は1。

 これで、トドメを刺させてもらおう。


 私はガルス砲をぶっ放した。

 ほぼ同じタイミングでありったけの触手が水管の前に立ちはだかった。

 触手の束が肉片を飛び散らせる。

 しくじった。

 水管は無傷だ。


 ズォォォォ……。


 スカロ・シェルは短くなった触手を体に巻きつけて、水管を抱え込んだ。

 これでは手が出せない。

 私も弾切れだ。


「マッカス、ジーナ。なんとかなりそう?」


「いやァ、剣じゃどう足掻いてもなァ。ゾウの腹を縫い針で刺すようなもんだぜ」


「アタシも魔力切れが近いよ。お手上げさね」


 ここまできて、膠着状態か。

 決着をつけるなら、鎧が崩れた今しかないのだが。

 一度退いて応援を呼ぶか?

 でも、目を離した隙に逃げられると後が怖い。

 何か手はないか……。


 そう思って辺りを見渡すと、場違いなくらい燦然と輝くものに自然と目がいった。

 魔結晶だ。

 ライオが見つけた特大のやつ。

 マッカスの言葉が私の耳に蘇った。


『気ィつけろよ。魔結晶は高密度魔力の塊だァ。亀裂でも入れようものなら、ここいら一帯吹き飛ぶぞォ』


 なんだ、あるじゃないか。

 おあつらえ向きな爆薬が。

 それも、スカロ・シェルのちょうど足元に。


「ま、待った……! ナイン、お前なに考えてるんだ!?」


 ライオが焦った顔をする。

 あれでトドメをだな……。


「いや、ダメだろ! あんなにデカイ魔結晶を見たことあるか!? 売れば一生どころか孫の代まで遊んで暮らせるんだぞ!?」


 それが?

 ここから出られない私には関係ないね。

 だいたい、あんなに大きなものを持ち帰れるわけがない。

 だったら、ここで使ってしまうべきだ。


「で、でもなぁ……」


 ライオの奴、お宝に目がくらんでいるな。

 命あっての物種だ。

 生きてりゃもっと手頃な魔結晶が手に入るだろうよ。

 そら、その剣よこせ。


「剣をか? ほらよ、何に使うんだ?」


「亀裂が入れば爆発するんでしょう? これを投げて魔結晶に刺す」


 ライオの整った顔立ちがいびつに歪んだ。


「いやいやいや……! これは、あのベナッフさんが磨き上げてくれた俺の名剣で……! もっと他に手があるだろ? 魔法とかさ」


 ないね。

 ジーナとウルスには魔力を全部使って結界を作ってもらうつもりだ。

 爆風を防ぐためにね。

 あんたの剣以外に魔結晶を割る手段はないんだよ。


 その旨、告げると、ライオはたった一つの玩具を取り上げられた子供みたいな顔をした。

 あとひと押しで泣き出しそう。

 無事に生還できたら、ベナッフにイチから剣を作ってもらうといい。

 私からもお願いしておこう。


「ナイン、結界の準備はオーケーだよ」


「やっちまえ! 嬢ちゃん!」


「ナインさん! 決めてください!」


「がが頑張れぇぇ! ナインさぁぁん!」


「フッハ、ハハ……」


 声援を背中で受けながら、私は全力で腕を振り抜いた。

 放物線を描いて剣が飛ぶ。

 一路、魔結晶を目指して。


 私は背を向けて結界に走った。

 地面に伏せると、シャイナが私に覆いかぶさって、そして……。


 キン――。


 硬質な音が聞こえてきた。

 その直後、私は大地をひっくり返したような衝撃に呑み込まれたのだった。


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