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29 崩落地点


 崩落現場に到着した。

 ずいぶんと広い場所だった。

 天井がかなり上のほうに見えている。

 長いこと狭い洞窟を這うようにして進んできたから、急に広いところに出ると目が回るね。


「トンネルみたいなところだね」


 私は見たままをつぶやいた。

 とんでもなく巨大なトンネルで、ずっと遠くのほうまで続いている。

 果ては見えない。

 まさに巨大怪獣が掘り進めてきたって感じだ。


 でも、それらしき魔物の姿はない。

 ときおり、土砂がバラバラと降ってくる以外は静かなものだった。


「階層主は見当たらないな」


 ライオが注意深く周囲を見渡した上でそう言う。

 地面には土砂が堆積しているが、足跡らしきものは見られない。

 大きな何かが這いずった跡もだ。

 でも、油断はできない。

 雪が足跡を隠すのと同じだ。

 土砂に埋もれているだけかもしれない。


「とぉっても広ぉいところですぅ。でもぉ、ここがトンネルの一番端っこみたいですねぇ」


 シャイナの可愛い声が反響している。

 たしかに、そうみたいだ。

 トンネルの片側は行き止まりになっている。


 地図で確認してみると、


「ここを掘り進めた先にちょうど道の駅があるね」


 わかっちゃいたが、ショックは大きい。

 硬い地盤に巨大なトンネルを掘るような奴が真っ直ぐ道の駅を目指しているんだからね。

 しかも、そいつの姿は見えないときた。


「ワンチャン、自然現象ってことないよね?」


 一縷の希望にかけて誰となく訊いてみた。


「そいつァねえな」


 天井から声が降ってきた。

 人も降ってきた。

 ロープをスルスルと伝う感じでだ。

 マッカスだった。

 彼のパーティーメンバーも一緒だ。


「獣臭がするだろォ?」


 たしかに。

 腐ったヘドロみたいな臭いがする。


「四足獣の匂いじゃねえなァ。ドラゴンとも違う。嗅いだことがあるような、ねえような……」


 マッカスは鼻の上にシワを作って首をひねっている。

 私も同じだ。

 どこかで嗅いだことがある気がする。

 そうだ。

 風呂に入ってない間の、私の脇がこんな臭いを放っていたっけ。


「ナイン、無事だったかい?」


 ジーナたちもやってきた。

 これで全員集合だな。


「階層主はいないみたいだねぇ。崩落音を聞いてすっ飛んできたから姿を隠す暇はなかったと思うんだけどねぇ」


「だなァ。これほどのトンネルを掘っちまう奴だ。相当な大きさに違いねえ。だが、そんなデカブツが動けばオレに察知できねえはずがねえ」


 マッカスは地面に耳をつけながら、まだ近くにいそうなものだがなァ、とボヤいた。


「姿を消す魔物とか?」


 私がなんとなく放ったその言葉で、緊張が走った。

 私たちに見えていないだけで、すぐそばに反り立つ壁のような巨大生物がいるのかも。


「……いや、それもねえなァ。音の響き具合にも風の流れにも違和感はねえ」


「それすらも自在に操る魔物だってんなら、アタシらにはお手上げだけどねぇ」


 いるはずの巨大生物がいない。

 臭いだけ残して消えてしまった。

 さすがのベテラン二人も首をかしげるばかりだ。

 このカラクリを素人の私が考えても答えは出そうもない。


「おーい、ナイン! ここにとんでもない魔結晶があるぞ!」


 ライオが土砂の山のてっぺんで手を振っている。

 猿山の猿なのかな?

 お気楽な奴め、と思ったが、――わおっ!

 本当だ。

 ライオが小猿に見えるくらい大きな結晶がある。

よく見れば、土砂にまじって魔石があっちにもこっちにも!

 ロマンチックに言えば、宝石のお花畑だ。

 土中に埋もれていた魔石が崩れた拍子に芽を出したんだな。


 ライオは目を金貨みたいに輝かせて巨大結晶に頬ずりしている。

 道中せっせと集めた貴鉱石類は落石で粉々になってしまったからね。

 お宝に飢えているのだろう。


 あれ、いくらになるんだろう?

 地上まで持って帰れるサイズではないってことだけは確かだ。


「気ィつけろよ。魔結晶は高密度魔力の塊だァ。亀裂でも入れようものなら、ここいら一帯吹き飛ぶぞォ」


 マッカスの口から恐ろしい情報が飛び出した。

 巨大な爆薬みたいなものか。

 もしかして、これが連鎖爆発してトンネルができたとか?


「ライオさん、危ないですよ」


 同じことを思ったらしく、ウルスが猿山をよじ登って小猿の襟首を掴んだ。

 キャッキャするお猿二人に踏み荒らされた砂利が転がり落ちてくる。


 いてっ。


 拳大の魔石が私のつま先にぶつかって止まった。

 ……いや、止まってはいないな。

 カタカタと揺れている。

 なんだ?


「おい、揺れてるぞォ!!」


 マッカスが切羽詰まった声で警戒を促した。

 ドン、と下から突き上げるように大きく揺れた。

 気のせいか、猿山がひとまわり高くなった気がする。

 斜面を滑り落ちる土砂の波に乗る形で小猿二人が戻ってきた。


「何やってんだ、ナイン! ボサっとするな!」


「走って! ナインさん!」


 ライオが私の背を押し、ウルスが手を取った。

 一番ボサっとしていたのはあんただろ、と突っ込みたいところだけど、……うわわ!?

 揺れが一段と激しくなる。


「下に何かいるみたいだよ!」


 ジーナがそう言い終わらぬうちに、地面が隆起した。

 土砂を四方にぶちまけながら、何かがせり上がってくる。

 クジラなんて可愛いほうだ。

 もっとデカイ。


「自重で土砂に沈んでいたんだ……」


 私の声は轟音でかき消された。

 砂煙の向こう側で何か細長いものがしなっている。

 タコの触腕みたいな。

 押し寄せてくるヘドロ臭で私はむせ返った。

 なんだ、こいつは!?


「ジーナ、砂煙を吹き飛ばせる?」


「あいよッ!」


 ジーナが杖をぶん回すと、一陣の風が砂煙を払った。

 一気に視界が開ける。

 私は目を見開いた。


「……」


 大きな顔と目が合った。

 奈落の入口みたいな二つの大穴が私を見下ろしている。

 顔には表皮がなかった。

 まるで、巨人の頭蓋骨だ。


 顔は一つではなかった。

 無数にある。

 おびただしい数の頭蓋骨が集まって一つの巨大な顔を作っているのだ。


 顔の穴という穴から触手が伸びているのを見て、私は強烈な既視感に見舞われた。

 あれと同じものを見たことがある。

 このヘドロのような臭いにも覚えがある。

 なんだっけ。


「……そうだ」


 どこで嗅いだのか思い出した。

『蜜の湯』だ。

 水たまりに集まった、砂抜き前のあいつらが同じ臭いを漂わせていた。

 ガルスがクソの味と評したあいつらがだ。

 頭蓋骨も触手も特徴が一致している。

 それに、道の駅を目指している理由にも納得がいく。

 あいつらには魔力の濃い水場に集まる習性があるから。

 大きすぎて気づくのが遅れたが、間違いない。


 私は、ぽつりとつぶやいた。


「こいつ、頭蓋貝スカロ・シェルだ」


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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