27 調査開始
崩落地点の並びからアタリをつけて、3つのルートから調査することになった。
調査期間は3日を想定。
手がかりを掴み次第、道の駅に戻ってくる予定となっている。
ライオとウルスの猛烈な働きかけもあり、私はライオパーティーに同行することとなった。
もちろん、ガルス砲は持っていく。
いざとなったら、こいつでドカンだ。
出発の朝、冒険者たちが大広間に集結した。
頼むぞー、とか、頑張ってこい、とか口々に声をかけられたので少し胸が熱くなる。
出発前にシャイナが料理の山を作り置きしたから、中には手に皿を持って見送りにきたアホな奴もいたけどな。
道の駅存亡の危機ぞ。
わかっているのかね、ホントに。
「それじゃ出発だ!」
大音声に送り出されながら道の駅を出る。
ここから最長3日間、風呂なしか。
毎日2回入っていた私としては苦難の船出だった。
ま、生きていれば何度でも風呂を拝める。
せいぜい死なないように気をつけますか。
「ナインさん、僕のそばを離れないで」
「いや、俺だろ。ウルスは斥候でもやってろ。どこか遠くでな」
「ライオさんこそ後衛でもやってください」
「なんだと!」
10秒と経たずに喧嘩勃発。
大丈夫か、このパーティー。
間を取ってシャイナが私のガードマンとなった。
「うひぃぃ……。ライオさんたちが睨んできまぁすぅ……」
ホントだねぇ。
駅長の護衛役なんて大したポストじゃないだろうに。
取り合うほどのものかね。
「そいじゃ、アタシらはこっちだよ」
「気ィつけるんだぞ! 嬢ちゃんたち!」
駅を出て最初の三叉路でジーナ隊とマッカス隊とはお別れとなった。
「二人も気をつけてね」
魔物がいないのでは、何に気をつければいいのかわからないけどね。
そんなことを思った私はやはりダンジョンを舐めていたらしい。
『勇者の果て地』第5階層『しじまの大迷窟』はまさに迷宮そのものだった。
数歩進むごとに横穴が真っ黒な口を開けている。
分かれ道、分かれ道、また分かれ道。
私の大したことない記憶力は一瞬にして限界を迎え、ここがどこだか完全にわからなくなってしまった。
ガルスの地図を開いてみるも、ダメだ。
どこ、ここ?
すでに道の駅の方角すらわからないのだが。
「大丈夫ですよ、ナインさん」
なにがだい、ウルスくん。
「僕らも現在地はまったくわかりませんから」
いや、それ大丈夫じゃないヤツ。
「場所はわからなくてもいいんだよ。ルートを外れなければ元の場所に戻れるからな」
ライオが光の魔石で地面を照らした。
そこには、おびただしい数の靴跡があった。
「冒険者が何度も何度も通った場所はこうして踏み固められているんだ。横穴を覗いてみろ」
ふむ、たしかに。
あんまり踏まれてないから、土が柔らかそうだし雑草もうっすら生えている。
「この階層にルートを作ったジーナさんはすげえよな」
まったくその通りだ。
姉御すげえよ。
さすが私の姉御だな。
魔物がいないという話は本当だったようで、何時間か歩いてみたけど道中ネズミの影すら見られなかった。
おかげで、ダンジョンウォークを楽しむことができた。
「この天井から生えている尖ったものは、なに?」
「それはぁ、『ツララ茸』ですぅ。動物が下を通るとぉ、落ちてきて突き刺さってぇ寄生してしまうんですよぅ」
その割には、シャイナは気安くツンツンしている。
寄生されちゃわない?
「まだ、成熟していないのでぇ大丈夫ですよぅ。炒めたらモヤシみたいで美味しいんですぅ」
なら、収穫して後で食べるのもアリだね。
シャイナは鉄鍋を持ってきていることだし。
「こっちのはなに?」
私は壁に生えた青い結晶を遠巻きに観察した。
根元に何かいるような。
4つ脚の虫みたいなやつだ。
「それは、『虫輝石』です。虫の亡骸を種にして結晶が生成されているのですよ。まだ小さいようだけど、大きくなればそれなりの値がつきますよ」
と、ウルス。
なぜ虫なんだろうね。
お花とかじゃダメなのか。
こんなものに、身銭を切る奴はいい趣味している。
「おしゃべりはそこまでだ」
ライオが人差し指を立ててシッ、と短い息を吐き出した。
チャカ、チャチャ――。
何か音がする。
鎧が擦れるような音。
ヒタヒタという足音も一緒だ。
ライオが松明代わりに使っていた光の魔石を地面に置くと、薄暗闇が訪れた。
剣を抜く静かな音に合わせて、緊張が場に満ちる。
私はガルス砲に手をかけた。
「…………」
「………………」
「……」
息をするのにも許可が要りそうな静けさだ。
たぶん、魔物だよね。
人の足音よりは軽いもの。
やはりと言うべきか、横穴から姿を現したのはゴブリンだった。
3頭いる。
手に手に荷物を抱え、背中には背嚢。
なんというか、お引越しの真っ最中と言わんばかりの絵ヅラだった。
「たァ――ッ!!」
軽い掛け声とともにライオが斬りかかった。
ひゅん、と風切り音がしてゴブリンの首と胴が分離する。
間髪入れずに、ウルスの杖が光った。
石のつぶてが飛んでいき、寸分の狂いもなくゴブリンの額に突き刺さる。
パニックを起こして逃げ出した最後の1頭は、
「ふぇぇぇぇえええいいっ!!」
シャイナの大盾に行く手を阻まれ、振り下ろされた斧で真っ二つの憂き目に遭った。
剣士のライオがアタッカー。
シャイナがタンクで、魔術師のウルスが後衛ってところか。
素人目には卓越した連携だった。
見直したよ。
特に、ライオは普段がアレな分、株の上がり方も大きい。
「俺の前に出てきたのが運の尽きだな」
そのライオは、なぜか私の顔をチラ見していた。
前髪を払ってキラキラを散らせながらだ。
褒めてほしいの?
また少し株を下げたね。
「こいつら、危険を察して引っ越しているってところかな?」
「だな。やっぱり、ここら辺に危険が迫っているらしい」
ライオは悪びれるでもなく、戦利品を漁っている。
何かいいものあった?
「フッハ。ルスト銀水晶の剣が出てきたぜ。地上のゴブリンは黒曜石なんだけどな。第5階層はモノが違うな。……おっと、今はロスガ銀水晶だったか」
言い直すな。
私が傷つくだろ。
そんな感じで初日の調査は何も得ることなく終了した。
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