26 食堂会議
マッカスとジーナ、そのほかにも道の駅に滞在する主だった冒険者たちを食堂に集めた。
昼飯を食いっぱぐれた連中が外で不満を漏らしているが、それどころじゃない。
「もしかしたら、階層主が襲来するかもしれないんだ。この道の駅に」
私の言葉で、半分くらいのメンツはポカーンとしていた。
しかし、5つの崩落地点を書き込んだ地図を見せると顔色が一変した。
「先日、ここが崩れたわね」
「この辺もごっそり崩れてんぜ?」
「たしか、ここもだな」
新しいバッテンが次々に書き込まれていく。
それは、すべて一直線に並んでいた。
「こりゃ確定だなァ」
「崩落地点が日毎に近づいているねぇ。道の駅にさ」
マッカスはあごヒゲをジョリリと撫で、ジーナは難しい顔で腕を組んでいる。
そして、重い沈黙が訪れた。
押し黙っていても埒が明かないので、話を進めさせてもらおう。
まずは、確認だ。
「魔物が急にいなくなったんだってね」
「ああ。道の駅の周辺とバッテンが並んでいるあたりは特になァ」
「もともと魔物が少ない階層だけどねぇ、それにしたって影も形も見当たらないのさ」
こんなことは初めてだよ、とジーナがこぼすと、同意の声が多数上がった。
同じ魔物でもスカロ・シェルたちは元気に大行進を続けているんだけどね。
もはや貝料理は道の駅の名物料理になっている。
シャイナの腕がいいのもあるけど、運がよければ真珠が出てくるから冒険者たちに大人気なのだ。
いや、んなこたぁどうでもいい。
私はこう結論した。
「おそらく、近日中に階層主がここを襲うだろうね」
確証はないけど、確信はある。
状況証拠もばっちりだ。
異論はないようだった。
みんな無言で頷いている。
大変だ。
道の駅に大怪獣接近中だ。
「いざとなったら、みんなは地上に逃げて」
私はなるべく平坦な声で言った。
ウルスが椅子を蹴って立ち上がった。
「ナインさんはどうするのです?」
「私はここを離れられないからね。道の駅と運命をともにする感じになるかな」
そう言うと、なぜか冒険者たちが熱く昂ぶった。
「道の駅を守るために戦うなんて、さっすがナインさんだ」
「駅長の鑑だぜ」
「私らも負けてられないね! やってやろうじゃないの!」
「「おおおおおおおおおおッ!!」」
なになに?
あんたたち、階層主とやり合うつもりなの?
私は雑魚だからここから出られないってだけで、別に船とともに沈む船長みたいなノリではないよ?
ただのカナヅチ船長だ。
泳げる諸君は降りてヨシ。
「僕もナインさんのそばで戦います! この命はナインさんに救ってもらったものだ!」
ウルスが忠義の騎士みたいな顔をしている。
その隣でライオもなんか言っているが、まあ、たいしたことではないだろう。
聞き流すか。
「ナインが残るってんなら仕方ないねぇ。アタシも命をかけさせてもらうよ。それに、ここはもうアタシらの家みたいなものだからねぇ」
ジーナの姉御参戦で食堂が沸きに沸いている。
ただ、マッカスだけは険しい表情で下を向いていた。
「未だに階層主を討伐した前例はねえ」
そのたった一言で盛り上がっていた面々が静まり返った。
訊いてみよう。
「たしか、マッカスは第2階層の階層主を撃退したことがあるんだよね?」
「まあなァ。撃退がやっとだった。それによォ、階層が一つ違うだけで階層主も別格になるものなのさ。第5階層の主ともなると想像もできねえよ」
煮え切らない奴だねぇ、とジーナが肘鉄を食らわせた。
「アンタもわかってんだろ? ここが失われることの意味は」
「そりゃわかってるさ。ここは、深層攻略に欠かせねえ中継拠点だァ。何十人死んでも死守する価値はある。けどよォ、相手が相手だろうがァ。ジーナ、お前さんにゃ階層主とやり合うプランがあんのか?」
中堅の顔役たる二人がいがみ合うものだから、重たい空気になってきた。
こういうときに音頭を取るのも駅長の役目だ。
「ま、あれだね。戦うも何も敵の正体すらわからないんじゃ始まらないよね」
私はポンと手を打って空気を入れ替えた。
「まずは、調査隊を派遣しよう!」
崩落地点を調査し、可能なら階層主の正体を突き止める。
ただの自然現象で、階層主なんていませんでしたってのが最高の調査結果だ。
「3つの部隊を編成しよう。マッカスとジーナのパーティー、それからライオのパーティーね。そのほかの面々は、道の駅の防御を固めてくれ」
そして、私はこう告げた。
「もちろん、私も調査に同行するよ」
よっ、『首狩りナイン』ッ! と冒険者たちがはやし立ててくる。
一方、私が雑魚であることを知っているメンツからは大丈夫かよお前って顔をされた。
仕方ないでしょう?
こういうとき、言いだしっぺが先頭に立たないと士気に関わるからね。
非常事態だからこそリーダーの資質が問われるのだ。
それに、魔物はいなくなったんでしょう?
魔物がいないなら、ダンジョンなんてただの薄暗い洞窟だ。
へそ出して寝ていても死にゃしないだろう。
私としても道の駅から出るまたとないチャンスだ。
道の駅が潰れる事態になれば、私はどの道、安全地帯の外に出なければならなくなる。
その予行演習とでも思って同行させてもらうよ。
ということで、調査に出ることとなった。
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