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24 武具屋・開店


 ベナッフの武具屋がオープンした。

 初日から大行列ができていた。

 冒険者たちはみんな自分の武器に誇りを持っているからね。

 一流の職人に見てもらいたいのだろう。

 ベナッフを無慈悲に吊るし上げたマッカスまでもが喜々として並んでいたのは少し笑えた。


「剣の振り方がなっておらんな。力みすぎておる。もっと剣を信じてやれ。勢いに任せて斬るのではない。重さを活かして斬るのじゃ」


 ダメだしの嵐をくらって辟易としていたマッカスだったが、研ぎ直してもらった剣が岩をバターみたいにスライスすると飲んだときよりも顔を紅潮させていた。


「今なら階層主が束になって襲いかかってきても怖かねえぜェ!!」


 だってさ。

 ガキだね。


 しかし、剣を一目見ただけで使い手の癖までわかるのだから、さすが王国随一の武具職人だ。

 ちょっと仕事の様子を見学させてもらおう。

 と興味本位で覗いたら、驚きの連続だった。


 ベナッフがカナヅチを振るたびに、魔力の火花が虹色のシャワーとなって飛び散った。

 真っ二つに折れた剣をガツーン、と叩けば折れた骨が繋がるようにして元通り。

 のこぎりみたいに欠けた刀も滑らかな曲線が嘘みたいに蘇る。


 カナヅチで叩いたところが赤熱している。

 炉もないのに、どうやって武具屋をやるのだろうと不思議に思ったけど、なるほどね。


「カナヅチに魔力を込めて叩いているのかー」


「ほう。ぬしは慧眼じゃのう」


 見たままを言ったまでだが、ベナッフは感心したようだった。

 金色にすら見えるカナヅチを手の中でくるりと回すと、


「わしはこれを何百年も振り続けてきた。もはや、これは一種の魔道具というわけじゃな」


 誇らしげにそう言った。

 試しに、サビたスプーンを叩いてもらうと、なぜか新品に生まれ変わって戻ってきた。

 意味不明だな。

 実はただの手品で、新品とすり替えたんだと言われたほうが納得できる。

 でも、このスプーン。

 じんわりと温かくて、まるで生きているみたいだ。


「生きているみたい、か。ふむ。わしはまさしく物に命を宿すつもりでカナヅチを振っておるのじゃ。ぬしは若いのに大した傑物のようじゃな」


 おおおおおッ、と冒険者の間にどよめきが広がった。


「さっすがナインさんだ。あのベナッフさんに認められたぞ」


「私たちなんて説教くらっただけなのにね」


「『首狩りナイン』の名は伊達じゃねえな」


 首狩り言うな。

 てか、あんたたち、全員ダメだしされたのか。

 上位の冒険者たちが雁首揃えて情けない。

 もっと精進なさい。


「ぬしは摩訶不思議なおなごじゃのう」


 ベナッフの紅の瞳が、カーテンみたいな眉毛の奥から興味深そうに見つめてくる。


「冒険者は、身勝手な荒くれ者ばかりじゃ。平等に扱われねば不満ばかりタレるくせに、自分だけは優遇されて然るべきじゃと考えておる。協調性の欠片もない。奴らの手綱を握るのは容易ではなかろう?」


「そうでもないよ」


 みんな、このダンジョンのオアシスを大切にしているからね。

 一歩外に出れば飢えた獣みたいに獰猛な連中だけど、ここでは牙を仕舞ってゆっくり羽を伸ばしているんだ。

 道の駅はみんなの止まり木だ。

 喧嘩なんて起きないよ。

 1日3回くらいしかね。


「どうじゃ? ぬしのために武器を作ってやらんでもないぞ」


 また、おおおおおッ、と沸いた。


「何がよい? 剣か? 刀か? 弓やヌンチャクでも構わんぞ?」


「いらないって」


「なんとぉ!? わしの誘いを断ったのはぬしが初めてじゃわい。ガッハッハ! 気に入ったぞ!」


 なんか気に入られたらしいな。

 ひっくり返りそうなほど仰け反って笑っている。

 落ち込んでいたようだけど、少しは元気が戻ってきたのかな。

 口は厳しいけど、なんだかんだ言って腕利き冒険者たちの武具を仕立てるのが楽しいのかもしれないね。





「ちょっと見てほしいものがあるんだけど」


 ベナッフが長い列を見事にさばききったところで、私はとあるものを彼に差し出した。

 一見するとレンガブロックみたいだけど、光の筋が表面を走り回っている。

 ガルスが持っていた魔道具。

 ガルス砲だ。


「なんじゃ、これは……」


 ベナッフはガルス砲に触れようとして、何かを察したらしくピタリと手を止めた。

 正解だね。

 それは、壁に風穴を穿つ危険物だ。

 私もあれ以来、触っていない。


「これは、たぶんアーティファクトだよ。変形して大砲になる。あと、人の言葉を話していたね」


 ザザザっとノイズまみれで聞き取れなかったけど。

 国一番の天才武具職人なら何かわからないだろうか?


 期待に胸を高鳴らせる私の前で、ベナッフはしげしげとガルス砲を眺め、


「むお!? こ、これは……!」


 と、瞳孔を開いた。

 何かわかったんだね!?


「はて。何もわからん」


 ずこーん。

 ま、アーティファクトとはそういうものだ。

 古代文明が遺した未知のテクノロジー。

 現代の技術では推し量れたものではないよね。


「むぅ。ここまで何もわからんと触るのが恐ろしいのう。触らぬ神に祟りなしじゃ。これぞ、長寿の秘訣ぞ」


 勉強になったよ。

 触るどころか私はこれを抱いて眠っているけどね。

 これは、私が持つ唯一の牙だからね。


 しかし、ベナッフでもわからないのか。

 ガルスは何か知っていたのだろうか。

 もしかしたら、手記帳の日記にヒントが隠されているかもしれないけど、故人とはいえ他人のプライバシーを盗み見るのはねえ。

 もうしばらく、謎は謎のままにしておくか。

 そうしよう。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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