13 バリケードの向こう
冒険者たちの協力もあり、「料亭」がついに完成した。
苦節5日ってところだったな。
あり合わせの寄せ集めで無計画かつ場当たり的に作ったにしては、なかなかの出来栄えな気がする。
立地は大広間の奥。
もともとあったヒョウタン型の横穴を魔法で掘り進めて作ったので、隠れ家的料亭になっている。
中は厨房、酒場、食堂の3区画に分かれていて、一番奥が厨房で入ってすぐが食堂だ。
岩を切り出して作った天板が並ぶ店内を、煌々と光る魔石のオレンジ色が鮮やかに照らしている。
いい味、出てるじゃん。
でも、酒場のほうが客入りよくない?
別にいいけどさ。
すでに冒険者たちの間で道の駅の噂が広がっているらしく、料亭は終日超満員だった。
私としても嬉しかったね。
彼らがもたらすダンジョン食材の数々に舌鼓を打てたからね。
貝柱をクラッカーで挟んで食べるのもいいけど、栄養バランスが気がかりだったんだ。
これからは、いろいろ食べられそうだ。
この際、味には目をつむっておいてやるよ。
「マッカスの奴、酒場に名前をつけてやがったよ、勝手にねぇ。いいのかい、ナイン」
厨房のほうからカニ系魔物の脚を抱えたジーナが呆れ顔でやってきた。
私も1本もらいながら、なんて名前? と問い返す。
うっま、カニ脚うっま!
「バー『オレらの』だってさ」
オレらのって思いっきり占有するつもりだな。
断固却下である。
「名前かぁ」
と私は歯ごたえある白い筋繊維を咀嚼しながら思案する。
考えないとな。
大衆食堂『腹蜂ブン目』。
料理屋『地の底』。
イートイン『HA-TE-CHI』。
どれもしっくりこないな。
もういいや。
お食事処『はちみつ亭』とかにしておこう。
こんなのテキトーでいいのだ。
いい加減な流れのまま、宿屋のほうも『蜂の揺りかご』に決定した。
銭湯はもう決まっている。
『蜜の湯』だ。
「蜜の湯ももうじき完成だよ。ダンジョンで風呂に入れる日が来るなんて夢みたいだねぇ。アタシゃ自宅にも風呂場なんてないからね」
家風呂ができるのはルスト領じゃ一部の上流階級だけだからね。
「アンタには感謝してもしきれないよ。人並みの生活させてくれてありがとよ、ナイン」
姉御が救世主でも見るみたいな目を向けてくる。
面映ゆいので、私はカニ鎌をほじってお茶を濁した。
ジーナの姉御には私も大感謝だ。
姉御の魔法がなければ、銭湯作りはひと月がかりの長丁場になっていたと思う。
流砂に呑まれて、かれこれ3週間だ。
その間、風呂どころか着替えすらできていない。
ここは涼しいから汗こそかかないけど、そろそろ限界だったんだ。
あとはカビ防止の魔法をかけるだけだっけ?
なる早で頼むよ。
完成した暁には一緒に入ろうね。
腹が膨れたところで、私はボスっぽく現場の視察でもすることにした。
視察先は、深層行きの洞窟だ。
ドラド・ホーネットのご利益で魔物は近づいてこないけど、ダンジョンに絶対はない。
だから、念のため、大広間の出入り口にバリケードを築くことにしたのだ。
第4階層のキャンプ地構想もまったく無駄というわけではなかったらしい。
要塞建設に携わった冒険者たちが教訓を活かして堅固なバリケードを作ってくれた。
材料なんて岩と土魔法くらいしかないのに大したものだ。
スカロ・シェルたちが入ってこられるように、下側には隙間も設けてある。
完璧だね。
頭蓋骨が入ってこないかと隙間を覗き込んでいると、バリケード越しに冒険者の姿が見えた。
3人いるね。
どうも様子がおかしい。
右へ左へ妙にふらふらしているし、3人がもつれ合うようにして歩いている。
足取りはひどく重たい。
顔は闇に塗られてよく見えなかった。
「アンデッドかァ?」
いつの間にか、マッカスはそばにいた。
酒臭いが、ボウガン用の小窓を睨む目には揺るぎない意思が感じられる。
いざとなったら酔いが飛んでいく仕様なのか。
少し見直したよ。
裸踊りを勘定に入れると未だマイナスのままだけどね。
ギリギリと矢が引き絞られる。
実はアンデッドって見たことないんだよね。
ちょっと拝見。
私も小窓を覗き込み、そして、不意に懐かしい想いに駆られた。
三人組の真ん中。
少年のように見える。
歳の頃は私と同じくらい。
長身で髪は金色。
全身目も当てられないほど泥まみれだが、定規をあてがったような真っ直ぐな鼻筋には見覚えがあった。
「撃ち方やめ!」
ボウガンを構える冒険者に指示して、私はバリケードを飛び出した。
「お、おい……。助けてくれ。な、仲間が……」
金髪はやっと聞き取れるくらいの弱々しい声でそう言った。
その声にも聞き覚えがある。
松明の明かりが泥まみれの顔を照らした。
ライオだった。
ダンジョンに堕ちた私に砂山の寝心地を訊いてきた、あの。
3週間ほど前に深層へと旅立ったあのライオだった。
ひどく疲れきった顔には、かつてのキラキラはない。
その両肩に二人の冒険者を背負っている。
どちらも血まみれ。
意識はない。
「フッハ……」
私を見るとライオは力なく笑みを浮かべた。
「お前、まだ生きていたのか。見捨てた奴に……助けを求めるなんて、ザマぁないな……」
そう言うと、彼はバタリと倒れたのだった。
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