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12 狼たちのボス


 協力者にはタダで給水するよー、と呼びかけると、道の駅構想の参加者は最終的に50人くらいになった。

 勝手に湧いてくる水で人を手駒にしているのだから、私もなかなかの悪党だな。


 人が増えたので改めて「道の駅に求めるサービスは?」と題したアンケートをとってみたところ、多い順に、


 料亭>銭湯>宿屋>雑貨屋>その他


 という結果になった。


 正確には、「酒場」に一番票が集まったのだが、それは料亭にまとめさせてもらっている。

 どんだけ酒好きなんだよ、と思ったね。


 雑貨屋は私の物々交換ショップで足りるとして、だ。

 ほかの施設は大掛かりな工事が要りそうだね。

 力自慢は山ほどいるからなんとでもなるだろうけど。


 分担を決めてみた。

 マッカス以下男衆は宿屋作りの担当だ。

 冒険者たちに平均睡眠時間を訊いて驚いた。

 なんと1日あたり、たった2時間なんだってさ。

 その2時間だってぐっすり眠れるわけじゃない。

 緊張で寝つけなかったり、魔物の襲撃で叩き起こされたり、聞くも涙語るも涙の過酷な就寝環境だった。

 せめて、この道の駅でだけでも足を伸ばして寝ほうけてほしい。

 ゆえに、宿屋のテーマは「安心・安全・安眠」だ。


 無駄にだだっ広い大広間では気が散って眠れないだろうってことで、宿屋はドラド・ホーネットの巣穴の中に設けることにした。

 ここはいい感じに薄暗くて静かだし、ドラド・ホーネットの加護が最も強い場所だ。

 危険な魔物が入ってくることはないだろう。

 壁にあいた六角形の横穴をそのままベッドとして利用できるから、マッカスたちの仕事はもっぱら整地や掃除といった簡単なものばかりだった。


「へえ、砂を敷布団の代わりにしたんだ」


「まァな。嬢ちゃんもいつもこうして寝てるだろ。そこからインスパイアを、インす……。イ、すぅ……すぅ……」


 試しに寝転がっていたマッカスが流れるように寝落ちした。

 寝心地は訊くまでもなさそうだな。

 穴の中というのがいいのかもしれない。

 何かに包まれていると安心するからね。


 ジーナたち女衆には銭湯作りを任せた。

 源泉は煮えたぎる釜のごとしだから、このままでは熱すぎて入れたものではない。

 それで、一度冷却用のプールに貯めてから浴槽に流し込む仕組みにしようと私が提案したのだが……うん。

 その冷却用プールがすでに完成しているね。

 それも、セメント製に見えるのだが、こんな資材どこから持ち込んだんだ!?


「そいつぁアタシの土魔法だよ」


 ジーナは長い腕を組んで得意げに犬歯を輝かせている。

 そういえば、姉御は魔術師だったね。


「浴槽も魔法で作るつもりさね。パーティーみんなで入っても狭くないサイズがいいねぇ。おっと、スカロ・シェルたちの砂抜き場も忘れちゃいないよ」


 完成が待ち遠しいよ。

 私はたぶん半日くらい浸かりっぱなしだと思うな。

 体中ベトベトだしさ。


 ところで、ジーナ。

 あっちのほうは大丈夫なんだろうね?

 私は意味深な目を薄暗闇の向こうに投げかけた。

 そこには、宿屋作りに奔走する男衆の姿がある。


 ジーナは小さく笑うと声を落として、


「出歯亀対策はバッチリさね。男湯と女湯の間には岩の壁を設けるつもりなのさ。アタシがうんと魔力を込めて作るから、大砲でも持ってこなけりゃ穴はあけられないよ」


 なら、安心だ。

 でも、正々堂々正面から覗きに来たらどうするの?

 おっと男風呂と間違えちまったぜェ、って感じでさ。


「そのときは殺っちまうしかないねぇ」


 ジーナがバキバキ、と指を鳴らすと、女衆一同獰猛な獅子の微笑みをたたえた。

 私の背筋も思わずゾワリだ。

 こりゃ覗こうものなら死体が湯船に浮かぶことになりそうだ。

 気をつけなよ、マッカス。

 酔ってましたは通じそうにない。


 さて。

 私はというと、料亭作りを指揮している。

 本当はマッカスに任せるつもりだったが、あのイケおじ、酒場だけでいいだろうがァ、とか真顔で言いやがったからね。

 こりゃダメだ、となったわけである。

 あのまま任せていたら、モダン風とかお座敷風とか立ち飲みスタイルとか各種酒場が軒を連ねることになっていただろう。


 料亭の目的は、ボソボソの保存食でうんざりしている冒険者たちを温かい食事でもてなすことだ。

 私も領主邸のコック長が作ったほかほかビーフシチューが懐かしいよ。

 食は力だ。

 疲れきった冒険者たちにふたたび立ち上がる力を授けるような、そんな料亭がいい。


 というわけで、厨房に温泉の湯を引いてみた。

 保温に使えるし、魔物の卵とかあれば温泉卵を楽しめるよ。

 食材は今のところスカロ・シェルがメインだが、今後は冒険者たちが持ち寄る食材でメニューのレパートリーも増えるだろう。


 ガルスの魔物図鑑によると、食べられる魔物はたくさんいるようだ。

 でも、多くの冒険者は倒した魔物を捨てていく。

 血抜きや解体は手間がかかるし、肉もすぐに傷んでしまうからね。

 その捨てる分を道の駅で買い取るのだ。

 火を通せば日持ちするし、まかないと称して私の胃袋に収めれば私は幸せになれる。

 ウィンウィンってやつさ。

 でも、フィフティーフィフティーではない。

 うまく立ち回って私が少しばかり得する構図を描かないとね。

 これは純然たる商売だもの。





 計画が進むにつれて、無理だ、できっこねえ、という声は下火になっていき、一足早く完成した食堂で蜂蜜酒片手に乾杯をした段階で完全に聞こえなくなった。

 宿屋はほぼ完成、酒場は大賑わい、銭湯も開店待ったなしだ。

 道の駅の輪郭が見えてきつつある。

 冒険者たちも手応えを感じているらしく、乾杯にも熱がこもっていた。


「ったく、信じられねえなァ。上下関係や損得勘定に死ぬほどうるせえのが冒険者って生き物だぜ? それが、嬢ちゃんには喜んで尻尾振ってやがる。お前さんにゃ人の上に立つ才能があるぜ」


 赤ら顔のマッカスが気前よく背中をバシバシ叩いてくるので、むせ返りそうになった。


 まあ、私はある意味、部外者だからね。

 贔屓したい身内もいないから、不偏不党で公平中立な政治を行えるのだ。

 不満が出ないのは当然のことさ。


 知ってるかい?

 ルストオオカミの群れのボスには弱そうな奴が選ばれるんだよ。

 強力な爪や牙を持つ狼たちの群れで抗争が起これば、おびただしい数の同胞が死ぬことになる。

 だからこそ、人畜無害な奴が頭を張って平和に治めるのだ。

 雑魚の私は狼の群れ(あんたたち)のボスにピッタリってわけだ。


 おら、わかったら骨付き肉を持ってきな。

 ボスは腹ペコなんだ。

 なるべくジューシーなやつで頼むよ。


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