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10 道の駅を作ろう


「ダンジョンにィ!?」


「道の駅を作るだってぇ!?」


 マッカスとジーナの声が広々したホールにわんわんと反響している。

 二人にダンジョン道の駅構想のことを話した。

 すると、人面ドラゴンにでも出くわしたようなオーバーリアクションが返ってきた。


 マッカスが私の肩を大きな両手でガッ、と掴んで、


「嬢ちゃん、自分の言っていることの意味がわかってんのかァ?」


 と、つばを散らしてくる。


 あんたこそ、わかっているのか?

 あと5センチで30センチ未満だぞ。

 私はグーを固めて、ついでにあんたの鼻をへし折る覚悟も固めているからな。


 ジーナがイケおじを肘で押しやりながら割り込んできた。


「ナイン、本気なのかい?」


 真剣な表情で問いかけてくるので、私もまっすぐに目を見つめ返して真剣に頷く。


「本気だよ」


 私より本気の奴はいないだろう。

 なんせ自分の命がかかっているのだから。

 私は雑魚キャラだから、この大広間から一歩たりとも出ることができない。

 そんな私が健康で文化的な最低限の生活を営むためには、冒険者たちが持ち込んだ生活用品や食料にすがるしかない。

 集客数は生活水準に直結するのだ。

 真剣にもなるさ。

 二人にも力を貸してもらいたいと思っている。


「本気のようだね。なら力を貸すのが人情ってもんさ。ダンジョンは助け合いだからね」


 ジーナの姉御はそう言うと腕組みしてカッコイイ笑みを浮かべた。

 煮え切らないのはマッカスのほうだ。


「いやいや、無茶だろォ。この『勇者の果て地』に中継拠点を作るって計画は前にもあったぜ? 何度もな。だが、一度として成功した試しがねえじゃねえか」


 その話、詳しく。


「最近だと4年前だなァ。第4階層に要塞化したキャンプ地を作ろうって話があった。あそこは木材に困らねえからなァ。初めのうちは、うまくいっていたぜ? だが、どこのクランが拠点を管理するかで揉めに揉めてなァ。大手クランと弱小クランのしょうもねえ小競り合いが続いていたところに、魔物の群れがなだれ込んできたんだ」


 連携はてんでバラバラ、要塞もあっという間にバラバラさァ、とマッカスは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 彼も計画に加わった一人だったのだろう。


「ダンジョンの支配者は人間じゃねえ、魔物だァ。ひとつところに留まれば、奴らの目にとまっちまう。連日連夜、大量の魔物が押し寄せてきて堅固な要塞もまるで意味を成さねえ」


 そうだねえ、とジーナも首肯した。


「あのときは散々だったよ。何ヶ月もかけて要塞をおっ建ててさ、何十回も往復して荷を運んでさ。それが1日ともたずにオシャカになっちまった。魔物に踏み潰される夢の城を、アタシらは立ち尽くして眺めているしかなかったねぇ」


「第4階層でもあのザマだ。それを第5階層で実現するなんざ無理ってもんだぜ。この辺まで下りてくるのは、オレたち銀等級冒険者でも厳しいんだぜ? 行って戻るだけで精一杯さ。拠点作りなんてできるわけがねえぜ」


 ジーナの愚痴で勢いづいたマッカスは水を得た魚ように饒舌で肩をすくめてみせた。


「嬢ちゃんよォ、悪いことは言わねえ。諦めて物々交換に専念するんだなァ。ジーナ、お前さんもそう思うよな?」


「馬鹿言うんじゃないよ」


「……へ?」


 ジーナは私の隣に立って、マッカスに向かい合った。

 切れ長の目を鋭く研ぎ澄ませて、こう言う。


「ナインは目端の利く聡い子だよ。道のりが険しいことくらい百も承知だろうさ。その上で、やると言ってんだ。何か名案があるんだろうよ」


 ふふん!

 まあね、と私は胸を張って鼻の穴を膨らませた。

 そもそも、要塞を築く必要などないのだ。

 安全な場所なら、もうあるからね。


「そらァ一体どこにだよ?」


 ここにだよ。

 と、私はホールを見渡し両腕を広げた。

 第5階層は元々「しじま」と呼ばれるくらい魔物が少ない上に、ここはドラド・ホーネットの加護で守られている。

 ダンジョンに呑まれて10日くらいになるけど、現に私は危険な魔物に一度として遭遇していない。

 たまーに遠くのほうから遠吠えが聞こえてくるけど、それだけだ。


 ここには、こんこんと湧き出る水場もあるし、食料だって自分から歩いてやってくる。

 頭蓋骨とセットだけどね。

 巣穴の中は温泉の熱で温かいし、へそを出して寝ても風邪をひくことはない。

 ちょっと手を加えれば、ここは見違えるほど住みやすくなるだろう。


「でもなァ……」


 と、それでもマッカスは煮え切らない。

 なら、煮え湯でも飲ませるかな。


「二人とも、ついてきて」


 私は秘湯を解禁する決心をした。

 ガルス砲で開けた穴に二人を押し込む。

 中は、巨大な蜂の巣箱だ。

 六角形の格子が層をなして並ぶおもしろ空間が、残されたハチミツで金色にライトアップされている。

 マッカスはぽかーんと見上げ、ジーナは目をぱちくりさせていた。

 見せたいものは、こっちでね。


「うおおおおお! マジかァァ――ッ!」


「温泉が湧いてるじゃないかい! これ、飲めるんだろうねえ!?」


 もちろん、飲めるとも。

 ここの水は特に魔力が濃いらしく、飲むだけで力がみなぎってくるんだよ。


「深層行きを断念する最大の要因が水不足なのさ。この下は一滴の水も存在しない『溶炎の祭祀場』だからねぇ」


 ジーナは清流を手ですくいながら目を輝かせている。

 水が一番高く売れるから、本心を言えばもう少し秘密にしておきたかったけどね。

 説得材料は必要だ。

 いちおう言っておくが、この湯を発見したのは私だ。

 飲むたびに私に感謝を募らせろよな?


「ねえ、聞いて」


 私は温泉を背にして二人に語りかけた。


「あなたたちが手伝ってくれるなら、私がここにダンジョンのオアシスを作るよ」


 私は腐っても領主令嬢だ。

 大手だとか弱小だとか、そんな区別はしない。

 みんな等しく私の領民だからね。

 誰でも気軽にふらっと立ち寄れて、ぐっすり眠れて、なんでも揃っている。

 ここをそんな場所に変えていきたいんだ。


 ジーナはニカッと笑って私の背中をバカンと叩いた。

 痛いんですけど。


「アタシの気持ちはとっくに決まっているさね。ナイン、アンタは面白い子だ。なんだかやってくれそうな気がするよ。困ったことがありゃアタシにいくらでも頼りな!」


 姉御、マジで頼りになるなぁ。

 マッカス、あんたはどうなの?


「オレはなァ……」


 一度反対を表明しただけに、引くに引けないって顔でマッカスは頭をガリガリしている。

 ケツの穴の小さい奴だねぇ、とジーナが笑った。

 まったくだ。


 ほら、考えてごらんよマッカス。

 ここに中継拠点ができたときのことをさ。

 第4階層から『カチ割りの実』を持ってくれば、ここで好きなだけ酒盛りができるぞ。

 温泉に浸かりながら一杯なんてオツだろう?


 と心に潜む悪魔みたいに耳元でささやきかけると、マッカスの口角がわかりやすくニチャァと持ち上がった。

 利益を説けば人は動くってね。


「まァ、オレはこれでも中堅冒険者の顔役でなァ。オレが一声をかけりゃ、たいていの冒険者は聞く耳持つだろうよ。嬢ちゃんがそこまで言うなら力を貸してやらなくもねえぜ?」


「なんだい、偉そうにさ。アンタは反対派なんだろ?」


 ジーナのイジリから逃げるようにしてマッカスは黄金の巣穴に目を向けた。


「いつの間にか、ここら辺で満足しちまってたがよォ、オレも冒険者だ。このダンジョンを踏破してやりてえって夢は今でも消えずにくすぶってんだぜ? ここを拠点にできるなら深層開拓にも余裕が持てる。いつの日か、夢を叶える日がくるかもしれねえな」


 振り返ると、マッカスは私の双肩にがっついた。


「嬢ちゃんに託すぜ、オレたち冒険者の夢ってやつをな。『勇者の果て地』を攻略するには嬢ちゃんの作る中継拠点が不可欠だァ」


 うん、そうだね、うんうん。

 肩、触らないでくれる?

 顔近いんですけど。


「オレたちのために作ってくれよ、ダンジョンに道の駅ってやつを」


「頼めるかい、ナイン」


 私は二人の目を順々に見て、どーんと胸を叩いた。


「任せといて!」


 そのためにも、だ。

 二人にはさっそくこき使われてもらうよ。

 まずは、温泉からだね。

 私ゃそろそろ風呂に入りたいんだ……。


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