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この世界で傭兵達は生きる  作者: 白狼 雪
1章 傭兵達の生き様
6/7

3話 目標との対面

コツコツと監獄の廊下を歩く足音が響く。

リニムとリィは案内の看守の後をついて行く形で進む。



「ここね。で、アンタちょっと落ち着いたらどうなの。見ててイライラする。」


リニムに引っ付くことはやめたが、リィは目的の牢屋に近付くにつれて落ち着きがなくなり、かれこれ十分以上はオドオドしている。


「す、すみません。何かこう、ここに近づくにつれて品定めされてるみたいな感覚がして落ち着かないんです……。」


「品定め?誰に?」


「わかったらこんなに緊張しませんよぉ………。」


リィは14の少年らしい弱々しい反応をする。

リニムはやっぱりまだ子どもなんだなと思うが、このままの状態ではまともに仕事はできないだろうと思い落ち着く様に言う。


「取り敢えず少しでいいから落ち着きなさい。この先に目的の人物がいるから。」


「はい……。」


弱々しく返事をするリィ。

バチッと両頬を叩いて気合を入れ、看守の後に続く。

その様子を見たリニムはまぁ大丈夫だろうと思いリィの後ろを歩き始める。


歩を進め続けること15分程経った頃、廊下の奥に今まで

見てきた牢屋の扉と比べても明らかに分厚く大きく、傷だらけの扉が有った。

"此処にヤバイ奴がいるよ"と言わんばかりの存在感を放っている。


「こちらに目的の人物、ギィラ・ガヴェラスが収容されています。」


「この扉、見るからにヤバイ奴ってわかるわね。」


「普通の扉では破壊してしまうので、オリハルコン製のこの大扉で収容しております。」


「オリハルコン…………。」


(この扉、私でも壊すのは無理ね。魔具ありならいけるけど徒手空拳じゃあ無理ね。ならこの先にいる同族でも無理ね。全く、私の一族は私含めてホントに人間離れし過ぎね。)


扉に対しての感想を思っていると此処についてからずっと無口のリィに気付きリィの方を見る。

そこには無表情の状態で扉をジッと見つめ続けるリィの姿があった。

自分より強い相手、もしくはリィの"復讐の対象"を前にしたときのリィの癖だ。極限まで集中するのか、無口になり無表情でその対象がいる方をジッと見る癖がリィにはあった。

つまり、この扉の先の人物は少なくともリィより強い相手だと言うこと。


「ちょっとリィ、大丈夫?」


「えっ、あぁ大丈夫です。ただ、ここに来てから感じてた値踏みされてるような感覚、この扉の先からするんです。」


「この先から?」


「はい。この先にいる人、僕達がこの監獄に来てからずっと僕達の存在に気づいてるってことです。つまりそれだけ強いです。」


(この子がここまで言うって相当ね。)


リィ自身、法外の人々内でもトップクラスの実力者の一人だ。純粋な人間族でありながら龍殺しの一族のリニムに魔法を使えばギリギリ食い付ける程の実力を持つ。

そのリィがここまで言うのはリニムと同程度、もしくはそれ以上の実力を持つ者がこの先にいる証明であった。

それだけの実力者がいることにリニムが思考を巡らせていると看守が話しかけてきた。


「お二方、準備はよろしいでしょうか?」


「えぇ。私はいつでもいいわ。リィ、あんたは?」


「大丈夫です。」


リィの返事を確認すると看守は扉の鍵を開けるとゆっくりとその扉を開く。重々しい音を立てて扉が開く。

扉の奥には鉄格子で区切られた部屋になっており、その奥に"ソレ"いた。


恐らくは金髪、血で汚れているのか所々が赤黒く染まっている。瞳はまるで全てを見据えているかの様にこちらを見る蒼い瞳。潰れているのか傷のある左眼は閉じている。

顔には龍殺しの一族特有の模様が入っており、一目で龍殺しだとわかる。

身体からは濃い血の匂いを漂わせており、鉄臭さが部屋から漏れ出る。それだけの血を身体に浴びたという事だろう。


「や〜っと来てくれましたかぁ。訪問者さん。」


「私達が来ること知らされてたのかしら?」


「いえいえ。貴方達がこの監獄に来た時から気配でわかってたんですよ。ねぇ?同族。」


ニタニタと笑う対象。まるで品定めでもするかのようにこちらをジッと見つめる眼が不気味仕方がない。

リニムはさっさと要件を済ませて帰りたい気持ちで頭が一ぱいになった。


「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私はギィラ・ガヴェラス。見ての通り死刑囚の龍殺しです。以後お見知り置きを。クヒヒッ!!」


「リニムよ。」


「リィです。」


「あぁやっと喋ってくれましたね魔眼の子。リィ君?ちゃん?どっちですか?」


「僕は男です。」


「おや失敬。身体が細くて顔が可愛かったのでわかりませんでした。クヒヒッ、まぁ私はどっちもいける口ですが。」


ギィラの言葉にリニムは苛立つ。弟の様な存在のリィを馬鹿にされたのだ。そりゃあ誰だって苛立つ。

しかし当の本人は無表情でギィラをジッと見つめ続けている。集中しているのかギィラの馬鹿にするような言葉は耳に入ってない様子だった。


「ずぅっと私に熱い視線を送ってますが、もしかして惚れました?いやぁ〜若いですねぇ~。」


「貴方、ずっと僕達を品定めする様に見てますけど、目的は?」


「リィ?アンタ何言ってるの?」


リィの言葉に疑問符を浮かべるリニム。


目的?この女が?どういう事?


頭の中が疑問点で一杯のリニムを無視してリィは続ける。


「貴方がこの監獄に入った理由、資料で見ました。そして死刑囚になった理由も。」


「ふ~ん。で?」


「貴方は僕かリニムさん、どちらかと戦いたい。そう思ってるんじゃないんですか?」


「………。」


「沈黙は肯定としますよ。根拠もあります。」


「根拠、ですか。」


「はい。まず貴方は僕達がこの監獄に来てからずっと僕達の事を気配で()()()()()()()?証拠に僕が入ってからずっと品定めされてるような感覚がこの部屋に入る前まで、厳密には今も感じてます。それにさっきの発言。僕を馬鹿にするような言い方でしたけど、ついでにリニムさんも苛立たせる様な言い回しをした。仲間の僕を馬鹿にすれば怒ると思ったんでしょう?それで怒らせて手を出させ、手を出した方とは逆の方と戦うつもりだったんじゃあないんですか?」


「………。」


リィの説明にギィラは黙る。リニムもリィがここまでの説明をするとは思っておらず驚いて固まっている。

一緒にいた看守も14の少年とは思えない観察力に驚きを隠せていなかった。


「貴方程の強者が、僕達という最高の餌に食いつかないと思うんですがどうでしょう?戦闘狂、"()()()()"のギィラ・ガヴェラス。」


「…………………………………クヒッ………キヒヒッ………アーハッハッハッ!!」


長い沈黙の後、ギィラが大声で笑いだす。

まさしく狂笑と言える笑い声は直ぐ側にいた看守を震えさせ、リニムすらもたじろかせる。


「いやぁ〜凄いですねぇリィ君。その若さでそこまでわかるなんて!!もしかして過去に似たようなご経験を?

えぇ、えぇ!!私は貴方達二人の内片方と殺り合うつもりですよ!!ただ処刑されるなんて勿体ないじゃないですか!!

私はね、最後まで楽しんで死にたいんですよ!!

今ので決めました!!リィ君!!私は貴方と殺り合いたいです!!その若さでそのレベルの観察力!!

そしてその腰に下げた魔具!!

何よりこんな状況で涼しげに立っていられるその精神!!

良いです!!良いですよ!!実に!!さぁ早く処刑場へ行きましょう!!戦いは鮮度が命です!!この感情が冷え切ってしまう前に!!さぁ!!」


狂ったかのように話すギィラに看守は恐れ、リニムはドン引きしていた。狂気そのもの。楽しんで死ぬなんて価値観、理解できない。できるはずがない。

この狂気がギィラの正体。戦いを楽しみ、その快感を楽しみ、その楽しみの中で死んでいく。それこそがギィラの価値観。それこそがギィラの生き様。

だがそれを他者に押し付けるのがギィラの悪癖だった。今もそうだ。リィ相手に自分の価値観を押し付け、殺し合おうと提案している。本来常人なら逃げ出すか、余程肝の据わった者なら断るだろう。


そう"普通の人"なら。

リィは過去の経験のせいで自分の中の価値観やブレーキがぶっ壊れている。

死ぬなら死ぬ。生きるなら生きる。逃げるなら逃げる。

それこそがリィの価値観。するならする、しないならしない。他者の、自分のとった行動に何も感じない。やるなら勝手にどうぞ。自分の行動に後悔もクソ無い。やったならやったで最後まで通す。


相手の価値観?知るか。勝手にしろ。

自分の価値観?知るか。やったなら最後までやり通す。

面倒なら途中で逃げる。卑怯者?勝手に言ってろ。それが自分の生き様。

僕の生き様に口を出したきゃ勝手に出してろ。

自由に、縛られず、ただ自由に生きるだけ。それこそが僕。

なんと言われようと、誰であろうと、僕を縛ることだけは誰であろうと許さない。それが僕。


「いいですよ。貴方の価値観は理解できませんが、これも依頼達成の為です。」


「リィ、アンタ…………。」


「リニムさん、これは依頼の為です。ギィラさんがなんと言おうと僕は依頼の為にギィラさんと戦うだけです。」


淡々と言うリィにリニムは口を噤む。

それはリィが仕事モードに入ったから。普段リィはちょっと抜けてるが、優しく人当たりが良い少年だ。

しかし仕事モードになればリィは豹変する。冷静、冷徹、依頼達成の為なら必要なことは例外を除いて全て使う。

ブレーキがぶっ壊れているせいで余計に手段を選ばない。

殺しもホントに必要なら躊躇しない。

だからこそグィラは今回の依頼にリィを出したのだ。

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