余もそこに赴くのじゃ!
このお話は頭空っぽにして読んでね。
作者さんとの約束だぞ!
「側近よ、余もそこに赴くのじゃ!」
「??????」
急だった。目の前の、なんか幼いよくわからん偉そうな、でも実際はちゃんと偉いちびがなんか言ってるわ。
「王様、5W1H」
「うむ、いつどこでだれがなにをなぜどうしてどのようにして、じゃな」
「いやそうじゃなくてね」
「さっき、ここで、余が、スラム街に、なにか余を満足させてくれるものを、側近と一緒に、探しにいきたいなと、思った!」
「いやわかってんのかい」
なんで王様がわざわざスラム街にいくのでしょう???
てかこの国にスラム街なんてあったかしら?
「聞けば、スラム街にはなんとも美味な茶があるというではないか」
「聞いたことねえよ」
「というわけで、ゆくぞ!」
「どういうわけやねんな」
側近は困った。だって、スラム街なんてほんとにこの国には無いんだもの。一体あのちんちくりんは何を言ってるのか。いつもご乱心なだけはあるわ。
「余はな、この国についてよくわかっておらぬ」
「あんたがわかってなければ誰もわからんわ」
「そこでじゃ!余も漫遊の旅に出てみたくなった!」
「どこでじゃ」
スラム街があったとします。でも、ねえ?モノがそもそもあるの?スラムだよ?
「よくわかりませんが、どこにあるんですか?そのスラム街は」
「うむ!ここからバスで3分のところじゃ!乗り場は5番じゃぞ」
「なんで玉座にバスターミナルがあんのよ」
「お、来たぞ!側近、パス○ーにチャージを忘れるでないぞ」
「なんで広島限定のものあんねん」
着いた。
着いたけど。
「なんもないやん」
「表向きは、な」
裏向いてる何かがあるというのかしら。
「ここを持って、どっせえええええええい!!!」
「わあ見事なちゃぶ台がえし」
なんで地盤ごとそんなことができるのか、わたしゃ不思議ですよ。
てか、まじでなんかあるやん。階段あるやん。どうやって地盤の下にこんなもの作ったのよ。
「うむ、我ながらあっぱれ!」
あっぱれってどういう意味ですか。誰か教えてください。
階段をくだったさきには、見事な景色が広がって
いたでしょうね、きっとね。
え?なんで知らないかって?
「側近よ」
「なんすか」
「なぜ、余の放った地盤がここへそのまま帰ってきたのじゃ」
「あんたの技術が素晴らしかったからじゃ」
「えへへ」
「素直すぎんか」
さっき王様が放り投げた地盤は、あまりにも投げた場所が真上すぎてそのままぴったり、元に戻った。
「仕方ない、ポチッとな」
ごごごごごごごご
なんか地盤がスライドしていった。また階段と相まみえることとなった。
どこからボタンが?
「なんで最初から押さなかったんですか」
「うむ!かっこつけたかった!」
「ほんと素直だな」
階段を王様チビとおりた。
チビはなんでも知っている。だって王様だもの。
私はちびに聞いたことがある。なんでそんなに知っているのか。
「それは、余だからじゃ!」
無駄だよ、気にしたら負け。なんでもありだもんこの人。…、ほんとに人?
降りた先には、これまた見事な茶葉が広がっていた。
??????
なんで???????
え?地下…?え?
「見事なものよのう、側近!」
「あ、え、そっすね」
「では、行くとするか!」
「どこによ」
「ついてまいれ!」
見渡す限りの茶葉、けっして、畑ではない。茶葉おんりー。なんで????
「あ、王様、ちっす」
「うむ、苦しゅうない。おもてをあげよ。」
「これ以上上げたらこの世にバイバイよそれは」
側近にはあり得るが、他の国とか文化圏からしたら恐らくあり得ない光景。スラム街の人は王様に対して跪くでもなく、軽く首を下げたか下げなかったかわかんないくらいの挙動と「ちっす」を持って挨拶していた。
「そっちのひとは誰すか?」
あ、あたいですか?
「初めまして、そばちかです。」
「余の側近じゃ!」
「つまり、できてると!」
ん?
「よのそばちかって、王様のものってことっすよね」
「えへへ」
ちょっと、いやかなり、会話?についていけない。何を照れてるのこのドチビマセガキ。
「そんで、今日はどしたんすか」
「いやなに、茶をな、ありったけ、貰おうと思ってな」
「とうとうこのときが…!」
どのときですか。よくわかりませんが、当事者同士ではすでに取り決めがあったかのような会話してますね。
「うむ!全ての茶葉を、余が買い取ろう!それをもって、スラム街を豊かにせよ!」
「なんやえらいかっこいいこといってまんな」
もうわからんわ、わたしゃ。あとはすきにしてけろ。
「お姉さん、ちょっといいでっか?」
「あ、はい、なんでしょうか」
「王様について、ちょっとね」
あはーん?これはなにかありますね。王様について良くないことを言われたりするんですかね?
「最近知り合ったお姉さんは知らないかもしれないんですけど、あの方はこの国の王様です」
「あ、それは知ってます」
「そして、我々のような、孤児や職に就けなかった浮浪者、犯罪を犯して表に出づらくなった、そういった人をこの場で雇用してくださっているのです」
「はあ」
まあ、でしょうね。
バイト戦士として、私は大学を出た後も生活をしていくなかな。いつものように、バイトをして、帰って、寝て。
「ソバ!おまえ今週で辞めるんだってな」
「ききましたよ側近先輩!それで、次の職場はあるんですか?」
「いんや、まだ。当面は貯金とかでなんとかするかなあ」
今週、今までやってきたコンビニを辞める。特に理由はない。ただ、疲れた。
大学を出たら就職して、それでキャリアを積んで、将来は出世頭のかっこいいお姉さんとしてモテモテに。
そう理想を描いていた。
理想で終わった。大学では単位をとることに苦労はしなかったものの、内定をとることはできなかった。面接どころか、書類でもだめだった所も多かった。
「側近君は優秀なんだけど、恐らく優秀すぎるからかもしれないね」
研究室の先生に言われた。私の受けたところは、私の能力的に低いと。だからもっといいところを受けろと、そしたら受かると。
理屈としてはこうだ。あまりに優秀過ぎて、うちでは勿体ないからと蹴られてしまっている。だから、優秀すぎるって人だけが行けるような所へ行きなさいと。
違うんですよ、先生。私は確かに優秀かもしれません。けれど、受けてるんですよ全部。優秀すぎるところも、そうでないところも。
「あーあ、どうしようかなあ」
学費は成績優秀者として免除されていた。だから、貯金はできていた。でも、内定はなかった。
そんなとき、就職課の先生から声がかかった。
「側近さん、これなんてどうかしら」
私は藁にもすがる思いで、求人票を読んだ。
どこかの国の、そこの王様の側仕えを募集していた。
とにかく、学校に来ている求人はこれまでに全て受けて落ちていたため、ダメで元々、という気持ちで応募した。
次の日、合格の連絡が直接来た。
「もしもし!余の名前は。。。」
連絡では、いつから働けるのか、などのすり合わせも行った。
いよいよ、この国ともおさらばか。
見送りに来てくれた人とも最後になるかもしれない挨拶を交わし、飛行機に乗る。
学校のだれも知らない、勿論私もよくわからない、そんな異国の、しかも王様の元へ。
目的の国についた。そしたら、空港でのお出迎えに小さな子がひとりいた。
「うむ!よく来たな!余が。。。」
「というわけで、お主は今日から余のそっきんじゃ!」
「畏まりました、なんなりとお申し付け下さいませ。」
流石に王様相手には知りうる限りの礼節を持って接しないとだめだろう。
そう思っていたときだった。
「おうさまー!」
「おお、お主か!どうした」
私には分からないが、恐らく王様の手の者なのだろう。つまり、同僚になる方。
「わかった!では余も赴くとする!」
急だなあ。でも、どこに?
一応、さっき聞こえていた話を纏める。
この人は恐らく王様の直属の部下、そして伝令役。
いま急いで持ってきた話は、この国で起きてる非常事態。どうやら、殆どの人の生活に直結するくらい、重要なこと。
「余も来たぞ!」
王様は、他国との境で起きている争いに、自らやってきた。
「なにをされているのですか、王!お下がりください!」
「下がらぬ!余も参加する!」
「バカ王!あんたが死ねばこの国はどうなるのですか!」
「うるさい!余もそこに赴くのじゃ!」
おそらく現場を任されていたであろう人の一人と言い合いをしたあと、ものすごい勢いで争いの中心に行った。
見事なものだった。争いはすぐに収まり、なんやかんやある前にその場にいた人みんな納得した表情でうんうん言うだけになっていた。
何をしたのだろうか。わからないが、あそこの中心で腕組んで誰よりも頷きまくってる小さな子が収めたことに変わりないのだろう。
ほんと、すごいなあ。
でも、バカって言われてたなあ。まあ傍から見たらバカな行動よなあ、王自ら争いに突っ込むなんて。
そんなやばいエピソードを、ここにきて一週間ですでにいくつか体験しているため、このチビガキがすごいことは、知っていた。
あと、滅茶苦茶慕われていることも。慕われるというか、親しまれているってほうが近いのかもしれない。
だって、こんなに気軽に絡まれるんだもの。こんなに滅茶苦茶なこと言われてるのに、嫌な顔もしないし、みんなに言われてるし。それどころか、ちょっと嬉し楽しそうだし。
そう思いながら、テキトーに話をしていると、王が帰ってきた。
「側近よ、用事は済んだからお家にかえるぞ!」
「わかりました、王様」
「では、そこの改札から電車に乗って帰るとするか!」
「地下鉄あるんかい」
ならなんでバスで上に来てんねん。なんでわざわざちゃぶ台返しすんねん。
「王様、側近さん、またねー」
みんなと別れて電車に乗った。
「側近よ、仕事にはなれてきたか?」
「まあ、はい、ぼちぼち」
「そうかそうか!」
すごく嬉しそう。でも私の仕事なにもないよ?全部、ぜーんぶあなたがやるんですもの。
「では、余はお家につくまで寝る!おやすみじゃ!」
「おやすみなさいませ、王様」
この王様は、先代の王様から引き継いだらしい。
先代は、この王様のお父さんらしい。
お母さんは、元王妃様らしい。
全部らしいというのは、既に故人だったから。
まだ幼い今の王を遺して、お二人とも病で倒れられたらしい。
そのせいか、王様はよく寂しそうな顔をする。
元々こんなに元気があって、承認欲求もある王様には、それを一番近くで見てくれる人が、もういないということになる。
「…ははうえぇ…、ちちうえぇ…」
「ふふっ、ねごといっちゃって、かわいい…」
「えへへ…」
小さくそう呟きながら、私は自分の膝に乗っている柔らかないくつもの線がかかるそれを、ただただ優しく、撫でていた。
そしたら、城の、バスに乗った場所の真向かいに電車がついた。
ほんとにこの国というかなんというか、どうなってるのやら。
「うむ!ついたな!」
「あ、そっすね」
さっきまでスヤスヤしてた子どもとは思えないくらい元気に玉座に仁王立ちしていた。
「うむうむ!スラムも大分発展してきていたな!」
茶葉しかなかったよ?
「それに大量の茶葉も入ったしな!」
そうね、あれだけの量どうするのかしらねえ。
「そうと決まれば!」
「どうと決まった」
「今度はお茶を淹れる店を建てるぞ!」
「すでにあるんじゃないかなあ」
「わが城の中に!」
「すでにあるんじゃないかなあ」
「あと百軒!」
すでにあるのはあるんですね。
驚くところって、ここでいいですか?
「では側近よ!今度はお店の下見じゃな!」
「では私が見てきますね。候補はいくつかありますので」
この城は何でかわからないが百貨店とかショッピングモールみたいな、なんかすごいことになっている。そして規模はというとなんかもうすごいくらいすごい。
言葉にできない。とにかくすごい。東京ドーム20個分くらいあるんじゃないでしょうか。
「待て!余もじゃ!余もそこに赴くのじゃ!」
完!
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。
この作品は、そもそも友人との通話にて、最近のネット小説や漫画の流行りを話していた際に、私が思いついた言葉を使って書きました。
どういう会話で思いつき、どうしてそこからお話しになったのか。
もうあまり覚えていないのですが、王様がスラムに行く話とかどうよ的な話をしていて、そこで王様の台詞として思いついたのが「うるさい!余もそこに赴くのじゃ!」でした。
折角台詞が思いついたのならと、試しに気の向くまま書いていったところ、よくわからない作品になりました。
こんな緩い経緯で、内容もわりとほんわかしてる作品をかいたつもりですが、あんまり上手くいった感じがしないです。
当初は、側近と一緒にスラム街に行く。それだけでした。なんで行くのかとか、行ってどうするのかとか何も考えてませんでした。そこで、適当に気のむくままに書いていったところ、こうなりました。
元々は側近がスラムに行くのを止めて、それに対しての発言として考えていましたが、全然違う場面になりました。
スラムに行く理由として、なにかとりあえずものが欲しいから行くってことで書き始めましたが、それだとオチの付け所がわからなくなったため、無しに。
こうして書き終えた今、王様のいい人エピや、悲しいエピはやっぱなくてよかったんじゃね?と、自分のした味付けに不安が生じております。
それでも楽しんで頂けたのでしたら幸甚に存じます。
ありがとうございました。