ドール・コム 3
バジリスク撃破から程無くして、ソーサラー達の猛攻にエルダーグリフォンが雷撃を降らせながら、徐々に高度を下げてきた。
(タツオ! そろそろ出番だ)
(もうソーサラー達だけで墜とせないか?)
(手持ちのマナワンドをほぼ使い切ってる。中型アーマーの波状攻撃でも墜とせないではないが、被害は減らすべきだろう?)
(・・わかったよ。あと、もう通常通信でよくないか?)
基地はほぼ制圧されていた。やや間があって。
「そうだった。援護はする、後はよろしく」
とだけ機体に通信が入った。
「便利使いされてますね、御主人様」
「まぁ、当局絡みだとバウンサーの扱いはこんなもんだ。後で追加報酬、ブン取ってやるけどな!」
それも生き残ったら、の話だ。俺は味方機やソーサラー隊の配置、各建物の配置や路面の環境や天候を画面で見る。
「滑走路に誘導しましょう。向こうも降り易いと見れるでしょうし、開けた場所で雷を利かせ易いとも見るでしょう」
「こっちも動き易くはあるが、不味くないか?」
「掌握済みの対空重機銃2基の射線を通せます。それからギリギリまで隠しておきたいですが、この機体は斫り防御用に帯電できます。フルパワーなら電撃を完封できますね」
「魔力障壁と動力共有してないよな? というかマルトヨ、は、ダイナモ一体型じゃないのか?」
「違います。御主人様が言ってるのはわたくし達の『失敗』を元に改良された汎用量産品ですね。そもそもコクピットに動力は付けませんよ?」
「・・・」
アレが完成品というのか? 量産可能とするならばそうなのかもしれないが・・。
「魔力障壁用のバッテリー魔石は本体動力とは別です。解除系の特殊効果を受けた時に本体動力までシャットアウトするのを避ける必要がありますからね」
「・・わかったよ。やってやる」
「浅い根拠で行動できることが、御主人の実行力の高さの裏付けになっているようですね」
「マルトヨ、ちょっとバカにしてるだろ?」
「フッフッフッ」
否定しないし、笑ってるし。とにかく俺は味方の部隊と連絡を取りながら機体を滑走路に向かわせた。
傷付いたエルダーグリフォンは激昂し、雷を纏わせながら滑走路へ向け、降下してきた。既にソーサラー隊は撤収している。
俺は右腕の対アーマー機銃をエルダーグリフォンに連射する。味方の対空機銃はまだ控えてもらっている。
ロクに当たらない上に雷属性の障壁で弾かれる。
「ゲェエエンッッッ!!!!」
エルダーグリフォンは完全に俺達の機体を敵と見なし、雷撃を降らせてくるっ。天災だよ。文明が発達していなかった頃は英雄級の超人的な戦士だけが倒せた魔獣だ。半端無いっ!
まだ距離がある内は無限軌道とバーニアを駆使してどうにか回避しながら撃ち返せたが、詰まってくると魔力障壁を展開しないと凌ぎ切れない。
榴弾砲を使いたいが、まだだ。地表が近くなると距離が近くなるだけでなく、相手も減速せざるを得ない。基地の対空機銃の精度を上げるにはもう一踏ん張りっ。
「バーニア制御はわたくしが致しましょう」
「もっと早く言ってほしかったなっ?」
「ブランクがあるように見受けられたので、良い機会かと」
「トレーニングっ?!」
なんにせよ回避力が上がり、凌ぎ、引き付けた。2基の対空機銃の砲撃が始まる。
「っ?!」
戸惑い、大きく障壁を張って隙を見せるエルダーグリフォン。ロックオン!
「もらった!!」
対策を覚えさせない為に温存していた右肩の榴弾砲を4連射する。
ドドドドッッッ!!!!
2発で障壁を破り、もう2発で左の翼を爆散させた。
帯電しながら落下する。エルダーグリフォン。
「マルトヨ!」
「よいしょ」
振動に巻き込まれたくないので、バーニアで飛び上がって下がり、路面の衝撃を避ける。
滑走路を叩き割るように激突し、血と雷を巻くエルダーグリフォン。やったか? いやまだ動くっ。
しかし、2基の対空機銃は容赦なくエルダーグリフォンを撃つ。不完全な障壁でそれを受ける血塗れのエルダーグリフォン。雷を溜めてゆく。
「よくないです。機銃砲手に離脱勧告を」
「何っ?」
伝える前に、エルダーグリフォンが吠え、基地の対空機銃2基に特大の雷が落ちて爆発炎上した。
「ゲゥゲゲゲッッッ!!!!」
血を吐き、帯電しながら瓦礫の中から身体を起こし、こちらを睨むエルダーグリフォン。
「御主人様、ここからは罰ゲームということで」
「俺もそんな気がしてたよっ」
グリフォン種は、獅子のような身体と鷲のような顔と翼を持つ魔獣。飛行能力は勿論高いが、その四足による走力も、
ドォオオオオンンンッッッ!!!!!
音速イッたんじゃね? という速度で帯電した体当たりをブチかましてきた! マルトヨが障壁を張ったが、200メートルは路面を削って押されながら1発で負荷限界に達し、障壁が砕け、腰背部のバッテリー魔石も破裂して炎上する。パージだっ!
「ゲェエエンッッッ!!!!」
至近距離で超高圧放電してくるエルダーグリフォンっ。ここだ! 斫り防御帯電をフルパワーで行う。マルトヨが自在に電磁誘導して周囲に電撃を散らす。
「っ???」
困惑するエルダーグリフォン。
「オオォーッ!!!」
この状態で砲撃はできない。俺は機体の左腕のパワーアームでエルダーグリフォンの右前肢の付け根を殴り潰しながら吹っ飛ばしたっ。
離れ、放電が収まったので限界だった帯電を切り、榴弾砲を2発撃ち込む。が、電撃で右肩の砲の砲身を吹っ飛ばされた!
「ぐっ?」
離れると不利だが、じっともしてられないっ。俺は無限軌道フル回転で移動しながら右腕の機銃を撃ち込む。
エルダーグリフォンはもうボロボロだ。動きも遅くなったが、更なる電撃で右の機銃も誘爆させられた。腕ごとパージするっ。
俺はさっきのインパクトで不具合出まくりのパワーアームで殴り掛かろうとしたが、
「詰み、です」
「っ?」
マルトヨの言っている意味がわからなかったが、直後に無線が入った。
「チェストーっ!!!」
最大加速で魔力障壁まで纏い、飛び込んできたカンロが『大鼬・アダマン斬り・刃会』でエルダーグリフォンの首を叩き落とした。
「マジかよ・・」
「お~いっ、タツオっ!」
ジェドが2体合体ゴーレムに乗り、マナワンドを手に飛んできた。カンロの障壁や気配を消しての接近はジェドのサポートだろう。
当のカンロは太刀型ブリンカーを肩に置いて満足気にエルダーグリフォンの死骸を見ていた。
「美味しいとこ持ってかれた」
「あのまま突っ込んでも五分五分でしたし、良しとしようではありませんか?」
「五分五分かよ」
俺はシートで脱力した。よくわからんヤツと、よくわからんまま共闘しちまった。
・・作戦自体は成功したが、結局、最後の騒ぎを起こした召喚術使いには逃げられたようだった。
ま、そこはそれこそ当局で対応してほしいぜ。
アルバート基地の作戦から5日後、俺は魔石式自動車を運転していた。魔石バイクは得意だが、自動車はあまり運転しないから少し緊張していた。
助手席にはギルドの事務員にして亡くなったヒロシの奥さんユチカ・スズキ。
別にデートじゃない。後部席にはユチカの子供のモチカとトロシ、そして2人の間に、
「いやぁ、墓参りなんて新鮮ですねぇ! 御主人様っ」
「マルトヨちゃんっ、お父さんのお墓綺麗だよっ」
「近くに蕎麦ヌードルの店があるよっ、マルトヨちゃん!」
「食事はできませんが、このボディには味覚感応器が実装されているので御主人様の分で試してみましょう!」
「やったねっ」
「よろしくね、タツオ!」
「・・・食べ物は玩具じゃないからな」
「ふふっ」
ユチカに笑われてしまっているが、マルトヨは筒型の自立移動用ボディに入って俺に付いて回っていた。
遠隔自爆装置や行動制限装置も付けられているが、わりと自由だ。
まず禁忌であってもエルドール技術自体は既に確立されている。ドール・コアの技術も実際やるバカの是非はともかく、既存の物らしい。
あとはまぁ、マルトヨはなぜか俺が気に入ったたいうのが大きかったとか。それで断るのも小さいな、と。
市の戦死者の霊園に着いた。
ヒロシの墓の参る。今日が結婚記念日だったらしい。俺達が来る必要は無いが、マルトヨが墓参りに興味を示したのと、俺もご無沙汰だったから、来てみた。
今日は天気が好く少し風が強く、備えた花が風に散っていた。
蕎麦ヌードル屋にゆく前に少し休憩することになった。俺は以前程、体調は悪くないのだが気を遣われてしまったようだ。
軽負荷増血剤をユチカが持ってきた保温水筒のコーヒーで飲む。いい香りのコーヒーだが増血剤のせいで後味が、血だ。
子供達はマルトヨとフリスビー遊びをしている。マルトヨは伸縮アームを2本出せる。
「あの人も軍関係者なんでしょうね」
コーヒーを飲みながら、子供らと無邪気に遊ぶマルトヨを見詰めるユチカ。
「技術職だった気はするが、諜報部も突き止められてない。まぁ表向きは『自立型の機械式ゴーレム』で通すが」
「・・戦争が、仕方無い物だとして。その後の始末の悪さに耐え切れないわ。この騒動が悪化するようなら、私は子供達と田舎に引っ越そうと思ってる」
「そんな反応が自然だよ、ユチカ」
「貴方は結局戦い続けるのね、タツオ。その紫の瞳で、今は何が見えてるの? あの人、ヒロシは見える? 私は、・・夢に見ることも少なくなってしまったわ」
俺は少し芝居掛かって跳ね上げ式のサングラスの片方を上げた。墓所だ。様々な魂のうねりは見えた。
ヒロシのはっきりとした姿は見えない。それでもうっすらと、ユチカを薄い光のヴェールが包んでいるのが見えた。
「事実が詰み上がってゆくんだよ、きっと。この眼でなくてもわかる。ヒロシはいたんだぜ、ユチカ。少なくとも、君を寂しがらせるくらいには、いい男だったんじゃないか?」
「・・そうね」
ユチカは笑って、コーヒーを飲んだ。俺も飲む、微かな気配だけ残し血の味も消えてゆく。
トロシが暴投したフリスビーをマルトヨがそんなバカな、という程腕を伸ばしてキャッチして子供達を喜ばせていた。