ドール・コム 2
起動キーは得た。俺は迷彩効果が維持されたまま、ブリンカーを手に入ってきた窓に足を掛けていた。と、
「っ! おわっ?」
一際大きな振動が地下ドックに響きだした。危ねっ。なんだ? 通常大型機動兵器は完封したはずじゃ??
(タツオ・タカナシ隊! 既に地下ドッグに入ってるな?!)
ミティによる通信の得意な諜報部員だ。
(ああ、キーを奪った。撤収するところだ)
(そのまま機体で出れないか?! 基地司令を押さえたが、文官の中に召喚術を使う者が紛れていた。大型の魔物を3体喚ばれたっ)
(はぁっ? 動くのかコレ??)
(今日も有線遠隔操作ではあるが運用テストは行われている。昼間の時点での担当エンジニアの食堂での会話では固定武装までは取り外してないはずだ。キーコードはこの基地の士官機の物と変わらない)
仮に動くにしても砲戦機のタンク型でいきなり中近距離戦になりそうだな・・だが、
(やるだけはやってみるが、足止めは頼むぜ!)
ここでビビっても状況が悪くなるだけだ。
(勿論だ)
念話の接続が切れた。会話の内容からしてジェドとカンロにも伝わっているだろう。
「理力よ」
俺はブリンカーを使って窓から浮き上がった。そのすぐ後で、管理室にバズーカで榴弾を撃ち込まれ、爆破された。
「バッカっ?! まだ中にっ、くそっ」
撃った短気野郎に1発撃ち込んでやりたかったが、位置を知られたくない。梁のジェド撹乱しつつ、迷彩を維持したまま安全圏に逃げ回ることに専念しているようだ。
カンロとステルスゴーレムと控え位置で何もせずに潜んでいる。
キーを奪われたことや、こっちが迷彩を使っていることで連中は機体の周囲に兵員とクラブアーマーを集めつつあった。
俺は近くに置かれた機体の腕部武装用の狙撃砲の陰に降りた。
俺は連中の威嚇射撃の音に紛れさせて手榴弾のピンを抜き、全く無関係な位置にあった作業重機の足元に投げ込んだ。
爆破で派手にひっくり返り、動力系を軽く誘爆して炎上する重機、兵員とクラブアーマー達の注意が向く。
この隙をカンロは逃さなかった。太刀のブリンカーに風を付与して加速し、機体周囲の兵員にのみに集中して峰打ちで、全員昏倒させた。
攻撃の衝撃と風のエレメントのパワーで迷彩が解け、クラブアーマーと離れた位置にいた兵員がカンロを銃撃しだす。
加速で逃れ、魔力障壁も張りながらクラブアーマーを斬り捨て始めるカンロ。
俺はその混乱に乗じて機体の方へ駆け寄り、無限軌道の腰の辺りにあったカバーを開けて操作し搭乗ワイヤーを出して鐙に足を掛け機体の腹辺りのコクピットへ移動した。作業用の足場を出して降りる。
まだバレてないが、一応小剣ブリンカーで魔力障壁は張る。
コクピット脇のカバーを開けてコードを入れ、コクピットを解放した。これはさすがにバレた。
「ヤッベっ」
障壁で防ぎつつ、慌てて乗り込んでコクピットを閉じた。
暗い。ペンライトを出して照らす。
「・・ここか?」
ほぼ勘だが、軌道キーをそれらしい位置にさした。
ヴゥウウゥゥッッ・・・・!!!!
起動音がして内部に明かりが点いた。よしっ!
内部はいわゆる戦車式の段差と複座のある内部構造ではなく単独操縦用のシンプルな作りで、シート後部にはどことなく人の頭部のようなポット型の奇妙な構造物もあった。
なんだこのポット? 違和感が強く、跳ね上げ式のサングラスを上げて確認しようとすると、
「・・おや? 新しい御主人様ですか? 迷彩ですね」
ポットの目もと? に明かりが灯り、音声を出してきた。俺は仰天した。
「おおっ?! 自立型??」
「いえ、そこまで高度な電子頭脳はまだ開発されていませんよ? 御主人様。私は脳だけの完全機械化人間です。規格としてはハイエンドアーマー機をサポートする『ドール・コム』と呼称されています」
俺は混乱した。
「人間・・だったのか?」
「ドール・コムとしての最適化の為に1000倍の加速時間で圧縮学習をしたのですが、その過程で私の旧人格は失われてしまいました。よって、そうですね・・『ピンとこない』ったヤツです」
ざっくりした自己認識っ。
「そうか。・・ま、いっか」
「いいんですか? 御主人」
最悪、ブラスターでミンチブロウをぶっ込むだけだ。
「俺はこれから地上に出てこの機体で大型の魔物どもを始末したいんだっ、協力できないなら邪魔しないでくれないか?」
「・・はい、何かいますね。いいですよ? 協力はしますよ」
フランクな感じで言ってくる??
「お前はその、組織の構成員なんだろ?」
「カレトヴルッフですね。違いますよ?」
カレトヴルッフ、確か古語で『王位の剣』の意味だったか。いやっ、というか!
「違うのか?!」
「はっきりとは覚えてませんが、いつの間にか改造されてた、といった感じです。まぁ最適化しているので違和感もないんですが。どちらかと言えば私はただの道具で、それ以上の物ではないですね」
「ええ?」
何と喋ってるんだ俺は?? と、コクピットに激しい衝撃を受けた。
「榴弾を使い始めましたね。この程度でもあと80発程撃たれれば、機体や、わたくしはともかく、御主人はコクピット内で焼け死なれると思われます」
「だろうなっ! よくわからんが出撃するっ、いいな?!」
「どうぞ、御気の召すまま」
俺は、サングラスを取り、ベルトでシートに身体を固定して機体を動かしだした。後ろに妙な物が乗ってることを別にすれば特に変わった仕様の機体じゃない。
固定具を引き剥がし、身体の向きを変え、対歩兵、対下位兵器用威嚇機銃で目に付くクラブアーマーだけ狙って纏めて掃討する。火力が違う。圧倒だ。
「後は上手くやってくれ!」
もう傍受も何も無い、スピーカーで話し掛けてやった。2人は無線で「わかった」「片付いたら、私も様子を見にゆく!」と知らせてきた。カンロのヤツ、生身で大型戦に参戦する気だな・・
無限軌道でリフトに乗り入れる。リフト自体が攻撃されだしたが、ステルスゴーレムが片手をどこかから投げ付け、それを触媒に魔力障壁を張って防いでくれた。
リフトの起動もステルスゴーレムがやってくれたようだ。機体は上昇を始めた。
メイン画面でリフトのルートを確認すると3番ドックが奥まった位置にあったこともあり、結構遠い位置まで移動するようだ。
手早くエーテル1本で軽負荷増血剤を飲む。マズっ。
「いい仕事をする人形でしたね」
「ああ・・」
お前に言われてもな。ともかく、俺は機体の武装を確認した。
威嚇機銃、右肩の対アーマー榴弾砲、右腕の対アーマー機銃、左腕の格闘パワーアーム、ワームカメラ、お? この機体魔力障壁展開可能か。それぐらい、か。
簡素な武装だが、基本性能はかなり高い。構造が人体に近過ぎて独特だが、やれる!
俺が、ジェドの魔法の範囲外になって迷彩が解けながら気合いを入れていると、
「御主人様、リフトと駆動音、振動、機体のエネルギー反応を1体に気付かれました。待ち構えてます」
「何っ?!」
確かに集中すると巨大な気配と火のエレメントを感じた。
「放出攻撃の構えですね。敢えて撃たせてカウンターでいきましょう」
「言うのは簡単だっ」
画面に詳細データが出る。ハッチ前で殺る気満々にしているのは火属性のキングダイアーウルフ。超大型の狼型の魔物だ。
動きの速いヤツだから、確かに待ち構えていてくれた方が対処はし易い。先に探知できていればの話しだが。
・・高エネルギー反応っ!
「来るぞ!」
「でしょうね」
地上に接近して機体に対し、キングダイアーウルフはハッチを撃ち抜く灼熱の特大火炎弾を放ってきたが、魔力障壁で防ぐ!
俺はは普通に障壁を張っただけだが、ポットのヤツが障壁を三角錐型と半球型の2種類張って炎を完全にいなした。やるなっ。
合わせて、榴弾砲で炎の向こうのキングダイアーウルフの口を撃って吹っ飛ばし、機底と背部のバーニアを吹かして焼却炉のようになったリフト口から地上に飛び出し、無限軌道で頭部を失ったキングダイアーウルフを轢いていった。
状況確認をする。
「周囲は炎上していますが、人的被害は少ないですね。わたくし達に気を取られたのでしょう。3時の方向、上空に雷属性のエルダーグリフォン。16時の方向にバジリスクがいます。エルダーグリフォンをこの機体の装備で倒すには高度が高過ぎます。魔法使い隊の攻撃で弱って高度を下げるまで無視しましょう」
「バジリスクか」
「そうなりますね、御主人」
毒と石化の魔力を待つ蜥蜴型の魔獣だ。離れて戦う分にはなんとでもなるが、この状況だとな。だが、ぼんやりしていると上空のグリフォンと連携されかねない。
俺は機体を16時方面に慎重に建物の陰を経由して近付いた。
大型の魔物は暴れているにせよ、基地の制圧自体は粗方済んだ様子でもあった。
最も近く、隠れられる最後の建物の陰から多間接コードの先にカメラの付いたワームカメラで確認する。
「酷いぞこりゃ」
周囲に毒を撒き散らし、こちらの部隊が投入した中型以下の無人アーマー機を石化してそこら中に転がして粉砕しているバジリスク!
歩兵や、中型以下の有人アーマー機ではとても近付けた物ではない。
チマチマ遠巻きに威嚇攻撃をしてその場に釘付けにはしてくれていたが、硬く、再生能力のあるバジリスクに、手持ち武装ではお手上げの様子だった。
「1発で殺れるかな?」
「距離が近過ぎます。例え仕止めても、本能的に条件付けをしたカウンターは撃たれますね。が、わたくしが障壁で防ぐので問題ありません」
事も無げに言うポットのヤツ。
「本当かよ?」
「この機体は石化耐性はいま一つです。わたくしは少なくとも『暴れる猛獣』の道連れで再起動不能になるのは不本意ですね」
「へぇ奇遇だな、俺もだ!」
俺は機体を建物の陰から出し、一瞬でロックオンしてバジリスクの頭部を榴弾砲で撃ち吹き飛ばしたが、バジリスクは死ぬ間際に左肩の辺りのトゲを肩が吹き飛んで腕が千切れる勢いでこちらに射出してきた。
精度、速度、完璧だ! しかも触れれば石化して砕かれる。異常に攻撃性の高い生物っ。
バチィイイッッ!!!!
宣言通り、手動では反応困難なカウンターをポットのヤツは集約させた魔力障壁で器用に弾いた。
「いい反応だ。ええっと・・」
呼び方がわからない。
「ドール・コムとしてはNo.は5番。マルトヨ、と自認しております」
「マルトヨ、か。俺はタツオだ。まぁ・・よろしく」
「はい、タツオ様」
そのまま紅茶でも出してくれそうな感じでマルトヨは応えてきた。