奇怪なダイナモ 3
レッサーエルドールの白衣のワーラレパードの女は面白がるような素振りを見せ、製造中の奇怪なダイナモを振り返った。
余裕だな。魔力障壁等の防御手段も備えているに違いない。
「異常な生命力を持つエルドールを動力に活用する。単純な理屈だが製造を実行するにはそれなりのガッツが必要なんだよ? 我々にはそれが、ある!」
不敵な笑みを見せるワーレパード。
「子供を素材にしたのか?!」
太刀の切っ先を向けて問うカンロ。
「別に趣味じゃない。適合する世代が存外限られていた。それだけだ。まぁ、赤子と比べれば仕入れは簡単だが」
俺は1発、通常弾をワーレパードに撃ったが強力な魔力障壁で弾かれた。機械化した左腕と一体型の展開機をやはり持っていた。
「何の為だ? それなりの組織規模なんだろう? マフィアのレベルじゃない」
「そうだな・・わかり易く言うと、世界の安寧と自由を願っているのさ」
その平温その物の目は、冗談でも狂気でもなく淡々と物の道理を語っていると知らせていた。
「そうか」
決裂だ。コイツらは軸が違う。善悪ではなく平行だ。
俺とカンロは気配で呼吸を合わせた。
姿を晒しているが射線は通し易い。初動だ。向こうには対策を立てる時間はあったはず。初動で優位を取って、まず同等程度の状況を作らないと勝ち筋が見えない。
どうする? ジェドのもう1体のゴーレムは今、どの位置で? カンロはどう出る?
閃光か煙幕の弾丸を撃つか? いやダメだ。普通過ぎる。想定済みだろう。
機械だが電撃は番犬代わりの対人アーマーの時点で内部まで通さないと無効だった。
手下の機械のミドルゴーレムどもも散らばってはいるが80体近くいる。となると・・
「逆立てっ!」
あまり得意な技ではないが俺はブラスターに金属と分身の力を付与して連射し、散弾をワーラビットの女の前面のフロア広域に打ち込み、歪な金属の柱を多数噴出させた。設置系の技『ハードセメタリー』だ。
不得意な技の連発に一気に魔力と体力を持っていかれて軽く目眩がする。
それでもワーレパードを戸惑わせ、カンロに突入の機会を作れた。
同時に中空で姿を消していたガードボール数十体が出現し、9割はカンロに残りが俺に熱線を撃ってきた。
人形達も7つの集団に分かれて固まりだした。合体変形の構えだ。
そして、それまで気配も無かったジェドのステルスミドルゴーレムも姿を現し、足のバーニアを吹かしてカンロとは別のルート取りでジェドの転がされた陣へと突進を始めた。
「危ねっ」
俺はさっきまで隠れていた通路の陰に飛び退いてエーテルと増血剤を取り出し、カンロは着地した先の金属柱を盾に、ワーレパードは無視して合体しようとする機械のミドルゴーレム達に駆け込む。
「っ?!」
カンロの動きとジェドに向かうステルスゴーレムに気を取られ、ガードボールの攻撃対象を一瞬迷うワーレパード。
その隙にカンロは太刀のブリンカーに風と硬質化の力を付与し、風でさらに加速して合体しようとする機械式ゴーレム達のコア個体を斬り付けだした。
『大鼬・アダマン斬り』だ。瞬く間に4つのゴーレム集団のコア個体を斬って纏めて誘爆させた。
遅れてガードボールも熱線を撃ったが、その場所に既にカンロがいない。
ジェドのステルスゴーレムもジェドと起動停止している護衛のゴーレムに迫ると、両手を陣に向かって射出させた。
右手は魔法式を展開させて魔法式解除の魔法式を外部から無効化させ、左手はガスを放った。アンモニアだろう。
「ぶわっ?! 臭ぁっ!!!」
ジェドが起きた。速攻でガードボールに熱線を撃たれたが、護衛のミドルゴーレムに魔力障壁を貼らせて防ぎ、すぐにステルスゴーレムと護衛ゴーレムを飛行形態に合体変形させて飛び乗った。
阻止が間に合わなかったゴーレムの集合体3体は機械の大型傀儡人形となり、カンロに襲い掛かりだす。
ガードボール群は加速が乗ったカンロは捉えられないと見たらしく、俺とジェドの始末に掛からせる様子だ。
ジェドを人質にするつもりが当てが外れた、ってとこだな。
状況は作れたが、もう一押しだ。ジェドは逃がせてもカンロの離脱が難しくなった。ワーレパードの女が今カンロさえ潰せば相手を纏めて詰める、と気付く前に塗り替える! 装填済みだ。
「穿つっ!!」
俺はミンチブロウを連射して、ガードボールを全機撃墜した。
「っ!」
顔色を変えるワーレパード。カンロは回転で勢いを付けて威力を増す『大鼬・アダマン斬り・刃会』でギガントゴーレム1体のコアを斬って誘爆させた。
回避の必要の無くなったジェドはだいぶヨロついていたが、爆破魔法で残るギガントゴーレム2体の足元を起爆して、怯ませる。
「チェストーっ!!!」
カンロは一際力を増した大鼬・アダマン斬り・刃会を横回転で放ってギガントゴーレム2体のコアを一撃で切断し、誘爆させた。
残るはワーレパードのみ! 目眩が酷い、視界が狭くなってきた。装填が覚束ず、1つ弾を落としてしまった。エーテルと増血剤の連続使用はキツい。ポーションはいけるか? 離脱用に少しは体力を残すべきだろう。
追い込んだが、逃げずに待ち構えていたのは障壁だけでなく転送か伏兵の用意がないと不自然だ。
カンロはさすがに魔力使い切って自分のウワバミのポーチからエーテルを取り出していた。
ジェドも相当だが、一度痛い目に遭っただけにワーレパードから目を離していない。
俺もポーションを飲む前に気張るかっ。ブラスターを構える。解除と魔力強化の力を付与する。
目が霞む。ワーレパードは興醒めの顔をしていた。逃げるつもりだな。どんな道理か知らないが、一撃喰らわしたい。手が震える。マジか。まだ戦えるだろ?
「っ!」
手が添えられた。1人じゃない、2人、3人、・・大勢だ。背にも。子供達だ。
視界が晴れ、腕に力が戻った。
俺はブラスターを一撃放った。魔力障壁に着弾後、魔法式を乱して解除する。妨害技の『スペルマッシャー』だ。障壁が消えた。ジェドが動いた。
「火炎魔法っ!!」
紅蓮の炎が白衣を着た半機械化ワーレパードを包んだ。
・・しかし、
バシュッッ!!!
炎が払われた。浮遊するワーレパードの白衣は焼き払われ、レオタード型の防護服姿になり、多少焦げてはいたがノーダメージであった。嗤っている。
「順序良いじゃない、ふふっ」
そこへ、カンロが飛び込んできたが、突如空いた足元のハッチから大量の機械化ケムシーノ達が溢れ出した。
「ぐっ?!」
慌ててブリンカーに加速の特性を付与して斬り払うカンロ。俺もジェドもすぐには動けない。きっと干渉に負担が掛かるんだろう子供達も消えていた。
やれるか? 無理か?
「まぁ、いいよ。どうせ直に増援も来るんだろう? 一通り仕事は終わった。後は掃除だけ・・5分やろう!」
レッサーエルドールのワーレパードが焼けた手近な操作盤ではなく、ダイナモの製造ライン奥の別の操作盤に手を差し延べると起動し、地下全体に警報が鳴り響き始めた。
隠滅かっ!
「あたしはアネッサっ! 組織じゃいい顔だよ? また遭いたいねっ、アハハッ!!」
アネッサと名乗ったレッサーエルドールのワーレパードは自身をテレポートさせて消えていった。
「余興のつもりか、ったくよっ!」
俺はポーションを一気に飲んだ。あれこれ飲み過ぎて吐きそうだ。寒気がしてきた。ジェドもエーテルを飲み、エルの火炎でカンロの援護を始めた。
俺は通路に魔石式バイクを出し、乗るとリミッターを外して急発進させて宙に飛び出した。
「風よっ!」
車輪に風を付与して機械化ケムシーノを蹴散らして着地する。このバイクも実はブリンカーだ!
自分で出した金属柱が死ぬ程邪魔だったが、これのお陰でカンロは袋叩きにされずに済んでいた。
「乗れっ!」
「遅いっ!」
「厳しいなっ、オイっ!」
カンロを回収し、ケムシーノ達を吹き飛ばしながら合体ゴーレムに乗るジェドとも合流し、壁を駆け上がり、通路に戻った。
だが、急停止して振り返る。
「タツオ?!」
「諦めろ」
ジェドが困惑し、カンロには諌められた。
奇怪なダイナモ達を見る。
微かな光が集まり、また子供達の姿が現れた。どの程度かはわからないがこれはジェドとカンロにも見えたらしい。息を飲んでいた。
戦ッテクレテ、アリガトウ。モウ、行ッテ。終ワレルカラ・・・
「悪い」
俺は魔石バイクを再反転させて発進させた。
「・・5分、ガチだと思うかっ?」
爆走しながら懐中時計を見る。
「アレは気分で話すタイプの女だ。そこで嘘は吐かないんじゃないか?」
「ボコボコにされてるワリには肩を持つんだなっ、Mなのか?」
呆れるカンロ。
「違う! 審美眼さっ、女限定の!!」
「とにかくダクトに直行だっ!!!」
俺達は一階に飛び出し、通気口に突っ込み、全てのダンパと外部カバーを爆破して工場外へ飛び出した。
直後に地下からバイクが跳ねる程の振動と爆音が響き、一階も工場全てが陥没し、あちこち炎上が起こった。
「・・俺は、このまま引き下がれなくなった」
「私もだっ、次は斬る!」
「え~? そこまで積極的じゃないかなぁ??」
俺達は燃えゆく崩落した廃工場を見詰めていた。