奇怪なダイナモ 2
ミンチブロウ3発でマナトービード6発を誘爆させ、残り6発は、
「チェストーっ!!!」
カンロが瞬間加速と無属性の力を付与したブリンカーで斬撃を飛ばす大技『弧月』を2撃放って纏めて誘爆させた。
だが即、機銃掃射が来る。俺達は必死で飛び退いて瓦礫の陰に隠れて逃げまくる。
銃弾だけは装填した。
「カンロっ、ジェドの自力での脱出に期待して俺達も戦略的撤退するかっ? それとも」
「バイクしまっていたろっ? 陽動してくれっ、動きと動力系はもう見切った!」
「ああ、・・まぁ言うと思ったよ!」
俺はヤケクソ気味にウワバミのポーチから魔石式バイクをドシンっ、と取り出し、飛び乗り、低い姿勢でリミッターを解除して爆走しだした。
「ッ??」
状況把握に一瞬止まる対人アーマー、その隙にバイクの加速が乗り、カンロはより近いガラクタ山に駆け込んだ。
対人アーマーはマナトービードの充填を始めつつ、機銃による攻撃はより速く機動兵器を使ってると判断したらしい俺を優先して狙い撃ち始めた。
リミッターを解除した魔石式バイクはガラクタの山だろうが瓦礫の壁面だろうがお構い無しに走り抜けてこれを躱すが、マナトービードを撃たれると面倒だ。
もう一息で接近できるカンロの援護もしたい。俺は回避しつつ車体から見て右手側に対人アーマーが来るように操作した。
続けて、まともに狙いはつかず集中できる状態でもないので、ブラスターに爆破の力だけ付与し、大雑把に対人アーマーの足元に向けて連射した。
なんならジェドの時のように床が抜けて地下の床に激突してくれりゃいい。
だが、床は抜けず、対人を少し怯ませただけだった。
それで十分だった。
「チェストーっ!!!」
急速に接近したカンロは帯電する鋼鉄の拳による迎撃を回避しつつ、雷の力を付与した刀身で周囲への放電を吸い取り、対人アーマーの懐に飛び込むと更に硬質化の力を付与して一閃する『紫電・アダマン斬り』を放った。
ザシュゥッッッッ!!!!!
胴体中心からやや上辺りを深く斬り裂き、内部を感電させ、素早く飛び退いてブリンカーに障壁の力を付与する。
激しく爆発する対人アーマー。カンロは上手く魔力障壁で受け流しつつ凌ぎ、俺も破片や爆風を魔石式バイクの魔力障壁で防いだ。
「やったな、カンロ」
バイクを止めて呼び掛けたが、カンロは困惑顔だった。
「・・斬った感触が妙だった。人を、斬ったような??」
「人?」
俺は工場の外で見た子供達の死霊? を思い浮かべてしまい、胸がザワついた。
上階から爆音と振動が響いた。おそらくタツオ達がアーマーを倒したんだろう。すぐ合流したいところだが・・
「ケムーっ!!」
私は機械化改造されたモヒカン毛の芋虫型の魔物ケムシーノの群れに襲われていた。
地下は暗かったから照明魔法を灯しているのが不味かったかな?
「障壁魔法っ! 爆破魔法っ!」
使役しているミドルゴーレム1体に守られつつ、応戦する。飛ばして毛針や回転体当たりは魔力障壁で防ぎ、爆破魔法で吹っ飛ばす。
「多いねっ!」
透視した時は見当たらなかったが、観測対策エリアから廃工場の主が放ってきたんだろう。
実はもう1体、飛翔形態の片割れのステルス特化型のゴーレムを使役しているが、少し距離を置いて潜入させていたから落下して拍子に分断されてしまっていた。
位置は把握しているが、戦闘する内に落ちた穴から離れてしまったからケムシーノ達に気付かれないように移動させてることもあって少々手間取っている。あと少しなんだが、
「タツオはインターバルがいるからなぁ」
戦闘後ほぼ確実に貧血を起こす。増血剤等を服用しても回復に数分掛かる。タツオを置いてカンロだけが地下に来るような選択は取らないだろう。個撃破の機会を与えるだけだ。
良くも悪くも我々は元軍人。合理的に動く。ゴーレム1体で耐えられるかな? ステルス型は合流後、即参戦させるべきか? 今の内に何か条件付けさせておくべきか? ふーむ・・
「っ?!」
機械化ケムシーノ達が飛び退き、突然宙に機械の玉が3体出現した。球形浮遊防衛体っ! ステルス機能機かっ。
ヴゥンンッッ!!!!
次の手を打つ前にガードボールは魔法式を展開し! 私のドガラとゴーレムの起動を解除されてしまった。
ステルス仕様可で魔法式展開可能ってどんだけハイスペック??!! 反則だっ!
驚いている内に、腹に控えていたケムシーノの1体の強烈な回転体当たりを喰らい吹っ飛ばされた。
「がふぅっ!」
倒れ込んだ先に、白衣を来た身体半ば機械化した豹型獣人族の女がいた。
「下位機械化人間っ!」
レッサーエルドールは掌の射出口から針を撃ち、私の首に差した。身体が痺れるっ。
「不快な呼び方だね。あたしはただのサイボーグだよ? あんな化け物どもと同類にしないでほしいね」
顔を踏み付けられた。くっ、女は好きだがこういう趣味はない! もう1体のステルスゴーレムの起動はなんとか維持できてるっ。私を視認できるところまで来ていた。突入させるか? いや、無理だ。
すぐ殺すつもりは無いようだが、意識を保ったまま細かな指示を出せる保証は無い。私は今できる範囲で、想定される状況に対応した条件付けをいくつかステルスゴーレムに与えた。
「どうしようかね? 大人じゃダイナモの材料にならないし、ここも当局とバウンサーギルドに知られたんだろう。・・ムカつくねっ!!」
私を踏んでいた足は機械化していたらしく、足裏辺りから放電され、私は昏倒した。いや生きてるかなこれ? 大人じゃ材料にならない? 等と思いながら・・
貧血が収まるのに少し時間を取った。改めて長距離電信機を取り出してギルドに連絡してから2人とも暗視ゴーグルを掛けて階段から地下に降りると、機械化ケムシーノだらけだった。
「こうなると火急だっ! タツオはここぞという所まで大技は使うなっ。休憩をいつ取れるかわからん!」
「了解っ」
体質は受け入れるしかない。俺はブラスターに風の力のみ付与し、カンロが機械化ケムシーノ達を掃討する援護射撃に専念した。
突っ切って、観測対策エリアに入った。急に施設のコンディションがいい電灯も点いていて、ケムシーノも見当たらない。
ゴーグルは取った。
「カンロ、ジェドと合流できたら可能なら即、撤収しよう」
「仕形ないか・・」
ジェドが落ちた穴から断続的に戦闘の後があったが、ある一点で途切れていた。死体は無かった。
機械化ケムシーノに遅れを取るジェドではないが、派手な戦闘の痕は無かった。瞬間的に無力化されたか、魔法を無効化されたか? いずれかだろう。
ジェドは生存し、捕獲されている。その前提で探索を続けていた。
そのまま、戦中戦後の資料通りならばダイナモ開発と試験製造が行われていた区画の前まで来た。
やや高所の通路の陰から様子を伺う。
・・いた!
操作盤の前に拘束はされ軽く焦げていたが随分雑にゴーレムと共に転がされていた。魔法解除の魔法式が施された陣の中の上だった。
「タツオ、付いてるゴーレムは1体だ」
「ああ、ジェドの往生際の悪さを信じよう」
俺達は意識を一旦、状況確認に専念させた。この区画では現役でアーマー用の魔石ダイナモの試作が行われているようだったが、それは異様な物だった。
小型の、頭部だけのエルドールと魔石ダイナモを融合させた物を製造している。頭部だけのエルドール達は機械の触手もダイナモに固定され、ほとんど身動きが取れず、意識も無いように見えた。
作業は操作盤の前の白衣を着たワーラレパードのレッサーエルドールただ1人と、機械式の簡素なミドルゴーレム達が行っていた。
「アレは子供だ。工場に入る前、子供達の霊体のような物から訴えられた。助けて、と」
「・・斬るより他無いな」
手筈を話そうとした時、違和感を宙に感じた。
俺とカンロは即応し、俺は1撃。カンロは2撃。攻撃を放ってステルス特性で姿を消していたガードボール3体を撃破した。
操作の手を止め、こちらを振り返るワーラビット。
「いい反応だねぇ! バウンサーギルドを抜けて、あたし達の組織に来なよっ? 給金は2倍払う!」
俺達は高所の通路の陰から出た。
「長生きしてるが大して学は無くてな! 語彙が足りないっ。端的に言って」
「くたばれっ、こん畜生っ!!」
俺の言いたいことをカンロがスムーズに翻訳してくれた。