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酒の材料を集める 2

俺は魔石式2輪バイクで市近くのグランリーフ平原を貫通する国道を走っていた。

戦災であちこち破損したガードレールは放置されていたが、まともなアスファルト路面と等間隔の魔除けと夜間照明の月光灯(げっこうとう)は陸運に必須だから意外と復旧している。

戦災で荒廃し、さらに焼け出されてアテがなくなった人々がどんどん集まる市にまともな国道がなければどうなるか? 火を見るより明らかだからだ。


「しかし、名工フガクが造る霊蘭酒(れいらんしゅ)か。魔術陶器でやるんだろ? 楽しみだな。・・ふふっ」


俺じゃない。後ろに狐型獣人族(ワーフォックス)魔法使い(ソーサラー)のジェド・オータムゴールドを乗せていた。

我ながら狭い人間関係だが軍時代の知人だ。コイツも稼ぎ屋(バウンサー)。そしてかなり酒好きでもある。医者に週2日の休肝日と月数回のカウンセリングを厳命されるくらいの・・


「ジェド。酒はフガク爺さんの息子用だ。俺達は素材を集めるだけだぜ?」


「それはどうかな? タツオ。味見する所までがミッションだ」


「無いぞ? そんなミッション」


「なんなら金を払ってもいい」


「主旨おかしくね?」


「結局、酒、女、美味い食い物。これらだけが重要なんだよ。あとはまぁ、気のせいだ」


「気のせいって・・」


助っ人の人選ミスったかもしれない。だが、知り合いで暇そうなソーサラーはジェド以外いなかったんだよ。



グランリーフ平原内の目的の地点まで来たから国道を外れ、魔物を避けながら祓い所(サークル)まで来ると、バイクを停め念入りに野外用に魔力障壁を張った。魔除けのサークルの中だが、国道からそう離れてないから盗難リスクが高い。


「この魔石バイク、軍の横流し品だろう? リミッター付いてんのバレバレだ」


「ノーコメント」


俺達は軽く食事を取りつつ、地図や資料を拡げた。

ジェドはわざわざ市で結構いい店のキッシュを買ってきていて、それを魔術で温めてブランデーをたっぷり落とした紅茶と一緒に洒落たフォーク食べている。


「春先でこの間まで雨が降ってたせいで土地の力が強い。魔物は多いぞ? それに単純に植物が生え過ぎて邪魔だ」


暗に面倒なルート取りは断ると言いたいようだ。


酒樽蘭(ドランクプラント)のコンディションはいいはずだが、予定よりターゲット以外の素材集めは控えよう。質のいいドランクプラント自体の端材の売値でトントンだぜ」


食事を終えると、


「さて、例年通りのエリアに生えてればいいんだがな・・」


「頼んだぜ?」


ジェドは水晶玉を取り出して左手に持ち、右手は俺の肩に置いた。


千里眼魔法(パイ)


水晶玉を介し、効果を強化した透視の魔法で目撃の多いエリアまで見通してゆく。視界は俺と共有する。

脳内に今いるサークルから疾走する視界が投影される。独特の感覚だ。

視界が草を低木の木々を土を丘を獣や虫達、魔物達を越えてゆく。

やがて枯れた地面が続くエリアに到達し、その中心に奇怪かつ巨大な竜舌蘭型の魔物が映しだされた。

ドランクプラントだ。丸々とした鱗茎(りんけい)を抱えている。これが蘭酒のベース原料になる。

ジェドは透視の発動を切った。


「ふうっ、こりゃルート取りが大変だ。ターゲットもデカくないか?」


念力で自分のウワバミのポーチから魔力活性液(エーテル)の小瓶を取り出して蓋を取り、飲んで不味さに顔をしかめつつジェドは言った。


「ん~、・・よし。寄り道は止して、ドランクプラントのみに集中しよう。ありゃ完熟体だ。売れるぜ?」


透視した映像は水晶玉に記録されている。それと地図とグランリーフ平原の資料を手にターゲットまでのルートを協議して、俺達は準備を整えた。


「いくぞ?・・障壁魔法(ドガラ)加速魔法(ラピン)!」


ジェドは自分と魔力障壁を張り、時を加速させた。

草だらけ、あちこち魔物だらけの平原を一気に駆け抜けてゆく。

魔物は全力避けるが、多少の障害の草等の障害は魔力障害でガンガン潰す。

加速中、負荷を配慮して念話をする魔法までは使っていないので会話はできない。先頭を走る俺は想定していたポイントで後ろのジェドに合図して、2人で立ち止まり、木陰に隠れた。

加速は切っていない。俺は拳銃型の付与火器(ブラスター)を構えた。前方に、表皮が岩その物の岩喰い犀が群れがいた。ここを抜けないと随分遠回りになる。

雄1体に雌4体。いい素材が取れるが見た目通り頑丈で狩るとなれば一苦労になる。今回はノーサンキューだ。


(眠れ!)


加速状態での口頭詠唱はミスり易い、動きながらの射撃も弾を空中に置くようになって癖が強過ぎる。心で強く念じ、静止した状態で1発ずつ撃った。

ややこしいが、6発分、火花が暫く宙に残る形で弾がゆっくり飛び、雄に2発、雌には1発ずつ、いずれも頭部に命中した。

物理的なダメージは岩の表皮が少し欠けた程度だが、眠りの魔術を付与した弾丸の効果で、5体全て気絶するように眠った。ゆっくり倒れてゆく。

俺はジェドに頷いてみせ、俺達は木陰から出て、倒れた岩喰い犀達を越えて目的地へ急いだ。



・・目的地まで来た。間近まで来てみるとドランクプラントがかなり広範囲の養分を吸い尽くして荒れ地に変えていて、近くの岩場と思っていた箇所が存外遠い。

しかし他にしょうがないのでそこに身を潜め、ジェドは限界だったらしい加速と障壁を切った。


「ぷはぁっ! 死ぬかと思ったっ。平地は距離感掴み難いっっ」


「障壁は前面限定でもよかったかもな」


「それを先に言ってくれ!」


俺達は一先ず回復薬(ポーション)を飲んだ。俺は少し目眩がしたので増血剤も飲んだ。


「貧血か、大丈夫なのか?」


「少し休めばなんてことない。そっちはエーテルは飲めないのか?」


「今、ポーション飲んでるところだっ。混ざったら吐く自信あるぞ?!」


「しょうがねぇなぁ。帰り用の魔力は蓄えておいてくれよ」


「了解した・・」


5分程休んで貧血は収まった。ジェドは改めてエーテルを飲む前に「口直し」と、また高そうなウィスキーボンボンをモソモソ食べだしていた。一手間掛かるヤツだ。


「やるか」


私は岩場の陰でブラスターを抜き直す。小剣型の付与白兵武器(ブリンカー)も持ってるが、完熟体のドランクプラント相手に俺の技量と体力で近接戦を挑むのはナンセンスだ。

ドランクプラントの毒の蔓はここまで十分届く。岩喰い犀同様、一撃、一瞬だ。ただし、今はもう加速や障壁の保険は無い。

俺はちっと眩しいが、跳ね上げ式サングラスの右側だけ上げ、左眼は閉じて狙いすます。


「1発で仕止めたらウィスキーボンボン7個やろう」


石油王のような口振りだ。


「次の地点までの移動もバイクだっつーの! ・・っっ穿つ!!!」


風と分身の力を付与し、1発限定でフルパワーで魔力を込める。ガンナーの大技『ミンチブロウ』だ。


バシュッッッ!!!!!


風を纏った散弾がドランクプラントの脳の役割をする人面をした花の(がく)を吹き飛ばした。

花の部位が落ち、それ以外の部位は蔓も伸ばしてめちゃくちゃに暴れたが、やがて力を失い、地に拡がるように全体が倒れ伏した。


「よしっ!」


「器用なもんだ」


俺達は劣化する前に、鱗茎以外も回収できる部位は全て素早く回収し、さっさとサークルまで引き上げた。

一応この周囲の支配的な個体であったはずなので、死んだのを気付かれると他の魔物が集まり始めるからさ。



元のサークルまで戻り、ポーションでまた増血剤を飲み込みながら資料を拡げた。ついで懐中時計で時間を確認する。午前11時過ぎだった。1日働いた気分だったが・・。


「ん? それ、まだ使ってたのか? 執念深いヤツだ」


ギルドで売ってるプレミアムラムレーズンスティックとかいう買うヤツいるのか? と思ってた割高な棒状糧食をこれまた口直しに齧りながら、ジェドが言った。


「除染済みだし、わざわざ懐中時計に造り直したんだ。いいだろ別に。元は高かったんだぜ?」


「切り替えが肝心だ」


「・・・」


退役してからアル中になった癖に、と喉元まで出掛けたが、ガキじゃない。俺は呑み込んだ。


「とにかく、まだ11時だ。あと3ヶ所あるから、今日中に1ヶ所済まそう」


あんまりボヤボヤしてるとフガク爺さんの息子が、市に着いちまう。俺はこの依頼をただのお使いで終わらすつもりはなかった。


「どれ」


レーズンスティック片手にジェドは資料を覗き込んできた。


「ふ~ん、なんだ。コレ、あと1ヶ所で全部済むな」


「ええ?」


意外な発言に俺は面食らった。



約2時間後、俺達はトンチャ岳の中腹まで魔石バイクで来ていた。だいぶ古ぼけている様子だが、サークルが見えてきた。バイクで来れるのはそこまでだ。

しかし俺はサークルに着く前にバイクを停め、崖から下方に見える地割れと隆起でデタラメに入り組んだトンチャ迷谷(めいこく)を見詰めた。ゴーグルを取る。谷にだけ霧が吹き込んできている。


「どうした?」


「・・死霊達が溜まってる」


光に弱い俺の紫の両目には死霊がよく見えるようになっている。

この谷自体には特に多数の死者が出たことは少なくともここ数百年無いはずだが、霧の原因になっている近くのトンチャ湿地帯では戦中、俺の隊ではないが激しい戦闘があった。


「湿地帯の戦死者達が霧に乗って森を抜けて谷まで集まってきたんだろう。日陰も多いし、ここでちょうど霧が溜まるからな」


「俺達の仕事じゃないがギルドに要報告だ。このルートは穴場で過ぎたかもな。タツオ、お前はあまりその目で見るべきじゃない。死者は見られていることに気付くと寄ってくるもんだ」


「ああ、わかってる」


俺はゴーグルを付け直し、霧の中で虚しく彷徨う死者達に背を向け、古びたサークルへ急いだ。

中に自分を見付けた気がして、内心ブルっちまったぜ・・。

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