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酒の材料を集める 1

発端は、国境近くの兎型獣人(ワーラビット)族の遊牧民の夏営地に唐突に哨戒基地が作られたことだった。

ワケもわからず家畜を連れて接近したワーラビット達が虐殺され、報復に哨戒基地が爆撃され、そのまま戦争になった。

理由は様々あったようだが、開戦から1年経ち両国の男子の人口が2割減る頃にはもう落とし所の無い争いになり、それからさらに7ヶ月が過ぎていた。


「ヒロシ! 俺達の部隊の割り当てが西部丘陵帯になったのっ、くじ引きらしいぜっ!」


自在に機体を回避させる。旧型だがもう慣れた。敵機の撃ち気も落ち着いて掴めるようになってきていた。


「俺は我らが隊長殿の御実家がめでたく爵位を失われたのが利いた、って聞いたぜっ?!」


「そっちかぁっ! ハッハッ!!」


操縦士の俺と砲手のヒロシはタンク型の魔石式戦機(マナアーマー)に乗って、雪を無限軌道で踏み散らしながら、敵国ザーバンド共和国首都近くの西部丘陵地帯で両軍共に戦略性に欠けるドロドロの消耗戦に参戦していた。

武装した魔石式三輪バイクや魔石式小型飛翔艇に乗った自決突貫兵達はアーマーの両腕の機銃で掃討し、敵国のアーマーや機械化された大型の使役魔獣は両肩の榴弾砲で仕止めてゆく。

こっちはタンク型のアーマーと支援用の小型アーマー主体だから火力は上だが、物量と破れかぶれさにおいては向こうが上だった。

首都攻略戦だった。花形の部隊はとっくに首都に侵入している。

俺達みたいな非主流派は型落ちアーマーで露払いの消耗戦に従事するのみ。

時計を見る。計器と一緒に付いているのと別に古道具屋で買ったブランド腕時計を、他にどうしようもないからガムテープでくっ付けてある。どっちかの時間は正しいはずだ。

両方予定の時刻だった。少し吹雪いてきた。有視界砲撃が利かなくなってくると相手の自決兵の特攻が効果を増す。マズいな。


「・・そろそろあっちの首脳が潜ってるシェルター抑えられてんじゃねーか?」


首都全体の転送門は封鎖済み、地下の脱出通路も特殊部隊が崩落させたはずだ。


「ああ、タツオ。これでようやくこのクソ戦争も」


その時、西部丘陵地帯の先の首都全体を覆おう閃光が走った。

光は丘陵地帯の全ての敵の自決兵と機械化魔獣と雪を焼き払い、全てのアーマーの兵装を焼き付けさせ少なからず誘爆させ、モニターも暗転させ、続けてきた超爆発の衝撃波は全ての小型アーマーと耐熱性の魔獣を砕きつつ、俺達が乗る重量を吹っ飛ばした。

上下左右がめちゃくちゃになる。どうにか止まり、今のところ誘爆はしていない。


「んががっっ??!!! 痛ぇっっ」


最悪だ。ヘッドギアをして防護服の上から安全ベルトも付けていたが、首はむち打ち、肩と胸骨にもおそらくヒビが入った。腰も抜けそうで左足がバカみたいな方向に曲がって火が付いたみたいに痛ぇ。

何より、毒光線(どくこうせん)の警告アラームが鳴り響いていた。


「被爆っ?! 毒光石爆弾使いやがったのか?? クソッ!! オイっ、ヒロシ! ヤバいっ、御破算だぞこりゃ?! 条約違反だっ。ぬっ? 通信利かねぇかっ、ヒロシ!! 機体を起こすから制御を」


手伝ってくれ、と言おうと痛みを堪えて振り返ったが、ヒロシは鼻から上を失って砲手席で流血して死んでいた。

コクピットの後ろにはさっきの衝撃で折れたらしいアームの先のスコープがめり込む形でヒロシの頭の上半分と一緒ぶち当たって砕けていた。


「ヒロシ・・・バカやろうっ」


俺は激痛に加え、急激な視力の低下を感じ鼻血も出たが、とにかく誘爆しないことを願ってアーマーをお越し、地図表示と魔石センサーと直感だけを頼りに撤退を始めた。

ここからの残存の俺達の部隊の団結力は見事な物で、通信不能で殆んどモニターが利かなくても、一斉に撤退し、後の監査部の取り調べにおいては、状況把握優先、人命尊重と隊長自ら朗々と弁じ、我々も完全同意した。

まだ退院もできてない首都壊滅から2ヶ月後、ザーバンド側の首脳との交渉が成り立たないまま、我々が戦勝したと新世界統治機構に認定され、終戦となった。

そしてさらに1年後・・



魔石式2輪バイクで所々破損が直っていない中央道を抜けてゆく、オープンヘルメットを被り、少し色を入れたゴーグルを付けている。


「寒っ、マフラーすりゃよかった」


4月でもバイクは寒いぜっ。トンチャ州の稼ぎ屋(バウンサー)ギルド本部へ向かう為、右折して暫く進むと貧民のデモで道が塞がっていた。


「おおっ?」


近くに州営の一般職業斡旋所があるが、国籍証明書が必要なのと国籍証明書の発行が容易でないことや、裏金による審査不正や、国籍不定者の排斥の口実になっていることが度し難い。

という主旨のようだ。


「全員分の仕事は、厳しいんじゃねぇか?」


俺は戦々恐々としながら、減速して脇のソフトドラックの煙が臭い小汚い細道に入って周り込んで、平時の倍は警備が固くなったギルドの州本部に顔馴染みだがギルドカードを見せて駐車場に入った。

停めてヘルメットとゴーグルを取り、物を多数出し入れできるウワバミポーチにしまう。一息つく。


「ふぅっ」


まず耳に風が当たる。俺は混血耳長族(ハーフエルフ)だ。それから裸眼だと晴れの昼間は眩しい。

毒光線被爆の後遺症の1つだ。元々栗色だった俺の瞳は紫に変わった。退院する頃には視力はむしろよくなったが、とにかく光に過敏になってしまった。

ついでに髪も体毛も全て栗色から銀色に変わった。入院中は一時無毛症になったからこれに関しちゃまた生えただけラッキーと思うことにした。

あとは貧血気味にもなった。寿命も30年は縮んだらしいが、ハーフエルフは人間族の2倍は長命だ。むしろ長過ぎて戦争の前は色々な一般職業を転々として、もて余していた。

戦中散々殺したから、ペナルティとして公正な気さえしてる。退役慰労金と軍人年金とは別に特別障害手当も少しはもらえるしよ。

俺は跳ね上げ式の薄いサングラスを掛けて、入り口に向けて歩き出した。



館内に入ったら入ったで予約はしたんだが、結構混んでいた。40分は待たされ、止めた煙草を吸いたくなったが予約番号を呼ばれ、18番の受付に向かった。


魔銃師(ガンナー)のタツオ・タカナシさん。お待たせ! 2週間ぶりね。飴食べる?」


のど飴を差し出してきたギルドの事務員、ユチカ・スズキは軍隊時代からの馴染みだ。

果汁は入ってなさそうだが、苺ミルク味だった。


「今日はサービスいいのな」


「まぁね、近くでデモやってるから当てられて必死になる人が多くて! 朝からずっと圧が強いから疲れたわ・・」


「バウンサーのギルドが再開した頃よりかはマシだろ?」


この州のギルドの再開は半年前。当時は俺も月に数件安い仕事にありつくのに四苦八苦した。


「ねぇ~、アレはほんと酷かった。娘達がいなかったら初日でバックレてやったよ!」


ユチカの夫は俺のアーマー乗り時代の相棒ヒロシだった。今は子供を2人を1人で養ってる。


「ギルドの再開自体が退役者のガス抜きって話もあったしな・・で、仕事はいいのありそうか?」


「そうね、体調は悪くないんでしょ?」


「ああ、貧血症は特に問題無い。眼もだ」


実は前の依頼で無理をし過ぎて医者に静養を勧告され、市近くの農村で釣り三昧の休暇を取っていた。


「わかった。じゃあ、素材収集系の仕事を頼める? 高価な蘭酒(らんしゅ)の材料なんだけど」


「蘭酒?」


出された資料に目を通す。度数の高い方か低い方か?


「ギルドへの直納品じゃないの。でも依頼人は知り合いだから、問題無いでしょ?」


「フガク爺さんか」


資料の写真には魔術陶器の類いを持った気難しそうな爺さんが写っていた。


「酒・・あの爺さん酒好きだっけな? ま、いいぜ。この依頼、引き受けた!」


想定される素材の収集地では依頼品以外にも色々採れそうだった。ユチカが、ギャラはさほど高くない仕事をわざわざ俺に振ったのはそういうことだろう。

俺は早くも初期加工と売却の算段を考え始めていた。



市の外れの土器錬成師館が多く住むエリアに来た。窯が多いから火のエレメントが強く、それを鎮める石柱が所々に建てられている。ほんのり空気も温かい。

多少治安に難もあるから停めた魔石式バイクは軽く魔力障壁を張って盗難対策をしておいた。高いんだよ、これ。

土器窯と並んで建てられた平屋の住居の1つの玄関の呼び鈴代わりの陶器でできた鳴子(なるこ)を鳴らす。


「・・誰だ」


「タツオ・タカナシだ。ギルドの依頼で来た」


「入れ」


玄関から入ると土間で、完全に作業場だった。土、水、砂、石、釉薬、塗料、その他錬成触媒、製作途中の魔術陶器や魔術磁器も多数あった。

生活スペースは奥にあったが、作業場の端にも簡素な休憩所くらいはあった。

前より片付いて、物が少ないな。


「タツオ。結局、お前が来たのか」


「結局?」


「よく知らんヤツを何人か紹介されたが、気に入らんので断った」


そういうことか。


「言っちゃなんだが、誰が集めても素材は素材だぜ?」


「ダメだ信用できない。座ってろ」


フガク爺さんは手を洗い、どうも俺に茶を出してくれるらしい。

オスロー・フガク。この辺りの土器錬成業界じゃちょっと有名で、特に実用魔術陶器の世界の達人だった。弟子を何人か育て、今はもう一線を退いて気の向いた仕事しかしていないようだが。

戦後、資産の大半を福祉や土器錬成業界の復興の為に寄付していた。


「茶だ」


安い、ノンシュガーのホットグリーンティーだった。軍隊経験を経ると、これでも上等に感じる。レーションセットに付いてたグリーンティーは、ホントに殺人的だったからよ。


「悪いね。フガク爺さん、なんで急に酒の錬成を?」


「ああ、もうすぐ、久し振りに息子が来るんだ。出そうと思ってな」


フガク爺さんは自分も座って茶を飲みだした。


「息子・・霊蘭酒(れいらんしゅ)少し飲むくらいなら買った方が安くつくぞ?」


爺さんが錬成で作ろうとしている高級酒だ。


「卸してる業者でなるべくいいの買ったらいい。俺はどっちにしろ野外で素材を集めて稼ぐつもりだから、爺さんの仕事は無くなっても別にいいぜ?」


作業場が片付いてるのと、これまでまるで話を聞かなかった息子。俺は警戒しだしていた。


「お節介は必要無い。材料を揃えてくれないなら、他の者に頼むだけだ」


暫く沈黙になって、俺と爺さんはテーブルを挟んで不毛に茶を啜った。


「・・・」


湯飲みを置く。


「わかった。材料は揃える。ただ俺には俺のやり方があるからな?」


ここで抜けない方がいいと判断した。


「ふんっ、勝手にしたらいい」


フガク爺さんは、そっぽ向いたが、表情に覚悟のような物が見えた。

ギルドでは稼ぐつもりで受けたが、こりゃあ、トラブルの臭いがプンプンしてきたぜ。

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