9話 リーシュ
ダオモとリネットが付き合い始めた。
講堂ではモヤを纏った生徒が多くいてリチャーノを中心にまとまっていた。
モヤについて検証するためにリーシュをパーティーとして呼び出した。
学院のダンジョン探索は生徒の経験を積ませるためにある。
魔法科も実技科も探索は義務で、探索の証拠として魔石の納品がノルマになってる。
探索は通常パーティーを編成して行う。
試験ではランダムに編成されたパーティーで行われる。
同世代の交流を増やすのが目的もあるのだとかで、できるだけ多くの生徒とパーティを組むことが推奨されている。
けれど魔法科は貴族の子息令嬢が多いから、推奨されているとはいえ技術科生から誘うことは少ない。
講堂の様子を思い返す。
モヤがあったのはほとんどが魔法科の生徒だった。
ダオモがヤバいと言ってたのもあって下手に警戒されたくなかった。
リーシュを誘ったのは、唯一誘っても違和感がない人物だったからだ。
それにシルバが懐いているようにも見えていたから誘いやすかった。
今回はシルバにお願いしてリーシュのモヤを消さないでもらっている。
なんか我慢してる様子があるけど、お願いを聞いてくれて助かる。
ダンジョンの低層を探索する。
といってももう慣れた階層で危険に陥るようなことはない。
今回はパーティーの連携確認の名目でリーシュと組んでいる。
休憩で袋小路にある小部屋まで来た。
「リーシュ。最近はシルバと遊んでもらってありがとな」
「ううん。シルバちゃんは可愛いよね!みんなもっとシルバちゃんと遊びたいのよ?」
道中も今も、リーシュとは和やかに会話が進んでいる。
「なあリーシュ。リチャーノとはどんな関係なんだ?」
ずばり切り出す。
とたんにリーシュのフワッとした柔らかい目が、まるで敵を見るような目付きに変化した。
「あんたに言う必要ある?」
「ああ聞かせてほしい」
「必要ないわ」
無視して立ち去ろうとする。
「リネット。ごめんね」
リネットがとっさにリーシュに当て身をして意識を奪う。
(わるい)
だがリチャーノのシンパだからか少しの罪悪感にとどまっている。
むしろ必要悪だと思っているくらいだ。
ダオモとリネットに見守ってもらうように頼む。
リーシュは起きないように眠りの香を嗅がせておく。
まずはモヤに指先で触れてみる。
なんか不思議な感じがする。
今度は掌で触れてみると、不愉快な気持ちが湧き上がりモヤから手を離す。
(なんだこれは?)
再度モヤに触れるとモヤがたわんだ気がした。
シルバがモヤを小さくしたみたいにできるか?
何度も試すがモヤはほとんど変化しない。
「気持ち悪い」
「二人がモヤに触ったらなんか感じるか?この辺りまであるんだけど」
「いやなんも感じないな」
「私も感じないわ」
二人は触っても違和感も感じないようだ。
魔力を通してみるか。
手に魔力を纏いながら触れるとグニャっとした感触、はっきりと歪むのがわかった。
だた触ったときに比べて不快感もない。
「悪い。もう少し時間かけたい。(警戒)頼めるか?」
「ああ」
「任せて!」
ダオモは了解と同時に集中を始め、リネットはニコッと微笑んで頷いた。
試行錯誤しているとモヤが少し縮んできた。
そしてリーシュのモヤから薄く紐のようなものが伸びているのに気が付いた。
(これはなんだ?)
紐は真っ直ぐに地上に向けて伸びてる。
ダオモやリネットを見るが、紐は出ていない。
シルバを見るとシルバと俺の間にも紐が伸びているのに気が付いた。
(あれ?)
これはもしかして、テイムの繋がりのようなものか?
それがリーシュにもある。
なんでだ?
「なぁ。二人ともいいか?」
「なんだ?」「なあに?」
「今分かったんだけど、リーシュのモヤから紐が伸びている」
「なんだそりゃ?」
「それが、似たようなのが俺とシルバにもあるんだ。テイムみたいな繋がりに思えるけどなんだろ?」
「人がテイムされるわけ・・・・え、あっ」
何かわかったかというように口を手で隠す。
「リネットどうした?なんかあるのか?」
「人にそんな繋がりができるなんてって思ったら、洗脳とか魅了とかじゃないの?」
「「あっ!」」
思わず天井を見上げる。
そっか。そうだよな。
とするとリチャーノが能力を行使しているんだ。
「リチャーノか・・・ダオモなんか想像つくか?」
「ああ。講堂でモヤがあったって言ってた奴らは、家も本人もそんなに影響力のあるとこじゃねぇ。もしかしたら実験なんじゃないか?」
「実験?」
「そうだ。貴族なのに洗脳や魅了持ちなんてバレたら即消しだろ?」
「そうね。少なくとも学院に放置なんてしないわ」
「俺が魅了とか持ったら、真っ先に権力者とか狙う。ここだと教官か。だが、教官や有力貴族の子弟にはいなかったんだろ?」
「どういうこと?」
「レオが言うにはモヤは教官にいなくて、生徒だけらしい。そしてモヤ持ちはリチャーノのハーレムメンバーと寝取られた男どもだ」
「え?そうなの?」
「ダオモが調べてくれてそうらしい」
肩をすくめて同意する。
「女を寝取られてリチャーノに従うとかどう考えてもおかしい。でも魅了なら理解できる。きっと条件があるんだろう」
「ああ。考えると辻褄が合うな」
「恐らくリチャーノは選んでいない。誰かの指示なんじゃないか?そして教官も、少なくとも魔法科の教官と学院長あたりは絡んでる」
「そっか。俺じゃどうにもできないな」
「ああ。今のままじゃ難しいだろうな」
「リーシュはどうするの?」
「このままならリーシュはリチャーノのとこに駆け込んでまずいことになるだろう。レオ、そのモヤを今日中に解除できるか?」
「ああ。やってみる」
「頼む。リネット、レオ次第だが覚悟はしてほしい」
「うん。レオお願いね」
☆ ☆ ☆
色々試行錯誤してなんとなく分かった。
これは俺と同系の力だ。
最初、目覚めた魔眼は魅了の力だと思ったのだから、この直感も間違っていないはずだ。
けれど検査ではテイムだった。
まさかとは思ったが、納得はいく。
スキル持ち自体が少ないしはっきりとした基準が無いんだろう。
テイムは動物・魔獣相手の魅了で、一般に言う魅了が人相手なんだ。
魅了の対象によって呼び方が変わっているだけ。
本質的には同じもなんだと思う。
今は触れたから分かる。
いや触れなかったらテイムも魅了も同系だとは分からなかっただろう。
リーシュのモヤに触れ魔力を流してみる。
何度もやってるからかモヤの質が変わってるのがわかる。
そしてリーシュから延びる細い紐、この先にリチャーノがいる。
シルバを見る。
この紐を切れないか?
と思ったら、シルバが仕方がないなぁと言ったように感じた。
ゆっくり歩いてきて紐に向けてシャーと猫パンチ。
あっけなく紐が切れた。
シルバはあくびをして、しっかりするにゃとでも言っているようだった。
そしてリーシュのモヤに魔力を流すとモヤは薄くなっていき完全に消える。
シルバが俺の肩に飛び乗って頬擦りしてくる。
シルバを撫でると褒めろ褒めろといってるように感じた。
「シルバありがとう」
「どうしたの?」
「モヤが消えた。いや消したのか?」
「どういうことだ?」
「ああ、さっきシルバが猫パンチしただろ?それで紐が切れたんだ。で、魔力流したらモヤが消えた」
「おお~!」
「やったじゃない」
二人がハイタッチをする。
「まずは一つ目だな。リーシュが起きるのを待とう」
「ああ」
3人でこれから想定されることを話し合った。
そしてリーシュが目を覚ました。