8話 なあダオモ
バケーションは終わり、新学期が始まる。
ふとシルバが今まで関わっていなかたリーシュと遊んでいるのに気が付いた。
だが、リーシュは俺にしか見えない不思議なモヤを纏っていた。
今日はダオモと魔石納品ノルマの探索をしている。
今リネットはいないけど、そういえば気付いたらダオモとリネットの距離が近い気がする。
もしかして?
聞いてみるか。
「なあダオモ?」
「ん?」
「リネットと付き合い始めた?」
「ああ。言ってなかったわ。わりぃ」
近くにいるし順当だよなとは思いつつも、リネットの過剰なスキンシップには少し惜しい気持ちがある。
俺はしたいってだけだから、そんなんでくっついてもマリアンの二の舞になるのは目に見えてる。
「いや、俺の方こそつまんねぇこと聞いて悪い。リネットにも悪いって思うんだけどな」
「ん?そうか?」
そうだろう。リネットはずっとアピール続けていたんだ。
かなり過剰だったとは思うけど、されて悪い気はしない・・・というか調子に乗ってはいた。
「あれだけアピールされてて放置してたからなぁ」
「ま、貴族相手なら二の足踏むだろ?そうじゃないのか?」
少し考えて口を開く。
「下手に手を出すつもりはなかったけどな。したいってだけで気持ちはなかったんだ」
「そっか?身体から入ってもいいじゃねぇの?」
苦笑い。メンタルの強さが違うよな。
ダオモは実力と自信があって言い切れるのか。
俺も近い実力なはずなんだけどなぁ。
「そこまで割り切れるかよ!ダオモはすげーよ。ただマリアンの件から気持ちが動かないんだ。恋愛感情が死んだとは思ってないんだけどな。付き合うのは抵抗がある。割り切りも・・・今は難しいかな」
少し考えたが素直な気持ちを言葉にする。
「リチャーノにかっ攫われるかも・・・か?」
「・・・それもあるか」
ため息を吐きながら思い返すと、それも納得できる。
リチャーノが怖かったのか?
「そっかビビってたか。そうかもしれない」
「聞いただけだが、俺もこえーよ。弱気にもなるさ。ほんとよく立ち直ったよな」
「ああほんとな」
この能力に目覚めなけりゃ、昂ぶった感情のまま凸った挙げ句、返り討ちにあったのが目に見える。
「今さらだけとな」
「うん?」
「テイムに目覚めたたときに暗い感情が全部無くなったんだ。トリガーで代償だったんだろうと思う」
「なる。ラッキーじゃね〜か。素質もあったんじゃないか?」
こんな話でも動じないダオモが眩しくて羨ましい。現状オレには無いスキルだな。
「かもな。ダオモありがとう。」
軽く拳を出す。
バシッと、ダオモも合わせて拳を返してくる。
「リネットとはうまくいってんのか?」
「まあ今はまだお試し的な?」
「お試しなのか?」
「ああ。あとお互いちょい打算もあってな」
「そっか。二人には世話になってるからうまくいってほしいな」
「まあ気負わずに進むさ」
そして再度ノルマの魔石を集め始めた。
☆ ☆ ☆
マリアンの件で恋愛感情は死んだように思った。
でもダオモと気楽なエロトークもするし、リネットに戸惑いもして性欲はある。
性欲があるんだし恋愛感情もあるだろう?
少し安心している自分がいる。
リネットはいい女なんだよな。
感情を揺さぶってきたリネットの魅力はあり得ないくらい高いのだろう。
気になる相手ではあるんだけど、やっぱりな。
今日は集会があって大講堂に全生徒が集まっている。
成績優秀者の表彰もある。
特別な用でもない限り学院の全生徒が集まるだろう。
講堂に入ってからシルバが機嫌悪そうにしている。
初めての集会だから緊張してるのか?
集会の開始まではまだ時間があって、イツメンで固まって話しをしている。
遠くにいる派手な集団、貴族だな。
あれには近寄りたくないな。
ふと気がついた。
モヤを何人かの生徒が纏っている。
リーシュのと同じようなモヤに見える。
リーシュだけじゃないんだ?
見回すが教官には・・・いないようだ。
男も女も、まばらに、生徒だけ?なんだろな?
うちのクラスにはいない・・・リーシュは・・・まだ来てないな。
シルバはリーシュがモヤを纏っているときだけリューシュと遊ぶ。
リューシュのモヤはシルバと戯れると小さくなる。
リーシュのモヤの復活には規則性はなく当日な事もあるし、何日か経ってからなときもある。
ダンジョンで呪われたか?とも思ったけど、出た後にはヒーリングがある。
状態異常などはリセットされる。
だからただの状態異常ではない?
なんだろな?
そういえばシルバはモヤが小さい時には絡まない。
遊んでるんじゃないのか?
リーシュと戯れているのかと思ってた。
シルバが機嫌悪そうにしてるのはモヤが多いからか?
はっきりしないのは俺の理解が足りないからかスキルに振り回されているからか。
少し頭を掻き毟った。
まあどうにもならん。
「つぅ」
ふとシルバに爪を立てられる。
肩に刺さって中々に痛い。
シルバは俺に腹を立てているのではなく、どうやら警戒を促しているようだ。
シルバの背中を撫でて宥めると爪を引っ込めてくれた。
シルバの視線の先を追うと何人かが纏まって話しをしている。
モヤを纏ってる連中が固まっている。
「ダオモ」
「ん?なんだ?」
「モヤだよ。モヤを纏ってるのが何人か固まっている。それ以外にもモヤがある人がちらほらいるんだ」
「マジか?」
「ああ。そいつらに規則性は・・・なさそうに見える」
「やばそうか?」
「わかんねぇ。シルバの機嫌が悪いのも、そいつらが多いからかも?あっリーシュだ。今モヤはないな」
「うん?」
リーシュが現れたが、うちのクラスではなくて魔法科のグループに向かって行く。
それもモヤの集団だ。
「あっ」
驚いた。
遠くにいたリューシュのモヤが復活したのだ。
しかも側にいるのは・・・集団の中心だったのは。
「リチャーノ」
「リチャーノ?」
「リューシュとリチャーノだ」
「ん?」
「なんか、リチャーノに近付いてモヤが復活した・・・のか?そんな風に見える」
「マジか?」
「少なくともリーシュのモヤは復活してる」
モヤを作っているのがリチャーノなのか?
「はぁ?なんだそれ?」
「わかんねぇよ。それとモヤがあるのが・・・」
ざっとモヤが見える人をダオモに確認してみる。
「こりゃ。不味いか?レオ後で話すからモヤがあるヤツを全部教えてくれ」
「ああ分かった」
ダオモと軽い会話をしながらモヤの対象を伝えていく。
その中にはマリアンがいた。
☆ ☆ ☆
ダオモと場所をダンジョンに移した。
ここは袋小路で誰が来るでもない。
ダオモは壁に背を預け話し始めた。
「リチャーノが開発局に行くのは知ってるか?」
「進路だろ?開発局?安定職だよな」
「あぁ普通はな」
「どういう・・・」
「リチャーノの閨閥は違うだろ?本人の柄でもねーし。それが開発局って冗談か?」
「閨閥?」
「だろ。オブリコア家は治水や街道整備みたいな土木インフラ系に強い家系だったはずだ」
「ん?」
「たく、わかんねーか。閨閥から外れた進路は普通なら落ちこぼれの進路だろ」
「そうなのか?」
「だよ。ところがリチャーノは違う。学院でもトップクラスの実力者だ」
「ふぅ。そうだな」
冒険者ではAランク相当な俺があの時、手も足も出なかった。
悔しいが、思い出すとため息が出る。
「だろ?そんなのが落ちこぼれ扱いになるかよ。しかも開発局?ありゃ訳アリだ」
「訳アリ?」
「どんなのかはわからねぇ。ただオブリコア家も越えた話になってる可能性がある」
「そっか?そこらはよくわかんないが、ダロオロさんの伝手か?」
「ああ。といっても訪ねて回ったわけじゃないぞ。オヤジに連れまわされて行政に少し詳しくなってただけだ」
「助かるよ。藪蛇になるってことか」
「リチャーノがそのモヤを作って広めてるならそうだろ。レオは把握してないと思うが、さっき聞いたモヤがある生徒は全部、リチャーノがたらした女達だ。男はなんでかシンパになった元彼達だ。普通に考えてあり得ない」
「は?」
「前に調べるか確認しただろ?悪いが調べるだけ調べてたんだ」
「あ~。うん助かる。ありがとう」
ダオモの好意にひとまずボリボリと頭をかいた。
☆ ☆ ☆
リチャーノは強い。
圧倒的な魔力に高い知性。
貴族の学院生の中ではトップクラスの実力者だ。
魔法や魔力の勝負では勝てないが、総合力となると話は違ってくる。
学院の試合と冒険は違う。
リチャーノは貴族だ。
武器を持つこともあるが、護身程度の近接戦能力がせいぜい。
学院のダンジョンに潜っていても基本的に護られる立場。
近接戦を伴う総合力では負けない。
実力差を調べてみたらそういう結論になった。
思い返せばあのときは緊張と混乱とでまともな状態じゃなかった。
ましてや、学院内で攻撃されるなんて思ってもいなかった。
落ち着いて対処すればよかったんだ。
3位のリチャーノでもそこまで脅威ではない・・・はずだ。
ぶつかってみないことには分からないが、必要以上に萎縮することはない。
それが分かったとき肩が楽になった。
モヤはリチャーノと接触することで復活する。
その後の観察で確定した。
モヤはリチャーノからの呪いか?絆のようなものか?
モヤについて検証をしたい。
けれども手荒なことはしたくない。
ダオモと話しを詰めて、結局、リネットに協力を依頼した。
リーシュをダンジョンに誘い出してもらうのだ。
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