4話 名前はシルバな
テイムと判明して安堵するが気持ちは晴れないままだった。
テイムをしようとダンジョンに潜ったがモンスターの反応はいま一つ。
試しにダンジョン外の森でテイムをすると銀色の猫がテイムできた。
「名前はシルバな。よろしく!」
『なぁ~~ぉ』
シルバが嬉しそうな鳴き声に俺も嬉しくなる。
「シルバってもしかして銀色だから?」
リネットが苦笑いして聞いてくる。
「そうだけど何か?」
「安直」
「そうそう。もうちょっと捻ろうぜ?」
ダオモまで物足りなそうに肩をすくめている。
「いや捻ったから!」
「まぁセンスがないのは分かったわね」
リネットが肩をすくめる。
「そんなことはないよな?」
『な~~~お』
シルバの喉を撫でるとゴロゴロと気持ちよさそうにしている。
満足してくれてるよな?
「まぁ今更か。レオのテイムデビューを確定させようぜ!」
「そうそう。検査しに行こうよ」
☆ ☆ ☆
連日の訪問に検査官は意外そうな顔をした。
肩にいる猫を見たらさらに驚いた表情をする。
「ちわ~っす。テイムできたみたいなんで検査お願います!」
「もうテイム成功ですか?ではこちらに」
報告がてらに今日のあらましを説明した。
検査をされ、使い魔の証である首輪を渡される。
シルバについての説明を聞きながら首輪を首に当てる。
シルバは理解しているのか抵抗することなく首輪を付けさせてくれた。
「お前ってすごいヤツなんだよな。選んでくれてありがとう」
シルバの首をかくとゴロゴロと気持ちよさそうな声を出す。
見た感じは可愛い猫にしか見えない。
『なぁ~お』
甘い鳴き声が愛らしい。
☆ ☆ ☆
「おうどうだった?」
検査室から出るとダオモが声をかけてきた。
「ああ。シルバはフォレストキャットだってさ。知ってるか?」
シルバの首筋を撫でると気持ちよさそうに目を細めている。
「フォレストキャット?まんま森猫か?」
ダオモも俺と同じで知らなかったらしい。
不勉強なヤツめ!
「森の護獣の?」
「リネットは知ってるのか?」
ダオモが驚いた顔をする。
俺も検査室でそんな表情だったんだな。
「はぁ。本気で言ってるの?普通に習ったし、試験にも出てたじゃない。シルバがそうなのね。こんな可愛いのにすごい子なんだね」
ため息をつき、胡乱な目で俺たちを見てくる。
俺がさっき検査官に聞いたばかりなのはリネットは知らないはず。
だからダオモと一緒にしないでくれるか。
俺は知ってたよ?って顔をしていたはずですが?
「レオ、ちょっとニヤリってしてたよね?バレてるから」
あっごめんなさい。
フォレストキャットは森の護獣と呼ばれている。
フォレストキャットのいる森の魔物は強力なバフをされまくっていてランクが上がった状態で戦闘になる。
その場にいなくてもバフを効かせられることから護獣って呼ばれている。
真っ先に倒したいけど、すばしっこく逃げ回る上、先頭に立つこともないから滅多に討伐されることがないらしい。
あまり発見されることもなくて、学院に持ち込まれたもの随分と久しぶりなんだそうだ。
新しい縄張りを求めてたまたま移動中だったのだろうというのが検査官の話だ。
今は幼体なので少しのバフがある程度らしいが、成獣ともなれば加護が発生して土属性魔法や植物魔法、生活魔法とかが強力になるとのこと。
シルバのお陰で魅了だと感じていた能力はテイムだと確定した。
ちょっと残念な気持ちはあるけど、魅了なら行動にかなりの制限が発生するからな、ホッとした気持ちの方が強い。
もしかしたら対象が違うだけで同質のモノなのかも。
無理やりテイムされてたら申し訳ないけど、シルバ一緒にいてくれ。
優しくなでると、甘えたように返してくる。
☆ ☆ ☆
クラスに入ると初日からシルバは大人気だった。
「わぁ」とみんなに取り囲まれてちやほやされた。
ただ俺と一緒にいたのは最初の内だけで、馴染むとあちこちと歩き回って可愛がられていた。
テイムした魔獣って主人に寄り添っているイメージがあったからシルバにはびっくりだ。
俺を感知できる範囲内にいるらしく見たまんま気まぐれ猫な生活を送っている。
それでいて俺が肩が軽いなって思うと肩に戻ってくる。
寂しいのか?なんて思われていそうだ。
まぁちょびっとは思ったし、シルバの首を指先で撫でながらそれでも嬉しいと思った。
最近はリネットの太ももの上がお気に入りらしく、見つけるとすぐに甘えに行ってしまう。
撫で方が相当気持ちが良いのかしょちゅう催促している。
男どもはシルバを見るふりをしてももをチラ見してる。
今まで気が付かなかったが、リネットの足は綺麗だ。
細すぎず太すぎずそれでいてムチっとしていて膝枕したら気持ちいいだろうなと思わせる。
「膝枕してみる?」
とたまにからかわれるが本気で悩んでしまう。
ダンジョンアタックでは他の生徒ともパーティーを組むが、シルバは俺の肩以外にはリネットは肩の上、ダオモは頭の上に乗っかる。
テイム時に一緒だったからか気を許したからかは分からないが、他のクラスメイトには乗ろうとはしない。
だからかパーティーの固定メンバーはダオモとリネットの2人になって力を抜いて過ごせる存在になっていった。
ただ、リネットの好意はどうすればいいのか判断がつかない。
能力と引き換えのあの感情はなんだったのか。
これから起きるであろう変化にビビッてもいたのだ。
☆ ☆ ☆
「ねぇレオ、バケーションはどうするの?」
夏の長期休暇を目前にしたある日だった。
今日はダオモとリネットの3人でダンジョンアタックの打ち合わせをしていた。
「ああ、帰省するぞ」
「そう・・・、田舎に帰るんだ」
リネットは少し寂しそうな空気を出している。
「レオ、今年もよろしくな!」
「いつも助かるよ」
「うちは大所帯だからなぁ。レオん家のバイトはありがたい」
多分、バイトの報酬を想像しているのだろう。
ダオモの口元がニマリとしている。
「こっちも助かる。ダオモが来ると賑やかになるから家族も喜ぶよ」
「バイト?」
「うちはブル農家で夏はウィニーブルの毛刈りとホーンブルの狩りが被るから人手はいくらあっても足りなくてさ。色々あって毎年ダオモん家も総出で手伝ってもらってんの。ダオモはバイトって言ってくれるけど報酬は肉なんだよな」
「へぇ。二人ともクーアンだったよね?フォイル家ってブルの?でもダオモって男爵家じゃなかった?」
色々の内容を言っていいものか迷ったから、ダオモに目線を送る。
ダオモが頷いた。
「ああ。そのフォイル家がうちな。毛も肉も御用達のエンブレムを賜ってんの。でダオモのグリース家は選定と運搬・献上をしてるんだ。普通は農家と貴族じゃ馴れ合わないんだけど・・・まあ特殊だよな」
「報酬がクーアンのブル肉だぜ?熟成肉も食べれるし役得だよな。家族はみんな喜んで手伝ってるよ」
「なるほどね」
うんうんと頷いている。
クーアンのブル農家、フォイル家は貴族では有名だ。熟成肉はかなりの高級品として取引される逸品だ。リネットは子爵の三女なので知らないはずもない。
「・・・ねぇ。よかったら私も行っていい?」
少し考えた後、リネットが上目遣いで聞いてくる。
びっくりするくらいの色気にたじろんでしまう。
「い、いいけど護衛はどうすんだ?子爵様の許可も必要になるだろ?」
リネットは子爵家の三女様だ。
ダンジョンパーティーで一緒に活動しているし砕けた会話をするけれど、田舎の農家に遊びに行かせてもらえるような立場じゃないはずだ。
「うんフォイル家ならまず大丈夫だよ。護衛2人増えて都合3人になるけどどう?レオからも聞いてもらえない?」
「そうなんだ?うちってそこまで信用あるの?かなり手伝ってもらうぞ?」
「う~ん。多分?大丈夫よ。作業は教えてね?」
「ああ任せとけ!体使ってもらうけど、ブル肉の神髄を堪能してもらうから楽しみにしてもらっていいぞ」
「神髄?」
「ああ熟成肉は美味いぞ?」
「本当に美味いよな?王都でもレオん家より美味い肉は滅多にないからな。ああ楽しみだ」
「まずは確認してみるよ。今のとこ王都の納品帰りに拾ってもらう予定だけど一緒に行くか?」
「うんお願い。コッチも調整するね」
長くお待たせしてすみません。