2話 あれ?
恋人マリアンの浮気現場を目撃するが、浮気相手リチャーノに叩きのめされてしまう。
失意の中、憎しみを募らせていくと目に力が宿っていることに気が付いた。
「あれ?」
やつらを・・・どうしたかったのか?
目に力が宿っていて気持ちが良い。
けれど胸にぽっかり空いた感覚は気持ちが悪い。
あれほど考えていた想いのほとんどが・・・消えている。
ん?吸い取られたのか?それで目覚めたのか?
力は『魅了』だ感覚的にわかる。
才能あったんだな俺。
資料室の出来事も悔し涙も覚えている。
さっきまではマリアンとリチャーノへの復讐が強くイメージできてた。
やつのハーレムを奪って高笑いする自分。
リチャーノが悔しがって地面を叩く姿を想像してた。
数分前のことなのにすごく昔のことのように思える。
けじめはつけさせる。
そういう使命感のようなものはあるがそれだけ。
あれだけ強かった気持ちが無くて、けじめつけされる必要あるか?
リベンジしてもあれが悔しがるか?
なんかただ単に受け入れそうだし興味がない。
しかし言われたことももっともだ。
やつらが採った方法はともかく、俺への指摘は正しい。
見せつけられなければ分からな・・・いや、見せつけられても分からなかっただろう。
ただやみくもに荒れて終わってたな。
不幸が増えるだけだ。
失着じゃねぇか。
やっぱり、けじめつけさせてもらうか。
・・・いやもうどうでもいいや。
めんどい。
せっかく魅了が目覚めたのに意味ないじゃん。
使って育てたいけど、使いどころは悩むな。
部屋は色々漏れたり汚れたり壊れたりで酷い有様だ。
随分ラリってたな。
部屋の掃除しねーと。
片づけてすっきりしよう。
☆ ☆ ☆
学院に行くとクラスは一瞬静かになった
「はよー」
「はよー2日もどうしてたん?風邪か?」
ダオモが軽く返してくれる。
「あれ知らないのか?」
「何が?」
「いや、振られて凹んでたわ」
「はぁ?マリアンに?冗談?」
「ほんとほんと凹むよありゃ。色々垂れ流して休んでた。噂流れてないのか?」
「いんや?特に聞いてねーぜ?まー意外に繊細だったのな。今日はダンジョン行くか?スカッとしようぜ!」
「サンキュ!なんでかもうこなれてんだ。でも・・・そうだな甘えさせてもらうか!スカッとしよう!詳しく話すから2人でいいか?」
「おう待ってるぜ」
拳を出すと、ダオモも拳を合わせてくる。
やさしいなこいつ。
☆ ☆ ☆
「ピギャーーーー」
ドサッ
剣を振りぬくとオークが倒れる。
「ってことがあってさ。ひたすら泣いてたわけよ」
戦闘の合間に魅了を除けば気付いたことも含めて一通り説明できた。
「あいつらえげつねぇ。狙ってやられてたら立ち直れねぇだろ?」
「なんとか・・・な?二日潰れたくらいで済んでよかったよ」
感情が消えなきゃ十分立ち直れないダメージだった。
危なかった。
「なんかさ、憎いのとか感情が一周回ったら落ち着いてたんだ」
「すげーな。ポジティブすぎんだろ?」
「だろ?びっくりさ」
「しっかし、あいつら頭足りてねぇーよ」
「ん?」
「いや、寝取って、開き直って、叩きのめして、の三冠だぜ?仕打ちが気に入らなくてもねーよ。ふつーにクズだろ?」
「あーそっかぁ。そうだな」
「女の扱いは俺もレオと変わんねーさ。話聞いたら罪悪感でいっぱい。まー今は女いねーけど、別れた原因が喧嘩じゃなくてほんとはそうゆーとこにあったんだって思ったよ」
「悪かった」
「謝んなよ。俺には悪かねぇ。ただ、ほんとリチャーノはおかしい。塩対応されてた。落ち込んでた。まあ叩きのめされるのはしゃーねぇかもしんねぇ。寝取りも・・・あれ?あるか?でも痛めつけんのに使うのだけはちげー。脳筋の俺でもそれくらいはわかる」
「あんがとな」
「おう。レオが暴走自滅するって思ってたのか?あいつ」
「分かってたんだろ?同じパターン繰り返してんだ。もしかしたらハーレムの元彼は全滅してんじゃないか?」
「なるほど調べてみるか?」
「う~ん。いやいい、調べなくていいよ。なんかヤバいのが出てきそうだ。ダオモの気持ちで十分ありがたい」
「そっか?でも嫌な予感はするな」
「あー俺が冷静になっちゃったしな。追撃はあるかもしれん」
「まずいだろそれ。リチャーノって総合3位だろ?ハーレム除けきゃ信用度はだんちじゃんか」
「だよな。はぁほんとどうしよう。まあちょっと狩りながら考えよう」
魅了の魔眼はモンスターにめっちゃ効いた。
視線があったとたんに動きが止まる。
オークとかオスだよな?オスにも効くってこえーよ。
目の無いモンスターも感覚で視線が合ったと思ったら動きが止まる。
えらい便利。
ダオモはなんなんだ?って不思議がっている。
4層まで来たけど楽勝すぎる。
魅了すげーな!
なんとなく無差別っぽいからコントロールできるように訓練しないとな。
というかダオモには効いてないよね?
それはマジ勘弁。
「レオ、なんか思いつたか?」
「どうすっかな。ただ女関係はリセットしたい」
「あーわかる。パーティーどうすんだ?替えんのか?」
「パーティーか・・・。くはぁ~どうすっか」
授業の都合があるからパーティーは必ずしも同じメンバーとは限らない。
それでも面子は大体決まっていてマリアンが言う俺狙いの女たちはもれなくパーティーメンバーだ。
結局、切った張ったですっきりしてる間にはいい案は思いつかなかった。
魔石の納品をして遅い昼食をとる。
「れーお!」
そう言って絡みついてきたのはリネットだ。
腕が柔らかいもので包まれる。
友人と思ってたが、確かにこの距離はおかしい。
彼女よりもいちゃついて見えて当然だった。
俺も壊れてんなぁ。
「リネット。離してくれ」
「えーいいじゃん」
「別れたんだ。だからやめてくれ」
「え?何?別れた?」
「ああマリアンと別れた。だからやめてくれ」
「そっかぁ。だから見なかったんだね。うん?別れたんならもっといいじゃん?」
「いやよくない」
「なんで?」
さらにギュッとしてきたが、そっと引きはがす。
「やめてくれ。あいつらと同じ土俵に立つ気はない」
「あいつら?」
「ああリチャーノのとこに行ったんだ。俺は見せつける趣味はない。だからやめてくれ」
笑えない。真剣な目でリネットを見つめる。
「ふーん。まあいいわ。じゃあ後でね!」
ニコッと笑いリネットはいなくなった。
ダオモは苦笑いしている。
「なぁダオモ?」
「あん?」
「俺ってこんなだった?」
「何が?」
「いやリネットとかの距離感」
「ああ。そうだよ」
テーブルに突っ伏して悶えたい。
「・・・壊れてんな。リチャーノのことだけ言えんわ」
「まぁそうだな。俺も焚きつけててすまん」
「いやいいさ。ほんと見えてなかったんだな」
「これからさ」
「そうだといいな」
そういえばリネットも魅了が効いてる感じじゃなかった。
モンスターは魅了がかかるとぼーっとなってたから違うよな?
「あのさ・・・」
☆ ☆ ☆
ダオモに打ち明けたら、確定させた方がいいということになった。
検査室で鑑定をしてもらっている。
「テイムのようですね」
「テイムですか?」
「ええおめでとうございます!望めば竜騎士もいけますよ?」
「・・・まじすか。あっありがとうございます」
対人でなかったのはちびっとだけ残念な気もするが、ひとまずホッとした。
「ただちょっと強力な感じがするから監察対象にします」
「えっ!?監察ですか?」
「そう。監察です。オークにも効いてるんですよね?定期的な報告、最低でも月一の検査と成果の報告、あと成長したと感じたら随時の報告が必要ってことにしましょうか。教官サイドでも共有しておきます」
「わかりました。よろしくお願いします」
「ではこれでいいですよ。考査は確実にプラスになるから期待してて!どんどん使って成長させてくださいね!」
「はい。失礼します」
あー良かった。
対人の魅了だったら使いこなせないで詰んだだろうからこれでよかった。
「おーどうだった?」
「ああテイムだってさ。めっちゃホッとしたぁ~」
「やったじゃん!しっかしテイムねぇ。ナンパにテイムしたモフモフ使えんじゃないか?」
「うん?それもいい・・・って、しねぇよ」
「いやマジで。チャラいくらいの方が合ってんじゃね?」
「本気で言ってんのか?」
「んー半分は?手近なのとくっつくよりも狙ってこうぜ?きっとその方が合ってる」
「なる。まぁ考えてみるわ。あと監察対象になったんだよこれ」
「へぇ~なんで?」
「なんかちょっと強力だとかで成長させてみろってさ」
「あーオークに効くテイムって聞いたことないもんな」
「まず頑張ってみるか。協力してくれよ?」
「ああ任せとけ」
ダオモほんといいやつだ。
話すことでいろいろ整理できた気がする。
解決していないこともたくさんあるが、案ずるより産むが易しだな。