最悪の事件
そこから随分と月日が流れた。
嵐は聖人君と結ばれ、凜を授かり母となった。
そしていよいよ君達の知る藍が産まれる予定日。
ワシはこの記念すべき日に嵐花を渡す事に決めた。
凛の時には決心が付かなかったが、2人目が産まれる頃になってワシもようやく覚悟を決めたのだった。
今まで散々悪態を付いてきたが、気付けば嵐も立派な2児の母だ。
もう悪態を掴んでいいだろう。
もう優しくしてもいいはずだ。
産まれてくる子供の面倒も見てやろう。
何か困った事があれば夫婦で助けてやろう。
これからは優しい鉄オジとなり嵐に頼ってもらうのだ。
ニヤニヤと笑みを浮かべながらワシは嵐の入院している病院へと走っていた。
そして病院に到着すると変わり果てた有様を見て絶望する事になった。
病院は火を放たれ黒焦げの廃墟と化していた。
そして廃墟の前には太刀花家の者が集まり涙を流していた。
『慈玄、何があったんじゃ。嵐はどうなった?子供は?』
慈玄の口から語られたのは最悪の出来事じゃった。
君達も知っての通り、藍は生まれてすぐに母を亡くしている。
この日、八蛇の一族が病院に火を放ち出産直後の嵐に襲い掛かった。
嵐は生まれたばかりの赤子を守りながら戦い、殺されたのだ。
『殺された…?嵐が…?
…嘘じゃ…慈玄!
嘘じゃと言ってくれ!』
ワシは己の愚かさを悔いた。
八蛇とやらがどれほどの物か知らぬが嵐が嵐花を持てば天下無敵。
嵐花さえ持ってさえいれば負けはしなかったのだ、絶対に。
『ワシがくだらん見栄でコイツを渡さなかったから…ワシのせいじゃ…ワシのせいで嵐が!』
風花も守れず、娘の嵐を死なせ、ワシの人生のなんとみじめな事か。
天よ、何故あんな良い娘を殺したか!
何故あんな良い娘が死なねばならなかったのか!
遺された子供はどうすればいい!
殺すならば無能なワシを殺せばよかろう!!
悔やんでも悔やみきれず、感情を抑えきれず、ワシは年甲斐もなく大声で泣いた。
そんなワシを慰めようとしたのだろうか。
龍磨は生まれたばかりの赤子をワシに寄こして来た。
『嵐の娘です。
嵐の遺言で自分の意思を継いでくれるようにと藍と名付けました。』
ワシが赤子を抱きかかえると何も知らぬ赤子はワシを見て笑ったのだ。
『嵐…お前、こんな小さくなってしもうたんか!
せっかくあんな美しくなったのに…!この子の中にいったんか!バカタレが!!』
ワシは嵐の意思を継ぐ子を抱いて誓った。
『今度こそワシが守ってやる…!
ワシが打った刀でこの子を守り切ってみせるからな!!』
天に、嵐に、風花に届くようにとワシは思いっきり叫んだ。
この日を境にワシは変わる。
そして時代は君達の知る太刀花藍の少女時代へと移っていく。