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渡せなかった想い
それから数か月後、風花が斬り殺された。
噂では八蛇とか言う一族が絡んでいるらしいが、ともかく風花の死はワシの心に大きな傷跡を残した。
ワシも辛いが一番辛いのは支えを失った嵐なのだ。
そんな風に嵐の事を気遣えるようになるまでワシは2週間も掛かった。
母親の代わりには到底ならんだろうが、今こそ嵐花を渡すべきではないか。
これからは母の分まで強くなれと渡せばいい。うん、筋が通っている。
風花の事で気落ちはしているがワシは少しだけ心が躍っていた。
ようやく嵐に優しくしてやれる。
町の者と同じように笑顔を向けて貰える。
ワシの最高傑作を渡して彼女の支えになってやれるのだと。
だが、ここでもワシは嵐花を渡す事は出来なかった。
『これからはボクが君を支えるから』
藍の父にあたる聖人君が嵐を抱きしめていた。
これには勝てぬとワシは嵐花を持って逃げ帰ったのだった。