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藍花  作者: アフロダイB
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悪態付きの鉄オジ

やがて嫁を貰い子供も生まれワシらは互いに家族を築き上げ、時代は藍の母へと移っていく。

だがワシは風花との約束を忘れたりはしなかった。

妻も子も愛してはおるが、それとこれとは話は別。お前らはわかってくれるか?


風花は男の子と女の子を産んだ。

男の子の方は藍の叔父である龍磨たつまじゃ。

女の子の名はらん、君達の知る凜と藍の母である。


ワシの祈りが天に届いたのだろうか。

嵐は太刀花家の歴史の中でも特に剣の才能に秀でた娘であった。

母から剣道を習い、兄達の訓練を見るだけで次々と技を習得し、それが己に扱いきれぬと知ればすぐさま改良していった。

慈玄曰く、改良した嵐の技は威力は劣るが手数に勝るらしい。

要するに、ワシの刀の完成を待つまでもなく嵐は己の証を立てつつあった。

女でも太刀花様になれるのだと。


だが天才故に嵐には問題があった。

誰も彼もが嵐を褒めちぎる事じゃ。

これでは嵐が自惚れてしまう。

心が真っ直ぐ育たんではないか。

だからワシは心を鬼にする事にした。


『なぁ~にが鬼退治じゃい。

お前の剣なんか風花の足元にも及ばんわい。』


京都の方に出たという怪異を嵐が仲間と共に斬ったのだと町の人々が彼らの功績を称え合う中で悪態をついた。


『鉄っちゃんさぁ、嵐ちゃんは十分頑張ってるだろう?』


『頑張っとるからなんじゃい!

足元にも及ばんから足元にも及ばんと言っておる!

そんな甘えた根性じゃいつか怪我をするわい!』


同世代の仲間達に溜息をつかれるのが辛い。

若者たちに白い目を向けられるのが辛い。

だがこれはワシにしか出来ん事、そう思ってワシは悪態を付いていた。


『鉄オジはいつもつまんねー水を差すな。

行こうぜみんな。あっちで美味いもんでも食おうぜ。』


『おーいけいけ。ワシもお前らの顔なんか見たくもないわい。』


手を振って嵐達を追い払う。

そしてワシも用を済ませて立ち去ると、人気がなくなった所で歩みを止める。


『あー…今度こそ嫌われたかもしれん…』


ワシは1人で静かに落ち込むのであった。


『大丈夫だよ。嵐ちゃんもみんなも鉄さんが良い人だって知ってるから~。』


落ち込んでるとたまにどこからともなく娘が現れる事がある。

彼女の名は花咲はなさか 小夜さよ

嵐の親友であり後に太刀花家の家事を担う事になる藍の育ての母とも呼べる存在となる。


情けない事に自分の子供と同じくらいの年齢の少女に励まされながらワシはかろうじて心の平穏を保っていた。

風花の娘に嫌われるのは死ぬより怖かった。


さて、ワシが風花と約束した刀はどうなったかと言うと、実はこの時点でほぼ完成していた。

今ならば渡すのは風花ではなく嵐であるべきだろう。

故にワシはこの刀を嵐花らんかと名付けていた。

これぞまさに究極の一刀、贅沢な材料とありったけの技術を惜しみなく注ぎグレードアップし続けているワシの最高傑作である。

この刀が嵐の元に渡れば彼女はまさに天下無敵となるじゃろう。

だがワシは刀を渡そうとはしなかった。

どうせ渡すならばとっておきのロマンチックなタイミングで、などと愚かな事を考えていたのだった。

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