いざ、尋常に勝負!
『ワシと戦え太刀花ぁー!!』
太刀花家は身分的には皇族と同等だと言う。
そんな奴らの式をぶち壊そうものなら下手をすれば殺されてしまうかもしれない。
だがそれでもワシは納得が出来なかった。
ワシが勝てなかった相手を金持ちどもが権力で潰そうとしている事が。
『私が頼んだ余興です!』
慈玄が慌てて周囲に取り繕いながらこちらに駆け寄ってくる。
『鉄ちゃんこれはどういうことだい?』
慈玄が周りに聞こえぬよう小声で囁いてくる。
だがワシはそんな慈玄の気遣いを気にも留めず大声を挙げる。
『風花はワシの生涯のライバルじゃ!
お前みたいなモヤシに黙って渡せんわい!!
ワシに黙ってほしけりゃお前の刀でワシを斬ってみせぃ!!』
慈玄が悲しそうな顔をする。
よくよく考えればコイツは式を無茶苦茶にされとるだけなんだから哀れな気もする。
だがやはり納得できんもんは納得できん。
貴様ら太刀花家の伝統とやらのためにワシらの青春を否定されてたまるかい。
『お前らが本当に強いっちゅうんならワシを斬ってみせればよかろう!
この白装束が真っ赤に染まって紅白となる。
あらおめでたいっちゅうもんじゃろうが!
天下無敵の太刀花様なら容易いことのはずじゃろうが!』
調子に乗ってワシは煽りまくる。
こうでもせんと慈玄は勝ち目のない勝負になど挑んでこないと思っておった。
『…わかった。
じゃあ君の友人ではなく太刀花の剣士としてお相手するよ?
それでいいんだね?』
『おうとも!命を懸けてかかってこい!!』
もちろんワシの方は本気で斬り捨てるつもりなどないが声高々に【命懸け】を強調して周囲に印象付ける。
これでワシが勝ちさえすれば太刀花様とやらの伝統も地に落ち、風花との縁談も無くなるだろうと何とも単純に思っていたのじゃ。
ワシの言葉を聞き終えると慈玄は親族席から刀を受け取ってくる。
続いて刀を抜き鞘を捨てるとこちらに向かって堂々と歩いてきた。
斬れと言ったのであって決闘ではないのだから慈玄の所作は正しいと言える。
奴はただワシを斬ろうとし、ワシはそれを迎え撃つのだ。
だが慈玄の様子がおかしい。
構えもない片手持ちのまま堂々とワシの間合いに入ってくる。
それだけ頭にきて冷静さを欠いているのだろうか。
だとしても真剣勝負に情けは無用。
『めぇぇええええええん!!』
恐らくワシは生涯最高の一振りを繰り出したが、ワシの刀は慈玄ではなく地面に突き刺さった。
寸止めするつもりだったのだからそのようにはならない。
つまりワシの一撃は容易く躱され、下に叩き落とされた刀が地面にまで突き刺さったのだ。
信じられない力と速さである。
そして、ワシは慈玄の太刀筋さえ目に留められず意識を失ったのじゃった。