未熟な太刀花様
そんなある日の夜の事じゃった。
ワシは生まれて初めて太刀花家が戦ってきた怪異と相まみえる事になる。
ワシらの住む町に怪異どもが現れたのだ。
町の誰もが半信半疑であったが、公民館からの警報が鳴ったので指示通りに避難所に集まった。
怪異に遭遇しながらも逃げ延びてきた何人かの怪我人達から証言を聞いてようやく事態を把握するに至ったのだった。
『もうダメかと思った時に太刀花様が来てくれたんだよ。
ズバーッって一撃で怪異の一匹を斬り裂いてさ!』
若者の一人が興奮気味に語っている。
それにしても誰が来てくれたのだろうか。
ワシは気になって若者に尋ねてみた。
『女の子だったよ。
すっげぇ可愛いのにめちゃくちゃ強くてさ!』
女の子?
それを聞いてワシの中で嫌な予感が膨らむ。
太刀花家の女性は凛と藍ちゃんしかいない。
藍ちゃんはまだ訓練を始めたばかりで戦う力はない。
既に一人前の凜だったとしても先日の誘拐事件で怪我をしていて戦える状態ではないはずだ。
『まだ小さいのに、やっぱ太刀花様はすげぇんだなぁ』
その言葉でワシは確信する。
男衆がいれば彼女を戦わせる必要はないだろう。
つまり藍ちゃんが独断で戦っているのだ。
『バカモン!
そいつはまだ太刀花様じゃない!』
ワシは小さな少女を一人置いて逃げて来た若造の胸ぐらを掴んで藍ちゃんの居場所を聞き出すとすぐに自宅に向かって走り出した。
恐らくはワシの最高傑作が必要になる。