5話 聖者は村長に絡まれました
王都のギルドに商人達を引き渡した俺達はようやく俺の村に戻ってくることが出来た。
どこにでもあるような平凡な村だ。
『びぇぇぇぇぇ!!!!!私のポイントが!ファンメ送ってやりまずぅぅぅぅ!!!!』
相変わらず隣の女神がうるさい。
女神ってどれもこれもこんなものなんだろうか。
そして
「ラグナ様ここがラグナ様の生まれ育った村なのですか?!素敵な場所です!」
シエルという少女は俺になついていた。
「ラグナ様!ラグナ様!あれはなんなのですか?!あの像です!まさかラグナ様の像ですか?!」
「いや、違うぞ」
苦笑いして答える。
「違うのですか?!ラグナ様お強いのでその強さを称えた像かと思ったのですが」
全然違う。
そう答えながら俺は更にシエル達を連れて村の中に向かう。
「それより兄ちゃん。私も良かったのか?連れてきて」
シャルが申し訳なさそうに聞いてきた。
話は聞いたがどうやらぼったくりの件まだ忘れていないらしい。
「気にすんなよ」
軽く言ってやる。
「で、でも」
「そこまで言うならぼったくった分だけ働いてくれ。それで返してくれたらいい」
そう言うとパァっと笑顔になるシャル。
「わ、分かったぜ!」
彼女の場合綺麗事よりもこういう言い方の方がいいらしいな。
根は真面目らしい。
何かぼったくりをするに至った理由でもあるのだろう。
そんなことを思いながら村の中へ中へと進んでいく。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!ラグナだ!!!!!!!」
俺に気付いた村人が1人声を出した。
村の子供だ。
「よう」
「みんなーラグナが帰ってきたぞー!!!!!」
そう言って叫びながら駆け出していく男の子を見送りながら俺も村の中心に向かう。
その道すがら。
「ラグナが帰ってきたのか?!」
「ラグナ様が帰ってきたのですか?!」
そんな声が山ほど聞こえてくる中進んでいく。
ところでラグナ様って何だ。
「これはこれはこれはラグナ様」
暫く歩いていると若い男にまでそう言われた。
「失礼。私はこの村の村長を務めている者です」
なんだ、村長か。
知らない顔だな。
俺がいない間に村長が変わったのだろう。
俺のことは他の村人から聞いたというところか。
「どうしたんだ?」
「いえいえラグナ様がお戻りになると聞いてずっと待っていたのです」
「そのラグナ様ってのは?」
さっきから気になっていたが俺はラグナ様と呼ばれるような人間じゃないしそうやって呼ばれたことは無い。
「ラグナ様は英雄ですからね」
「英雄?」
いつの間に俺は英雄になったんだ。
分からないぞ。
「ご存知ないのですか?ラグナ様は英雄としてこの村に伝わっていますよ。聖者として王都に迎え入れられ勇者パーティにまで入り活躍している英雄、と。私も聞いております」
誰が伝えたんだそんな話。
というより
「その話なんだがな、悪いが勇者パーティを追い出された」
そう伝えるとポカーンと口を開く村長。
そのすぐ後に
「はぁ、やれやれ………しょせんはゼロのラグナか」
態度がいきなりかわった。
「どうしたんだ?村長さん。急に態度変えて」
その豹変ぷりを疑問に思ったのかシャルが訪ねる。
「私に話しかけるなよゴミ共が」
「ご、ゴミ?」
「知らないのか?ゼロのラグナ。お前も自分の過去を伝えていないなんてな」
くくくと笑って俺に近付いてくる村長。
「勇者パーティに入ったと聞いていたがまさか早々に追い出されたとはな。しかも勇者は幼馴染ときた、そんな間柄の人間に追放されるなど、流石ゼロと言うべきか。やはりお前には何も無いんだなゼロ」
「ゼ、ゼロって何なんだ?!」
シャルが聞き返す。
「この男には才能がない。一切の才能がない。だから、ゼロと呼ばれていた。ゼロのラグナ」
確かにそうだ。
俺は何の才能もなかった。
究極雷帝竜だって倒せなかったし、死者蘇生すらも出来なかった。
「せっかく勇者のイラ様のパーティに入れたというのに何だその体たらくは、ラグナ?」
村長が俺に歩みよってそう言ってくる。
「………」
「貴様に居場所があると思うなよ?ラグナ」
「待ってくれ。俺は今日からこの村で魔物を間引い」
「間引かれるのはお前だよゼロ」
やはりそういうことになってしまうか。
勇者パーティの一員じゃない俺の価値など所詮はこんなものといったところらしい。
「そこのゴミを連れて去れよゴミ」
そう言ってシャル達を汚いものを見るような目で見る村長。
「今何て言った?」
だが今の言葉は聞き捨てならなかった。
1度目は目を瞑ろうと思ったがもうその気も失せていた。
「ゴミ、とそう言った。ゴミのお前と共にいるのだ、ゴミ以外のなんだと言うのだ?」
「もういっぺん言ってみろ」
村長を睨みつける。
「ゴミと言った。耳は大丈夫か?頭がよろしくないのは分かってはいるが耳までよろしくないのか?」
頭が宜しくないというのは俺がアルスカを見て女神がいると叫んでいたことからだろう。
「頭は確かにあんたから見ればよろしくないかもしれないが生憎耳はいいぞ?」
「そうか。ならもう一度行ってやるゴミが。ゴミを連れて戻れ。私達の生活圏に入ってくるな面汚し。才能なきものは去るのだな」
村人が何事かと駆け寄ってきた。
その中には見覚えのある奴もいた。
「お、ラグナじゃねぇか」
「どうしたんですか?村長、さっきからラグナと見合って」
そう声をかけてくる村人。
村長程厳しい目を向けてこないあたり俺の事をここまで嫌悪しているのは村長だけなのか?
「この男を追放する。ただ追放するだけではつまらん。いつものでな」
そう言って村長は知らない奴に指示を出し始めた。
「そ、そんな!村長!ラグナが死んでしまいますよ!」
「構わん死ぬのなら死ぬで構わん」
「めちゃくちゃですよ!決闘なんて!しかも1人でSランクの依頼を何度もこなして、英雄とまで言われた村長が相手なんて決闘にならないですよ!」
話を聞く限りどうやら決闘をする事になったらしい。
村長が口を開く。
「ゼロ?お前の話は聞いている。お前がこの村の面汚しだったこと、それから特に役に立っていなかったこと。それらの罪をここで裁く。勇者のイラ様の活躍はここまで聞こえてくるというのに、同じくして出ていった幼馴染のお前は何をしていたのだ?まったく。ゴミの分際でこの村の名を落とすような真似をするとはな」
そう言うととある方角を指さした村長。
「あちらに小さい闘技場がある。1時間後来い。そこで決闘だ。何か文句があるのならば力で示してみせるがいい」
そう言って去っていく村長だった。
大変なことになってしまったな。
やはり力がないということは罪なのだろうか。
もっと強くなりたいといけないと改めてそう思った。