4話 【勇者サイド】マリーは気付いた。
私、マリーは紫電の槍のメンバーと共に四天王の1人を討伐に来ていた。
ラグナを追放したすぐ翌日だった。
本当はラグナを引き止めたかった。
彼はこのパーティ唯一の支援職特化だったしここで抜けられるのは結構なダメージになるはずだから、だ。
それでもパーティリーダーのイラにとってはそこまで考えが回っていないみたいだけれど。
「はぁ【道化師】のゴミが消えて清々しい気分だ」
そう言ってイラが新しく連れてきた【踊り子】のミーナの肩に手を回した。
「やはり男の踊りより女の踊りよなぁ?」
「は、はい!ご期待に応えられるように頑張ります」
踊り子は直接戦闘には役立たない。
そのため酒場などの場所で踊りを披露するだけの人が多いのだけれどイラは何を勘違いしたのかこの子を連れてきた。
本当に踊り子が支援職の動きができると思っているのだろうか?
いや、でもそう思っていないとこんなバカげたことしないか。
「………」
言葉にはしないけれど私は既に不調を感じている。
それがラグナのいないことによる不調なのか、それとも彼の支援がないことによる不調なのかは確かではないけれど。
私はラグナがいないことに対して精神的に不調を感じてもいた。
「さぁ行くぜお前ら!今日は四天王が陥落する日だ!」
そう言って士気を高めるイラ。
「「おーーーーー!!!!」」
剣士のメアと踊り子のミーナはイラの言葉にそうやって反応を示す。
「おい、どうした?マリー?」
それに乗らなかった私を不審に思ったのか聞いてくるイラ。
「今日は四天王を討伐する素晴らしい日だぞ?おーーーーの一言くらいあっても誰も文句は言わないぞ?」
それは分かってる。
でも
「ごめん。士気を下げるような真似して、おーーー」
棒読みだろうけれどちゃんとやっておこう。
「そうだよそれでいいんだよ。行くぞお前ら!うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
凄くテンションの高いイラについて行く私達だった。
※
私達は四天王の1人が待ち構えるというダンジョンまでやってきていた。
洞窟のダンジョン、その奥深くまで来ていた。
周りは岩ばかりで草木などは一つも見えない。
そしてその奥に一人の男が経っていた。
「けっ、勇者パーティかよ」
「四天王!今日こそはこの俺が成敗してくれる!」
駆けるイラ。
「ミーナ!踊りを頼む!マリーは俺にバフ魔法をかけてくれ!」
本当に踊らせるんだ。
何の意味もないと思うけど。
「分かった!」
「分かりました!」
ミーナはどうかは分からないけれど私はイラのために魔法を使うのは癪だったけれどやるしかない。
パーティに所属しているんだから。
しかし
「あ、あれ?」
「どうした?!マリー?!遅いぞ?!」
いつもならもう発動している魔法すら手こずる。
何で?どうして?
いつも通りにやってるはずなのに全然魔法が発動しない。
まさか………
そう思ってスキルウィンドウを出してみた。
すると
【魔力が足りません】
となっていた。
そんな、嫌な予感しかしない。
「イラ!退いて!」
「あぁ?!」
イラが少し腹を立てたように返事をする。
「何だってんだよマリー」
そう言いながら下がってくるイラ。
しかし
「お?どうした?どうした?」
煽るように迫り来る四天王。
「来ないなら俺から行っていいか?勇者さんよ」
ニヤリと笑って近寄ってくる赤髪の四天王。
そうして
「おらよ!」
鋭い突きがイラを捉えた。
骨の折れる音がここまで聞こえてきた。
「げふっ!」
それで倒れるイラ。
「おうおう。弱いなぁこの勇者。弱すぎて笑えてくるわ」
「よくもイラを!!!」
それを見た剣聖のメアが四天王に向かっていく。
しかし
「きゃっ!」
その腹に鋭い突きを入れられ吹き飛ぶメア。
「弱っ。これが勇者パーティの力?今の全力か?」
そう言いながら私たちに近寄ってくる四天王。
「し、死にたくない………」
「あぁ?殺しゃしねぇよお前らみたいな雑魚殺したところでつまんねぇしな」
そう言うと下がっていく四天王。
「そこのゴミ雑魚勇者連れて帰んな。雑魚いくら潰してもつまらんしよ。しかし………」
そう言って何かを思い出すような顔をする四天王。
「以前戦った時はもっと手応えがあったかと思うが。そう言えばあの時の犬の真似してバカにしてきたガキがいねぇな?あのふざけたガキがいた時の方が割とキツかったが」
首をひねりながらそう聞いてくる四天王。
そうしてから何かに気付いたように口を開いた四天王。
「なるほどな。馬鹿なことしたなお前ら。支援職を抜くなんてアホもここに極まった、か。」
確かに以前この四天王と戦った時はもっと戦えていた。
それなのにこれだけ一方的にやられるというのは、同時に思い出していた。
少し前に起こったことを。
パーティメンバーの入れ替えだ。
ラグナを追放しミーナを入れてしまったこと。
この前この四天王と戦った時と違うことなんてこの一つだけ。
やはりラグナを抜いてしまったのは間違いだったのだろう。
そう思う。
「さぁ、帰んなボーイ。ママに慰めてもらえよへっぽこ勇者君」
私たちに出来ることは無かった。
敵である四天王。
この人の言葉を聞く以外に選択肢はなかったのだった。
※
「くそ!」
イラが宿で目覚めた。
「くそ!くそ!どうなってんだ!何で!」
「ごめん。調子悪かったんだよね。今日」
嘘だ。調子は良かった。
なのに前のような動きが出来なかったとは言えない。
前の自分より遥かに劣っているなんて、プライドの高いこの勇者が許すわけが無い。
「そうか。調子が悪かったんなら仕方ないな。それにミーナは今日初めて組むしな」
先ずそれが問題なことにイラは気付かないのだろうか?
先ず初めはゴブリンなどの簡単な討伐任務をこなしてどんな動きをシーに求めているのかを簡単にでもいいから伝えるべきだと私は思うのだけれどイラはそうは思わないみたい。
「次はこうはならないように挽回しなくてはならないな。俺たちは人々の期待を背負っているからな。迅速に魔王を討伐することを望まれている」
それは分かっているけれど、私にはどうにも不可能に思えて仕方がない。
だってラグナが抜けた後にここまでグダグダになるってことはラグナが凄く働いてたって事じゃないのかな?
確かに支援職の活躍は目に見えない。
だからこそイラみたいな活躍の見えやすい前衛職が思い上がって支援職を蔑ろにする。
そして結果
───────私達のパーティ崩壊するんじゃないの?
そんな不安が頭をよぎる。
だってよく考えたらラグナの支えてきたパーティなのに肝心のラグナがいないんじゃどうしようもない。
要するに紫電の槍を支えてきた太い柱のような存在が消えたという事も出来る今の状況。
これ大丈夫なのかな?
だって彼が抜けた瞬間ここまでキツくなるってことはつまりそういう事で。
今はパーティを支えていた本体が抜けてしまった。
この状況やばいんじゃないのかな?
「よし!じゃあとりあえず明日は調子を取り戻すためにもゴブリンの討伐から行ってみようか!」
大丈夫なんだろうか?
そう口にしているイラを見てそう思った。