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16話 治療

「グルォォオォオォオォ!!!!!!」


極太な雷の槍が四方八方から飛んでくる。

それを避けて避けて避け続ける。


俺がこいつと交戦を初めて既に9時間が経過した。

いつもならまだまだかかるが


「そこだ!」


究極雷帝竜(アルティメットサンダードラゴン)の隙を見つけた。

そこに一気に大技であるラストアルテマを叩き込んだ。

すると


「グォォォォォォォォォ!!!!!!」


究極雷帝竜(アルティメットサンダードラゴン)が沈んだ。

ふぅ………9時間か。


5秒は程遠いがそれでも自己ベストを更新できた。


 だが同時に普通の男にはまだまだ程遠い事を実感して情けなくなる。

 俺は普通の男じゃない。

 この歳になってまだ5秒で倒せないのは何処か致命的な問題を抱えているんだろう。


 でも皆優しいからそんな事ないよって言ってくれる。


「はぁ………悔しいな」


 そう言葉を漏らして俺は究極雷帝竜(アルティメットサンダードラゴン)の死体をポーチに入れて今日もこの場を後にするのだった。


 また翌日辺りに次のドラゴンが現れるはずだが。

 今度はいつ来よう。



『ぐるぐーるぐるぐーる♪』


 朝起きると女神様がまた何かやり始めた。


『ぐるぐーるぐるぐーるなんですけどー?なんですねー?』


 何で聞かれてるんだ。

 そう思いながら手元を見ると今日も女神ボックスをシャカシャカさせていた。


『今日は何が出るのでしょうか。楽しみですねー。私としては最近毎日引いてくれてるので嬉しいんですねーこれだけでもねー。はいどーぞ』


 そう言って箱を差し出してきたのでいつものように手を突っ込んだ。


『3日連続大賢者おめでとうございますー』


 今日も大賢者を引けた。

 スキルカードを使うとまた大賢者のレベルが上がる。


「これだけ連続で引けてたら弱カードじゃないかって思えてくるな。むしろ弱カードなのでは?」

『そんなことないよー。確率変わっただけだですもーん』


 ほんとかなーとも思うが考えても仕方ないか。


『もう1回引かせてあげます』

「何で?」

『今キュピーんときたからです。きっといいのが出ますよ』


 ほんとかよと思いながら俺は一応彼女を女神として信仰している。

 信仰の徒として引くしかないだろう。


「そりゃっ!」

『大錬金術師おめでとうございますー。バンザーイバンザーイ』


 俺を置いて1人で喜んでくれている女神様。

 錬金術師系は初めての獲得かもしれない。

 そう考えると確かに大当たりか。


 また俺の汎用スキルに大錬金術師の心得というものが追加された。

 試してみたいなこれ。


「とにかく外に出てみるか!」

『私GS4しとくんで晩御飯までには帰るんですよ』




「ん?」


 俺が王都の道を歩いていると


「誰か!お医者様はおられませんか?!」


 そう言って少女、恐らく娘だろうを抱き抱えている獣人の母親らしき姿を見た。


「娘が!娘が!倒れて目を開かないんです!」


 そう言って助けを求めているが


「獣人の娘なんて助けるやついねぇだろ」

「そりゃそうだ。獣人なんてな」


 国民の声はあんまりなものだった。

 仕方ないな。


「どなたかいませんか?!」


 あんまりにも不憫だったのでとりあえず近付くことにした。


「お困りか?」

「あ、あなたは?!」

「悪いが医者ではない」

「そ、そうですか………」


 明らかに落胆されている。まぁ当然か。望んだ存在ではなかったのだから。


「だが聖者だ」

「せ、聖者様なのですか?!」


 態度は一転してその顔に喜びを浮かばせた。


「せ、聖者様がどうしてこんなところに」


 俺がそう名乗った瞬間国民の声も変わった。


「よく見ろあいつラグナって奴だ。紫電の槍を追放されたあいつだ」

「何だゼロのラグナか」


 どうやら俺は悪い意味で有名らしい。


「聖者様」


 母親が俺に目を向けてきた。


「どうか娘を助けては頂けませんか?」

「やめとけやめとけ」


 その時聞き覚えのある声が聞こえた。

 そちらに目をやるとイラがそこにいた。


 そうか。ここは酒場の近く、声が聞こえて中から出てきたのだろうか。


「そいつはゼロのラグナ。女の後ろに立って踊ることしか出来ない踊り子だぞ?」


 この期に及んでまだ俺の邪魔をしてくるらしい。


「それなら俺らが代わりに治してやるよどうよ?」

「ほ、ほんとなのですか?!」


 俺など最早眼中にないと言うように勇者であるイラの言葉に飛びついた母親。


「あぁ、いいぜ?ただし礼はしてもらうぜ?」


 下卑た笑みを浮かべるイラ。

 しかしその笑みの意味に気付かない母親はイラに縋る。


「はい。なんでもします!」

「金貨100で受けてやる」


 そのイラの言葉に誰もが口を噤んだ。

 金貨100なんてこの獣人に払えるわけが無いのは誰もが分かる事だった。


 獣人の価値は低い。

 言ってしまえばほぼ奴隷階級と言って差し支えない。


 そんな階級に払えるものではないからだ。


「おい、マリー」


 イラがマリーを呼んだ。

 俺に少しだけ目を向けてマリーは少しだけ顔を横に振る。

 あまり気が進まないのだろう。


「娘さん助けたいんだろ?」


 イラが詰寄る。


「………」


 逆に俺はイラの前に立った。


「横暴だ」

「あ?」

「横暴だと言った」


 そう言って俺は振り返って母親に声をかけた。


「安心してくれ。俺は無料で治してやる」

「はっ!無料だって?!踊り子がいきがってんじゃねぇぞ?!」


 掴みかかってこようとするイラの手を避けて俺は続ける。


「娘さんの容態は?」

「死の宣告にかかっています」


 死の宣告、まずいな。

 発動してしまえば死ぬことは免れない凶悪な呪いだ。


 だが、あれなら。

 俺はアイテムを取りだした。


「そ、それは………ラストエリクサー………」


 イラですらも驚いているアイテム。


「踊り子………お前そんなもの何処で」


 答えずにラストエリクサーの入った小瓶の蓋を開けて少女に垂らした。

 すると光を放ち


「あ、あれ………」


 光が収まったそこには目を開けた獣人の少女がいた。


「ここは?」

「よかった!」


 母親が少女を抱きしめた。

 それを見た王国民が


「うぉぉぉぉおぉぉ!!!!すげぇ!!!!!」

「ゼロのラグナがラストエリクサーを躊躇なく使いやがった!!!!!」

「あのラストエリクサーをこんなところで使うか?!普通?!すげぇよあいつ!!!!」


 そんな声が上がってきた。そして


「ラストエリクサーを無料でこんなことに使うやつをイラさんは追放したのか?」

「ぐ………」

「すげぇ惜しい人追放したよな」

「ぐっ………」


 そんな声も聞こえてイラがよろよろと後ずさる。


「お前ら………行くぞ」


 この空気に耐えられなくなったのかイラがマリー達を連れて酒場に戻っていった。

 そしてその一方で俺を賞賛する声はまだ暫く続くのだった。

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