11話 【勇者サイド】 襲撃
「おっしゃぁ!」
イラが叫ぶ。
今日はゴブリン討伐という本来なら勇者がやるべきようなものではない依頼をこなしていた。
理由は勿論ある。
不調の原因を探ったりといったところだ。
後はラグナの抜けた分をどうやって動いて補うかの確認。
今までまがりなりにもラグナがいる前提で動いていた部分があることをイラも理解しているからこその試みだ。
「やっぱりあの踊り子が足を引っ張っていたことが証明されたな!マリー!」
イラがそう思いたいのか力強い声と共に私の肩に手を回してくる。
「そ、そうだね」
私にはそう答えることしか出来ない。
「上々だなイラ」
そう口にしたのは剣聖と呼ばれるほどの腕を持つ剣士のメア。
「あたぼうよ。あのゴミがいないならこれくはい余裕よ余裕」
そう言ってガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハと豪快に笑う。
「イラ様私もお役に立てていますか?!」
踊り子のミーナがそう聞いている。
「立てているぞガハハ!!!やはり男の踊りを見るより女の踊りを見る方が滾る!」
「そ、それは嬉しいです!」
本当に嬉しそうな顔をするミーナ。
ラグナから奪ったと言えば聞こえは悪いけれどその奪った地位で役に立てていることが嬉しいみたいだ。
「ゴブリンなんて倒せて当たり前なのに………」
自然と呟いていた。
「ん?どうした?マリー?俺がかっこいいって?!照れるからそういうこと言うのはやめてくれ」
どんな聞き間違いをしたらそうなるのかは分からないけれど盛大に勘違いをしているイラ。
「そんなこと言ってないけど」
「じゃあ何て言ったんだ?」
「ゴブリンなんて倒せて当たり前だよねって」
「当然だ。当たり前だ」
流石にそれは分かっているのかそう言ってくれたイラ。
「私たち魔王を倒さないといけないんだよ?ゴブリン如きで喜んでちゃダメだと思うんだけど」
「ちっちっち。真面目だなぁ、魔王なんて倒さなくていいんだよ。魔王を倒しちまったら俺達が楽出来なくなんだろ?」
そう言って指を横に振るイラ。
「こんなもの楽してなんぼなんだよマリー。俺らの存在価値を維持するためにも魔王には存命して貰わないと困るんだよ。だから!俺らが魔王を倒せたとしても倒さずに本当の実力を隠してだな」
隠すほどの実力もないくせによく言うよね。
そんなことを考えているなんて知らないだろうけどイラが口を開いた。
「よし、今日の依頼は終了!帰るぞ!」
※
依頼も終えた私たちは酒場に来ていた。
「ガハハハハ!やはり依頼の後の酒は上手いな!」
テンションの高いイラ。それから
「イラ様!見ておられますか?」
イラの指示で踊るミーナの姿が目の前にあった。
「もっと踊れ!もっと踊れ!滾るぞ!」
「はい!見てください!」
初めは恥ずかしがっていたのにもうこれだ。
慣れというのは怖いな。
「イラ」
それを見ながら剣聖のメアがベタベタイラの体に触る。
「逞しい体」
「そうだろうそうだろうガハハハハ」
ゴブリンを倒しただけでここまで調子に乗れる人間を私は知らない。
そんなことを思いながら二人を見ていたら
「イラ様!イラ様!」
「何事だ」
冒険者が1人近付いてきた。
「た、大変です!」
「何が大変だというのだ?」
「それが!四天王の1人が倒されたと言うのです!」
その男がそう言った途端
ざわめく酒場内。
「うそだろ?!四天王がか?!」
「でも確かに今倒されたって聞こえたよな?!」
そんな声が聞こえてくる。
それを聞いてイラは
「おい」
ピキリと音が聞こえた。
握っていたグラスにヒビを入れた音だった。
「四天王が倒された?」
「は、はい!ギルドマスターがそう話しているのを聞きましたので間違いないかと」
その話をしていた時。
カランカランと音を立てて扉が開いた。
中に入ってきたのは話題の人物だった。
「おい、ギルドマスター」
不遜な態度でギルドマスターに話しかけるイラ。
「何だ?」
「四天王が倒されたってどういうことだ?」
「その事か。その事について私も少し話があったのだ」
コツコツと足音を鳴らしてこっちへ近付いてくるギルドマスター。
そうして椅子に座ったままのイラを見下ろす。
「お前が追放した聖者について、ラグナだ。彼が四天王を撃破した」
ギルドマスターがそう告げた瞬間静まり返る酒場内。
「ラグナってあのラグナだろ?」
「踊り子って言われてたあの聖者だろ?!あいつがどうして?!」
静寂は直ぐに喧騒に変わる。
そんな中、ダン!と机を叩きながら立ち上がるイラ。
「有り得ねぇ!あの踊り子が四天王を倒すだと?!」
「嘘ではない、彼は規格外だ。私がこの目で見たからな」
「嘘をつけ!嘘を!」
ギルドマスターに掴みかかろうとしたイラだが、それは叶わなかった。
逆に伸ばした手を掴まれたからだ。
「何だ、この手は」
「うぐっ………」
「………まぁいい。貴様の性格に問題があることは承知している」
そう言うとギルドマスターはイラの手を離してカウンターに向かい始めた。
イラはそれを追いかける。
「どういうことだよ?!ラグナが四天王を倒したって」
「言葉通りだよ。私はこの件を王に報告するつもりだ。そしてラグナを」
そこまで言った時。
カンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!
警報が鳴る。
「襲撃だーーーーー!!!!!!逃げろーーーーーー!!!!ぎゃーーーー!!!!!!」
表から声が聞こえた。
「何事だ!」
ギルドマスターが真っ先に外に向かった。
私達もそれに続く。
「何だよこれ」
「な、ばかな!」
それを見てイラが呟いた。
ギルドマスターも予想していなかったことが起きたのか驚く。
「あの糞ガキはどこだ!ぶっ潰してやる!!!!」
前に交戦した四天王が上空を舞っていたのが見えた。
ギルドマスターが見誤ったのか、あの四天王は倒せてなんていなかった。
そしてその横にはドラゴン、地上にはモンスター達の姿が見えた。




