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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
運命を憐れむ人々

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あまい人

 朝ごはんというには遅すぎるフレンチトーストを食べ終えた二人は、さて外に出ようと玄関に向かった。二人を止める者は誰もいなかったが、二人と共に外に行きたいという者は居た。


「外に出るんだったら、僕も行っていいかい? こんな狭い場所に四六時中居たら気が狂っちゃうよ」


「別に良いぜ。でも、自分の身は自分で守ってくれよ。俺たちも全体を把握できるってわけじゃねえからさ」


「分かってるさ」


 伊野は去りゆかんとする二人の背中に、いの一番に声をかけた。そして、二人は伊野の言葉に反応して後ろを振り向いた。もっとも、振り向いて言葉を紡いだのは播磨だけである。しかし、山科もまた播磨が言葉で伝えようとしていたことを柔和な笑みを浮かべる顔に示した。あまりにも遠回りの山科の心配に、伊野は吹き出しそうになったが、シリアスな色合いを帯びた播磨の言葉によって笑いは諫められた。

 したがって、外への動向を認められた伊野はまたソファから立ち上がり二人の居る小高い玄関に足を向けた。だが、ここまで三人の会話が何の滞りを見せず、順調に進んでいたために伊野の行動は実現した。つまるところ、三人以外の事情を知らない者たちにとっては、どうして自分の身は自分で守れという文言を播磨が付け足したことに理解が及ばないのである。いや、理解が及ばないというよりも根本的に事情を知らないため仕方がないことであるのだが。

 かくして、無知のヴェールに包まれている者たちと既知の眼鏡をかけている者たちとの間には理解の齟齬が生じた。特に今回の殺人計画の全権を委ねられている瑞雲からすれば、その齟齬は一刻も早く解決しなければならない事柄であった。したがって、瑞雲は年長者三人が立ち去ろうとする瞬間に声をかけた。


「待ってくださいよ。それってどういうことですか?」


 瑞雲の声によって制止させられた三人はあからさまに面倒くさそうな顔をしながら、再び振り返った。しかしながら、三人は面倒くさいと分かっていながらも、昨夜の襲撃の事実を伝えなければならないことを知っていた。だが、それ以上に三人はこの狭苦しい空間から抜け出して、新鮮な空気の満ちる外に出たかったのである。地下室に籠ることは、三人にとって億劫であったのだ。もっとも、三人の中にこの地下室の主が含まれているのだが。

 このため三人は嫌な顔を瑞雲に見せるだけ見せ、三人とも同じ意味を含んだため息を吐き出すと、瑞雲を無視して扉を閉めた。あとに残ったのは、眉間に皴を寄せる瑞雲と外から吹き込む微妙に生ぬるく、微妙に冷たい中途半端な風だけであった。

 きわめて中途半端な風に当てられ、回答をはぐらかされた瑞雲はしかめっ面を浮かべると、ソファに座りながら貧乏ゆすりをし始めた。それは作戦参謀に物事を教えようとしてない部下の態度に対する苛立ちのために生じたモノではなく、純粋に教えてくれないことに対する疎外感のために生じたモノであった。もちろん、この疎外感を生み出す原因となったのは瑞雲が持ち合わせる臆病と小さな自己肯定感のためである。

 しかし、瑞雲の言動を傍から見ればただの苛立ちによる言動にしか見えず、ことに静けさの方を好む氷花にとっては自らの平静を阻害する要因としかならなかった。このため、氷花は瑞雲をはちみつ色の瞳で睨みつけた。そして、瑞雲は凍えるような視線に、持ち前の臆病では耐え切れずすぐさま貧乏ゆすりを止めた。これには八千代も喜多も、思わず感嘆の声を上げるモノであった。


「それで、あの人たちの話どういう意味だと思う、武彦?」


 空間に調和のとれた静けさが帰ってくると、平静が保たれた美しい声色で氷花は瑞雲に尋ねた。未だ、臆病風に振られていた瑞雲は氷花の問いかけに瞬時に答えることは出来なかった。


「ねえ、武彦?」


 このため耳元に氷花が近づき、ささやくように問いかけたことによってようやく瑞雲は臆病風を捨てることが出来た。ただし、この氷花の言動は想い人が間近にいる瑞雲にとってはマイナスの行動となってしまったのだが。


「分からないよ。というか、離れてもらえないか美紀」


「あら、失礼。こんなに可愛い女の子に離れてなんて、死ぬほど失礼ね」


「失礼云々の話じゃないよ。君は自分の美しさを安売りしない方が良いってだけの話さ。行動には責任が伴うし、その責任にはよからぬ噂だって含まれる。だから、君のことを想っての言葉だよ」


「そう、意外と優しいのね」


「以外って言うのは僕に失礼だよ。僕は基本的に優しい人間だよ」


 微かに頬を赤らめる氷花は、瑞雲から身を離し、瑞雲の傍らにちょこんと座った。


ご覧いただきありがとうございます。

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