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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
グレイトボーイのめざめ
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第三区

 俺と喜多は多くの学生で溢れている駅に着くと人並みを掻き分けて発車寸前、満員御礼のリニアモーターカーにに乗った。俺のさっきまでの楽しい気分は打ち砕かれた。正直もう疲れた。人が多すぎる、ぎゅうぎゅうだ。大体なんでこの路線だけこんな混んでだよ! お前ら家に帰って勉強しやがれ!

 心の片隅で乗客に対して悪態をついている疲れて枯れそうな俺とは裏腹に喜多は全然疲れたような気を見せなかった。逆に何故か元気そうな素振りまでしていた。

 化け物かよこいつ、どこまで元気なんだよ……。

 俺が清々しいほど元気な喜多に感心していると、喜多はこちらに向かって笑っ居ながら言ってきた。


「しっかし薊、危ない所だったなおい。もうちょっと遅れてたら乗れないところだったぜな」


「おう、そうだな喜多。しっかしなんでお前元気なんだよ、不思議でしょうがねえぜ全く」


 呆れたように返すと喜多は鳩が鉄砲喰らったかのような顔をして、いいやでも普段からアホっぽい面構えをしているから別にそれが特別な表情じゃないのかもしれない。でもまあそんな風に返した。


「いやいや、俺も元気じゃねえさ。こんな満員電車の中に居るのはやってられないぜ」


 何なんだよこいつはじゃあなんでずっと笑っていやがる。

 おちょくってんのか。


「それじゃあなんでお前はずっと笑ってるんだ」

 

 俺は少し強めに尋ねた。満員電車と意味不明な喜多の表情の矛盾がきっと俺をイラつかせたんだと思う。


「ああこれか、いや別に笑いたくて笑ってるわけじゃないんだけどよ。まあなんだいつの間にかこういう状況になると顔はにやけちまうのが癖なんだ」


 なんだそりゃ。その癖は訳ん分かんねえな。


「そうかい。ってことはお前。きっと追い詰められると笑っちまうんだろうな」


「多分なきっとそうだと思うぜ。おい、それよりもほら第三区にもうちょいしたら着くぜ」


 喜多がその言葉を言い終わると同時に機械的な声の車内放送が響き、この車両が第三区に着いたことを知らせた。


「よし! ほれさっさと降りようぜ」

 

 喜多はそういいながら俺の右手首を掴んで出口の方へ俺を引っ張ると二人は投げ出されたようにやけに騒々しい駅のホームへとに出た。

 いや手を握る、それはちょっと気持ち悪いからやめてくれないかな。

 俺は怪訝な目で到着したことにはしゃいでる喜多を見た。相変わらず黄金のような髪を揺らしながら太陽の表情をしていた。


「分かったから! 手は離してくれよ」


「すまねえな! 薊」


 反射的に握っていたと思われる手を喜多はワッと大げさに離した。

 瞬間、瑞雲の後ろ姿を見たときと同じような悲しみに襲われた。なんなんだ本当によ。

 悲しみに蝕まれた。そのせいか駅の発車ベルの音が鳴るまで、駅のホームから乗客が誰も居なくなるまで何も動けないでいた。


「……」


「おい! どうしちまったんだよ。お前今日なんかおかしいぜ。武ちゃんの時と言い、俺の時と言いなんでそんな悲しい目をするんだ。なんか俺たちお前の気に障るようなことしちまったか!」

 

「いいや別にお前らは何も悪かねえんだ。ただちょっと変な気分になっちまうんだ。何というかお前たちが俺から離れていく姿を見るとさ」


「そうか……。やっぱりお前ホm」


「滅びろ」


 朝よりも重いパンチを喜多の顔面に喰らわせた。

 喜多は顔を両手で押さえてその痛みにウガーッと唸った。

 全く、人が少しシリアスな雰囲気で話してるのになんでこいつ読まねえのかな。いやこの場合遊びに来てるっていうのに暗い空気にしてる俺の方が空気を読んでないのか……。

 すまんな喜多。


「痛ってえな! クソ野郎殴ることはないだろ! せめて暴言で終わらせてくれよ!」



「いや、面目ないな喜多。セクシュアルの方はあの悪口で済ましたんだがな。拳の方は別に殴ろうと思って殴ったわけじゃ無いんだよ。なんか知らないけど勝手に手が出てたんだ」


「そっちの方がよっぽどたちが悪いぜ! せめて意味あるパンチにしてくれ! 殴られた身にもなってくれよ!」


「ハハッ! すまねえなほんと。でもおかげさまで変な気分は吹っ飛んだよ。ありがとな」


 グーサインを喜多の唸っている眼前に突き出した。

 

「何がグーサインじゃ! ホントにホントにもうやめてくれよ」


「ああ分かったよ。ほれ、痛がってる場合じゃねえぞ。早く歩きやがれ」


 痛がっている馬鹿は無視してサッサと出て遊びに行かなければ! 

 時間が無駄になってしまうじゃあないか。まあその原因を作ったのは俺なんですけれどもね。


「ふざけんな!」


 馬鹿の怒号が聞こえてきたがそんなのは無視して俺は駅のホームを出た。


 ホームを出るとそこには大都会が広がっていた。

 第三区ここは技術都市のほとんどの資本が集まり人々の欲求を満たす欲望の街だ。

 数えきれないほどのテナントが入っている巨人の様な商業ビルの数々、おしゃれな喫茶店、おしゃれなブティックなどが軒を連ねる五百メートルはくだらないであろう最先端な技術都市には似つかわしくないレトロなレンガ敷きの目抜き通り。

 こういった学生から大人まで楽しめる夢の様な施設で溢れている第三区にはもちろん多くの人がいた。 

 今日は学校が早く終わったのもあって街には学生で溢れている。また丁度、お昼時になっていたこともあって特に目抜き取りには美味な食事を求めて多くの人(まあ、ほとんど女性ですけどね)がいた。

 確かに腹も減ったな。

 だが俺たちは腹の虫を無視して早速新型のアーケードゲームが導入されたというこれまた馬鹿でかい商業ビルに駆け込み、エレベータに乗った。


「なあ喜多。何階にゲーセンがあるんだ」


「ン、五十階だよ、このビルの最上階。なんか騒音が酷くてクラブだった最上階を改装してゲーセンにしたんだってさ」


「それはご苦労なこったい。でもまあしかしよくゲーセンなんてのが今の時代に残ってるよな。きっと家庭型ゲームに関する法律が変わったからだ。あのクソみたいな拡張現実に関する法律無くなんねえかな、あの法律のせいでフルダイブ型のゲームが家に置けないんだからよ」


「はぇー。お前難しいこと知ってんだな」

 やっぱ馬鹿だ。

 なんてことしてると幸運なことに一回も途中で止まることなく最上階に着いた。



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