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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
グレイトボーイのめざめ
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午前中で学校が終わるとテンション上がるよね!

 俺たちが教室に戻り他愛もない会話を繰り広げていると、放送の音が学校中を響かせた。


「今日はもう授業を行いません。また始業式もそれに伴い行わないことになりましたのでこの放送が終わり次第、下校してください。また自宅での学習も忘れないように」


 授業が行われなくなった理由は分からないがとにかく今日はもう終わりらしい。

 こんなの初めてだ。今までの学生生活の中で初日に授業を行わない、ましてや始業式すらやらないなんて不思議でしょうがない。よっぽど重要な会議でもあるのだろうか。

 しかし、俺たち学生はそんな疑問よりもつまらない授業から解放された喜びの方が勝った。

 つまり狂喜乱舞だ。教室は男たちの雄々しい叫びを響かせた。おおよそ放送で言われた自宅学習などする者はこの教室、全校、いやこの学区の生徒全員誰もしない。どうせ第三区に行って遊ぶか自宅でゲームに励むかの二択だと思う。


「よっしゃ! 薊、武ちゃんどっか遊び行こうぜ!」


 喜多はこの教室の誰よりもテンションが上がっていただろう。それも分かる久々にした若い女との会話、加えて学校は午前終わりときているんだからな。


「良いぜ、喜多。どこ行く?」


 俺も喜多と同様にとてもテンションが上がっていたたそのことを快諾した。

 

「そうだな…。第三区に最近できたゲーセンに行かないか! そのゲーセン最新型ARのFPSゲーム導入したらしいからよ!」


「マジかよ! あのフルダイブ型のやつか! 良いぜ俺はそこで。でもお前はどこ行きたい瑞雲?」


 俺はそう言って瑞雲の方に目を向けた。

 流石にさっきのショックから立ち直ってるだろうと思って話しかけたのだがどうやらまだ落ち込んでいるらしい。でもさっきまでの雰囲気とは違う、()()()()()()()()()に思い悩んでいる風に見えた。


「すまないね、君たち。僕は今日パスで頼むよ。少しばかし学校で用事があるのとまだショックから立ち直れてないからね」


「そっか、それ残念だな武ちゃん。じゃあまた今度この埋め合わせしろよ」


「分かってるよ。喜多、それじゃあ僕はもう行くね」


 瑞雲はその端正な顔によく合う儚い表情をしながら言った。


「おう、じゃあな瑞雲」


「バイバイ! 武ちゃん!」


 しかし瑞雲が壁際から立ち上がって帰ろうとする後ろ姿を見るとなぜか分からないがとても悲しい気持ちに襲われた。ここであいつを帰らせてはならないという気持ちに襲われたんだ。


「どうしたんだ薊? そんな悲しそうな眼をしてさ。まさかお前第十級だったことまだ落ち込んでのか!」

 

 悲しい気持ちは馬鹿の一言で崩れ去った。その代わりに新しいイラつきが生まれた。


「うるせぇなお前。いいからさっさと行くぞこの馬鹿」

 

 俺は言葉を返すとそそくさと足を玄関へと向けて歩き始めた。


「そんな言わなくていいじゃん!」


 喜多は甲高い声で叫ぶと俺の後をカルガモの子供の様についてきた。

 なんだか人を従えてる気分で楽しいなおい。

 だけどなんで俺は瑞雲の後ろ姿を見ると悲しい気持ちになっちまったんだろうか。本当に俺はいかれちまったのか? 普段あいつの後ろ姿を見ても「背が相変わらず大きいな」くらいしか思わないのにな、畜生なんでなんだ。

 俺はしばらく瑞雲の後ろ姿を見て湧き上がってきた感情の対して葛藤をしていた。


 そうしていると何時の間にか玄関に着いていた。

 少々深く考えすぎていたか、ちょっとばかしこの癖を直さなきゃな。

 俺はこの玄関に着くまでの間ずっと沈黙していたこと。そのことが申し訳なく感じた。もちろん喜多に対してだ。 

 ごめんな! 喜多!

 あいつに言葉を出して謝るのは小恥ずかしいので喜多を見ながら心の中で謝った。

 だが、やつは他のクラスメイトと仲良く話していた。

 喜多のコミュ力を舐めていた。こいつは別に人が黙ったら他のやつと話始める奴だということを。


 そんなこんなで俺は生徒でごった返している玄関のロッカーから靴を取り出して履き替えようとしていた。

 すると喜多は唐突に訪ねてきた。


「なぁ素朴な疑問なんだけどさ、薊って中学まで一人っ子って言ってたよな? でもなんで高校に入ったら妹が居るって言い出したんだ?」


 俺はその質問には中々答えられなかった。

 その質問は俺にとって、()()()()()の禁断の質問であったからだ。


「……」


「いや! 別に答えたくないなんら答えなくていいぜ! だからさそんな怖い顔すんなよ」


 喜多は焦ったようになりながら早口で言った。

 俺は喜多に心底感謝した。もしここで深く問い詰められたら俺はこいつとの仲を断絶してたかもしれない。でもこいつは俺の雰囲気を察してくれてかどうかは知らないけど質問を追求しなかった、これだけで俺は、いや俺たちは随分と救われた。


「悪いな喜多。でもありがとなお前はやっぱりいい奴だよ」


 そういうとあいつは自分の髪の毛の色と同じ明るい黄金の様な笑顔を返した。

 俺と喜多はそんなやり取りを終えると多くの生徒と同じように第三区行の駅へ向かった。


 

 

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