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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
グレイトボーイのめざめ
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魔術検査

 そうして彼らはグダグダと純白の体操着に着替え終わるとこれまたグダグダとした足取りで各々の検査会場へ向かった。


「なぁ、薊や。お前さんって魔術伸びたと思うか?」


 喜多は腰のあたりで手を後ろに組みながら俺に尋ねた。


「いいや全然伸びてないよ。間違いなく」


 その質問に答えたのは薊ではなく瑞雲であった。しかも彼は喜多の質問に薊に答える隙を入れさせないように間髪入れずに返した。


 まったく俺はあいつに腹が立った。だから少し強めにあの変態に言ってやる。


「お前が答えるんじゃねえよ変態。だいたい俺の魔術が伸びてない証拠なんてどこにあるんだよ」


 瑞雲はその答えを受けると親指で喜多を指しながら嘲るような表情で返した。


「はん! 証拠ならあるさ。さっき君がこの馬鹿のパンツを透視するときに集中して数秒かかっただろ、それが証拠さ。君は去年もそうだったからね」


「ああ! もう、うるさいな。分かってるよ! そんなのさ……」


 俺は図星を突かれたのでやけくそ気味に言った。どうやら俺という人間は意外とメンタルが弱いらしい。全く俺もあいつみたいに欠点を直していかなきゃならないな。

 俺が沈黙に入り、頭の片隅で自己分析をしていると喜多が両手大げさに動かしながら訴えてきた。


「なぁ、俺の質問だったよね! なんでお前ら二人で完結させちゃうのさ! もっと俺と会話しようぜ!」


 俺と瑞雲はこのことを聞くとさすがに今まで邪険に扱ってきたこいつが可哀そうになった。

 俺たちだって優しさくらいはあるさ。


「そうか済まなかったよ君」


「ああ、済まなかった」


「お前らが謝るとかスゲェな!」


 いや前言撤回しよう。こいつに憐みなんて感情は抱かなかった。

 うん、そうだこんな馬鹿どうでもいいや。


 そんな他愛もないことを思いながらくだらない会話をしていると何時の間にやら玄関に着いていた。


「おっ! 着いたな。じゃあ俺は校庭で検査受けるからよ! ここでお前らとはお別れだな。じゃあまた後で教室で会おうぜ」


「分かった。じゃあお前もヘマやらかさないように気を付けて検査受けろよ」


 そう俺が言い終わると喜多は多くの生徒でごった返している玄関の自分のロッカーから外履きを取り出して、履き替えるとクラスメイトと共に走って体育館の北側に隣接する校庭に向かって行った。


 あいつあれだけ明るくて面白い奴だから魔術伸びてるといいけどな。


 俺は普段、喜多の目の前では考えないようなこと考えながらあいつの走っていく後姿を多くの生徒の間から見逃さないようにきっと優しい目をして見送った。


「おや、優しい目をして何を考えているのかな薊?」


「なんも考えちゃねえよ」


「そうかい、なら僕たちもサッサと体育館に行こうじゃないか」


 そして俺と瑞雲は教師からの連絡道理、今度は急ぎ目に体育館へ向かった。





 体育館に着くと真っ先にステージ上にある演説台とマイクそして体育館の四方の壁に整然と並べられた様々な検査器具が目に入ってきた。

 また多くの生徒は駄弁っており、所々新入生の顔も見受けられたが彼らも我らが愛すべき落ちこぼれたちと同様に特段やる気というものを感じさせずにいた。

 つまり生徒たちにはこれから検査を真剣に受けるという雰囲気はなかった。


「しかしなんだ、瑞雲よ。なんでこの学校は男しかいないんだ」


「そんなこと僕に聞かれてもね。でも別にこの学校だけじゃなくて他の学校だってそうだし。大前提としてそもそもこの学区自体、女の子がほとんどいないからね」


「悲しいな俺達。せめてこの希望の無い学区に女子の一人や二人入ってきてくんねえかな」


 俺は少々悲観気味になりながら言った。

 しかし考えてくれ。男しかいない青春に価値があるのかと! 


「君は贅沢だねホント。ここに居るほぼ全員が家に帰っても一人ぼっちだっていうのに、君は家に帰ればキャワイイ八千代たんが居るじゃないか。贅沢ものだよ、ブルジョワだよ」


 そうだ、俺には妹が居たんだ。フフッ、俺はこの中で勝ち組だ。

 薊はほくそ笑みながら瑞雲に指を指した。


「ザマァ」


「ぶっ殺そうか、きみぃ」


 俺がそういうと瑞雲は指をポキポキ鳴らしながらにっこりと笑った。まるで朝の妹を彷彿とさせる表情であった。


「待て待て、お前そんなに怒るなって」


「いや、怒るなって言う方が無理だよ。八千代たんと暮らしてる癖にそういうこと言うんだら。考えてみてよ、彼女持ちが非モテの前で『いやー、彼女欲しい』とか戯言吐いているのを」


「クッソ腹立つな」


「だろ! つまり君はそういうことを言ってるわけさ」


 俺たちも多くの生徒と同じようにやはり途方もなくどうでもいい話をしていると急にスピーカーから桜子と思える声が聞こえてきた。


「貴様ら、静かにしろ」


 その冷徹な声が体育館を響き渡ると生徒たちはたちまち静かになり、桜子が立っているであろうステージ上の演説台に注目した。ことに体育館にはさっきまでとは大きく異なりにわかに吹く風の安らかな音のみが響くようになった。


「良し、静かになったな。ではこれから魔術検査を始めるにあたってこの学校の担当研究者様から挨拶と説明をしていたただく」


 桜子が言い終わるとステージの端からいかにも研究職をしている雰囲気を醸し出している髪の毛を七三に分け、丸メガネを掛けた痩せ気味のガリ勉という雰囲気が正しいであろうかそんな男たちが四人ほどが出てきた。 


 きっとこの男たちは主要な研究メンバーから外された者たちなんだろうと俺は見た瞬間そう思った。なぜならこの男たちの態度がどこか投げやりで存外適当なものだったらだ。それに加えて俺たちと同じように何処か負け犬の匂いを放っているようにほんのり感じたからかもしれない。これもまた非情なことだ。


 しかし何故あの研究員たちがやる気を出さないのか不思議に思うかもしれない。だがこれにも歴とした理由があるのだ。


 この技術都市では研究員が優秀な新世代を見つけると自らが所属している研究チームに莫大な予算が下り、その見つけた人間に対して積極的に実験する権利を得られる。そのため多くの研究員たちは日々、血眼になりながら俺たち新世代のデータに目を通して、魔術に見込みのある新世代を探している。そしてこの魔術検査というのはこういうことを考えている研究員にとっては格好の餌場なのだ。ところがもちろん研究員にも才能の上下がある。俺たち新世代と同じように。

 だから優秀な研究員なんぞは第一級、第二級の技術学区に行き優秀な人材を見つけて研究をする。逆に凡才で能力の高くない研究員は底辺の技術学区に配属される仕組みになっている。


 つまりだここに居る担当研究員のやつらは俺たちと同じ落ちこぼれでお先真っ暗な研究人生を歩む人間たちだということだ。まあ、そんな落ちこぼれたち中には今俺たちの前に立っている奴らみたいに能力が無くて落ちこぼれたやつと能力は優秀だがどうしようもないくらいに狂って落ちたやつが居るんだがな。前者は理解できる人が多いが後者は俺にとって憎むべき人間だ。


「瑞雲、あの研究員たちも可哀そうだよな。こんな底辺高校に回されるなんてな」


 俺は何処か憐みを含む表情で壇上で検査の説明をぼそぼそとしている研究員たちを見ながら言った。

 しかし、俺もいかれちまったかあんなクソ野郎どもに情が湧くなんてよ。でもやっぱり何処かあういう社会の負け組を見ちまうと、どんな嫌な奴でも情が湧いてきやがる。


「どうしたんだい薊、君、焼きでも回ったかい。そんなこと言うなんてさ、あいつらは君とっても僕にとっても()()にとっても恨むべき敵なんだよ」


「いいや瑞雲、俺も憎んでいるさ。でも研究員たち全員が狂ってるわけじゃねェ」


「そうかい。なら良いんだ、もし君があいつらを憎んでないなんて言ったら本当に殺しちゃうところだったよ」


 瑞雲は小さく笑いながらもどこか凄みを感じさせながら言った。


 俺たちが会話をしているといつの間にか説明が終わっていたようで、生徒たちは一斉に各々の魔術系統にあった会場へと足を動かし始めた。


「おや、説明が終わったみたいだよ。じゃあ僕は西側の念力の検査場でやるからさ、ここでお別れだよ。さっき喜多が言ってたようにまた教室で落ち合おうじゃないか」


「おう、じゃあな」


 薊はズボンのポケットに手を突っ込みながらそういうとゆったりとした足取りで瑞雲とは逆方向の東側にある検査場に向かった。


 検査場に着くとそこには大量の箱とかおおよそ計測器具と思われる四方八方からコードが伸び、様々な器具とつながっているサークレットの様なものが置かれており、人間は壇上に立っていた研究員とは違うおっとりとした雰囲気の赤髪の研究員の一人以外誰も居なかった。


 いやそもそも俺みたいなと魔術を保有してるやつが少ないからそれもそのはずなんだがいくらなんでも誰もいないなんてのは無いだろ。去年は三人くらい居たはずだぞ!

 薊は心の中で叫んだ。

 だが研究員はそんな薊の嘆きなどいざ知らずいそいそと準備を始めた。


「ええっと、名前は堀野薊で合っているかな?」


 研究員がボードとボールペンを持ち、頭をかしげながら聞いてきた。


「はい、合ってますよ」


「では、検査を始めたいと思います。まず君の魔術は『魔眼』で、合ってるよね。いや一人しかいないからこんなの別に確認しなくていいか」


 研究員は自分でから聴いてきたくせに俺に回答を聞かないで一人で納得するとなぜか得意げに腰に手を当てるとさらに続けた。


「いやいやでも君、レアな魔術を保有してるね。魔眼なんてのは新世代全員を合わせて確か千人も居なかったはずだよ。ほとんどの新世代はもともとある器官に影響する魔術を開発することができないからね。身体強化系もそうさ。あれはあくまで筋肉とかを肥大化させてるわけじゃなくて通常、僕たちが過ごしている中で発生している物理量を神の力で無理やり増やしているだけだからね」


「そうすっか。でもありがたい話ですよ。こんな魔術を開発できて。ですがね俺のこの魔眼は他の魔眼を保有してる人たちと違って何の役にも立たない透視の魔眼なんですよ」


 薊は自分を貶す様に少し笑いながら言うと研究員がにこやかな顔で返した。


「いいや何の役にも立たない訳じゃないさ。現に僕がこうして研究できているのも君のおかげなんだからさ。それに万が一いや、億が一くらいの確率でもしかしたら君、使徒になれるかもしれないじゃないか。いや、それよりも上の今現在、最も神の子に近い人間、つまり『三賢人』になれるかもしれなよ、三賢人と言っても今はまだ二人しか居ないし。その二人も最初は第十級技術だったんだからね」


  俺はその事を聞くと心が少し軽くなったような気がした。そしてここまで人の良い人間を左遷したものが心底憎いとも思った。


「良し、じゃあおしゃべりもほどほどにして検査を始めようか」


「分かりました」


  そうして薊と赤髪の研究員はおしゃべりを辞めて検査をし始めた。


「じゃあまず、そのサークレットみたいなを頭に付けてくれ」

 

  彼はサークレットの様な機械を一つ加えて繋がっているディスプレイをあの大量の箱の中から一つ一つ丁寧に取り出して、その多くを取り出した箱の上に自分だけが見えるように置いた。

  そして薊は彼の言う通りに目の前に置かれた機械を頭に付けた。すると機械から歯車がチクタクと動く様な音が聞こえた。


「ふーん、そうかそうか……」


  その音が聞こえ数秒経つとやはり彼は一人で納得したように呟いた。


「オッケー、次は実技に行こうか」


  彼はそう言うと移動式の仕切りを二枚ほど持ってくるとその仕切りの向こう側に立った。


「よし、じゃあ魔眼を発動してくれ」


  薊は彼の声を聞くと自分の目を見開き魔術を作動させんとした。


「どうだい、僕の姿が見えるかい」


「いえ、まだ見えません。もう少し待ってください」


「オッケー」


  ジッと仕切りを見つめて六秒くらい経った。


「あぁ、見えました。見えました」


「そうかい」


  彼は簡素な返事をすると仕切りから顔をのぞかせてこう言った。


「うん、堀野薊君、君はやっぱり第十級技術だよ」

 

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