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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
グレイトボーイのめざめ
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くそったれな日常

 俺たちが教室で馬鹿騒ぎをしていると勢いよく扉を開き、女教師の怒鳴り声が響いた。

 

「うるさいぞお前たち! 高校生にもなってまだ静かに出来ないのか! 席を立っている奴はサッサと自分の席に戻れ!」


「「「えーい」」」


その教師は凛とした雰囲気を漂わせた、どこを切り取っても非常に美しい女性である。豊満な胸、滑らかで長い黒髪、細い体系、ぱっちりとした目、街を歩けば五人に一人は振り返るであろう程の美貌だった。

 しかしクラスメイト達はそんな美貌にも目も暮れずやる気のない返事をすると教師の注意のままに自らの席に着き黙り始めた。いや黙ったというよりも寝に入ったという方が正しいかもしれない。なぜなら多くの者は席に着いた瞬間、机に突っ伏したり腕を顎に当ててそのまま目を閉じ始めたからだ。

 俺は寝はしなかったが自分の席が一番後ろの窓際の席だったたので死んだような目で窓の外の青空を眺めた。


 ところが教師はこの様子にまた怒鳴って注意する訳でもなく大きなため息をつき教壇へ上った。


「お前たち、せめて新学期が始まった日なんだからもっとやる気出せよ。そんなんだからお前たちの魔術は伸びないんだぞ。何事も努力を重ねて頑張らなければな」


 教師は時代遅れな言葉を人を励まそうとする声で言った。

 しかし、この愛すべき技術都市の落ちこぼれたちには全く響かなかった。かえってその言葉は多くの生徒に反発生んだ。


 そんなこと言ってもやる気なんてまったく出ねえよ。大体俺たちは新世代の中で最底辺なんだから今さら頑張ってもどうにもならないしよ、あの先公の努力すれば何でもできるっていうのが心底気に食わねえ。

 俺は酷く心の中であの先公に悪態をついた。

 だが教師は教室のどよんだ空気を感じられなかったのかやけに凛々しく、いかにも教師的なしゃべり方で言った。


「まぁ、いい。さて来年に引き続きお前たちを担任する室町桜花(むろまちおうか)だ。また一年よろしく頼む。さてお前たち今日は何の日だか知ってるな。だが万が一知らないやつが居るかもしれないから説明しておこう。今日は魔術検査の日だ。今日行うこの検査は全学区一斉に行いあらゆる魔術の力を測り、お前たちの魔術にランクを付け、魔術関連の授業内容を振り分けていく非常に大切なものだ。我々は自然系を校庭で、その他体育館で行う。どうか気を抜かず頑張ってほしい。ああ、あと微粒子レベルの可能性だがもしお前たちの中に新世代を代表する魔術を使える者が居たら特権と名誉な義務がもらえるぞ。何か質問はあるか?」


 いや知ってるから説明いらねぇよ。

 多くの生徒はこう思い聞いていただろう。一人の馬鹿(喜多)を除いては。


「はいはい! 先公ちゃんその特権と義務ってなに?」


「貴様、言葉は慎めよ」


 桜子はキッと睨み、脅す様に言った。


「ヒッ!」


 喜多は悲鳴のような短い甲高い声を上げたがそれも本当に怯えているというよりかは演技の様なものに感じられた。


「まあそう怯えるな喜多。馬鹿なお前に教えてやろう。いいかこの技術都市にはお前たちと同じような新世代と呼ばれる魔術を使える学生が二十万人居る。そんな学生の中でも全学区で優秀な上位十二人には『聖使徒』と呼ばれる二つ名が与えられる。そうしてその聖使徒の二つ名を貰った者にはお前が尋ねた特権と義務が与えられる。その特権とは『この技術都市の保有するあらゆる情報にアクセスすることが可能になる』ものだ。そして当然、特権には義務が必要となる。その義務というものは『暴力行為や風紀を乱す者を発見し次第に対処する』というものとなる。分かったか馬鹿」


「分かりました! 先公ちゃん」


 そう喜多は言うと桜子はこめかみに青筋を立てると冷徹な声で返した。


「貴様もし次までにその言葉づかいを治さなかったら。貴様に反省文を書かせ、さらには補修を組むぞ」


「すいません。次からは気を付けますんでそれだけはやめてください」


 喜多はさっきまでのおちゃらけて人を小馬鹿にするような雰囲気とは打って変わって深く反省した態度で桜子に謝った。

 あいつ、謝る必要なんてないのに。どうせ今、クソ先公が言ったこと数週間の間で全部達成するんだからさ。


「よし、じゃあお前たち体操着に着替えて自分の魔術の検査場所に移動しろ。分かったな」


「「「うぃーす」」」


 再度やる気のない返事をすると先公はそそくさと教室から出て行った。


 そして俺たちはグダグダと着替え始めた。

 この学校の全生徒は魔術検査を真面目に受ける気は毛頭ないと思う。まあ、教室の生徒の態度を見れば大体の察しがつくだろ。だけどこの怠惰を悪く思わないで欲しい。そしてこの怠惰を生み出している要因を俺は理解して欲しい。なぜならこの理由を知ればきっと怠惰がどうしようもないもので、別に悪いものでは無いと分かってくれると思っているからだ。

 この怠惰の要因というのは魔術は登校中に瑞雲が言ったように第三の眼を開発するときほとんど決まってしまうところにある。つまりどれだけ魔術を伸ばす努力をしたところでほとんど自分の魔術が成長しないのだ。そしてこの学校、学区の生徒たちは開発を受けたころに死ぬほど努力したが魔術が一向に伸びずに第十級技術という新世代で最低の力を持つ、烙印を押された者たちなのである。

 したがってこの運命とも言えるであろうどうしようもない才能の壁、これがこの怠惰の要因であるのだ。


 どうだ、俺たちの情けなさを分かってくれたかな。この魔術は夢のようであるが非情でもある力なんだ、とりわけこの第十級技術の魔術を扱うものなど負け犬と言っても差支えが無いと思う。第十級の魔術を保有するものは技術都市を出ても魔術師とかいうご立派な官職に就くことが出来ない。同じ技術都市を出た新世代の第九級技術以上の魔術を保有するほとんどの人間は魔術師になるのに、俺たちはなれないんだ。

 別にそれがどうしたって思うやつもいると思う。

 けど俺たちは世間から「技術都市を出た癖に魔術をろくに使えない、税金泥棒のただ人間」ていうレッテルを貼られるんだぜ。まあ世間様のその意見はもっともだと思うけどな。けど、それはあんまりに無責任だと思う。小学校を卒業すると同時に「才能がある」とか「国のため」とかいってほとんど無理やり親元から引き剥がされて連れてこられたのに、いざ第三の眼を開発してその魔術の程度が低いと分かると適当な技術都市内の学校を卒業させて身分の保証をせずにバイバイだなんて狂ってやがる。


 なんて俺は誰に語ってるわけでも無いのに妙に熱いものを頭の中で思いを巡らせながらやはりクラスメイトと同様にグダグダと体操着に着替えていた。


「あの先公ちゃんいつにも増して怖かったな」


 喜多はさっきの謝罪をまるで無かったかのように瑞雲と話していた。


「それは君が一向に反省の色を見せなかったからだろ? それが原因さ。もちろん僕だって怒ってる最中にあんな態度を見せられたらより怒るし怖くなるよ。きっと誰だってそうするさ。なぁ、薊、君もそうだろう」


 俺は変に思いを思いを巡らしていたのでちょっとつっかえてから瑞雲に返した。


「そうだな。確かに瑞雲の言ってることが正しいぜ」


「へっ、お前ら二人とも先公ちゃんの味方かよ」


 喜多はわざとらしく言葉を捨てた。

 しかしながら俺はあのクソ先公の味方だと思われるのが心底嫌だ。もう吐き気を催す程に。子供のわがままのように聞こえるであろうがそこだけは俺にも譲れない。


「いいや違うぜ馬鹿野郎。俺は別にあのクソ先公の味方って訳じゃあねぇんだぜ。ただ少しお前の態度に問題があると思っただけだよ」


「馬鹿野郎はいくらなんでもひどくないか! でもそんなツンデレな薊が好きだぜ俺はよ」


 喜多はこちらに親指を立てながら花のような笑顔で冗談を返した。


「へぇ、君も人並みのわがままを吐けるんだね」


 瑞雲は鼻で笑いながら嘲るように薊に言った。


「黙れよ変態」






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