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いずれ神に至るため  作者: 鍋谷葵
グレイトボーイのめざめ
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「あれ、本当だったんだ」


 薊の口からは素っ頓狂な声を漏らした。

 そして瑞雲と秋等は目を見開き、伊野の顔を見つめ、驚嘆の声を薊と同じ調子で漏らした。


「嘘……」


「……へ?」


 おいおい、マジかよ。

 喜多を助けたのってマジで賢人の一人だったんだ。だけどやっぱり昨日のメモのことが気にかかるな。なんでだ? もう二度とこういうことに首を突っ込むなって。いや人を心配するって言うのは分かるが、それでも助けたって言うのならもっと書くことがあったはずだろ。例えば自分の名前とか、連絡先とかよ。

 全く持って不思議だよ。


 賢人の謎の言動に一人、薊が頭を悩ましていると秋等は伊野に向かって彼にしては珍しくその男性にしてはぷっくらと女性らしい唇を震わせて尋ねた。


「それって、本当に賢人だったのかしら? だって賢人の個人情報って一切公開されてないでしょ?」


「モチロンそうだけど僕は使徒だよ。どんな情報にだってアクセスできるからね、あの人は間違いなく没薬の賢人その人だったよ。まあ一回会ってるから間違えようがないんだけど。というか君、秋等君だったけ? 君の情報取集能力を持ってしたら賢人の情報の一つでも抜き取れんじゃないのかい? 昨日だって薊君に情報を提供したのは君だろ? そんな演技をしなくても大丈夫さ、全部お見通しだから」


 彼女はわざとらしく悪戯な笑みを浮かべると秋等の質問に受け答えた。また答えを受けた秋等はもう一度驚いた様を見せる、いや見せつけると何時ものふざけた調子を取り戻して加減無く笑った。


「あらら! ばれてたの! ええそうよ喜多の怪我した要因だって分かってるし、薊がここに駆け付けた理由も、賢人が動いたってことも知ってたわよ。でもねアナタたち使徒様を目の前にしてことを言うとねアタシ保安官に捕まりかねないし、せっかく口を堅くしてアタシたちを巻き込まないようにしてくれた喜多のこともあるし言わなかったのよ。言わぬが花って言うでしょ? そう言うことよ。つ・ま・り、この場で何にも知らないのは瑞雲だけって言う訳ね。まあ瑞雲を巻き込みたくないのなら状況をここで言わない方がアタシは良いと思うけど。でも一人だけ仲間外れって言うのもね。だってそちらの使徒様の一人、火野ちゃんはぜーんぶ知ってるのでしょう?」


 オホホと高らかに笑いながら挑発的な言葉を紅髪で口を結んでいる男に向けた。


 というか秋等の呼び方には突っ込まないんだ。不思議。


「ああ、そうだな。俺は全部知ってるよ、お前がこの都市一のハッカーだって言うこともな」


 彼は挑発に皮肉で答えた。

 秋等からしたら愉快以外の何物でもない、本来お縄にかけるはずの人物をみすみす逃しているのだから。使徒としての義務を放棄しているのだから。


「あら、それはどうも。でもアタシはデータベースに残されたものは分かるけどこの場で起きたことは流石に分からないわ。だから一つ聞きたいことがあるの没薬の人はここに来て何を話したのかしら?」


「何を話したかって? それは唯の世間話さ、お前もデータをくすねたのなら知ってるだろ。あの人の話し方。適当な話をして、さっさと消えていくっていうのを」


 火野がそういうと続けて喜多も話を始めた。


「そうそうあの人。ふらっと俺のとこにリンゴを持って来て一方的に適当な話をしてさ、上夜ちゃんと火野君が来るとセクハラまがいの事を上夜ちゃんに言うとどっか行っちゃったんだよなあ。でも俺の時と同じように上夜ちゃんの傷もバッチリ、跡が残らないようにというか完全に元どおりに治してくれたけどさ」


 どんな人だよその賢人ってやつは。遊び人じゃねえか、ふらふらしてるだけの。そうしたら尚更こいつを助けたのが不思議でならねえ。どうしてこうも頭の良い人はびっくり人間が多いんだか。

 でもいい人間なんだろうよ、多分伊野さんのことだから黙っていたことを看破して、治してくれたんだからさ。


 薊はやはりまだ見ぬ賢人に頭を悩ませた。どんな人間か取っ付きにくすぎる人物のために。


「うん、そうだね……、ありがたかったさ。でもあいつ今度会ったら絶対脳みそ弄ってやる」


 伊野はついさっき没薬の賢人にされたことを思い出したのか顔を赤らめてボソッと恨みたっぷりの声を出した。


「あら、なんだ面白くないの。でもまあそうねデータを見ただけだと彼、あんまり面白い人間じゃなさそうだったし」


 秋等は自らの質問への回答があまりにも予想通りだったことを知ると落胆した。

 そんな反応している秋等を横目に彼は、火野雅人は唐突に一言呟いた。


「そうだ。そこで未だに驚きを隠せていない男、確か瑞雲と言ったか? お前はどうしたい?」


 一言。たった一言。そこにはあらゆる重みが入っているような気がした。

 人を試す重み、人を守ろうとする重み、人と共に責任を果たす重み、そんなものが含まれていると感じられる。

 つまり彼は遠まわしに瑞雲に友と共にどうしたいのかを尋ねたのだ。

 その質問に瑞雲は困惑していた。無理もない、何せ情報が多すぎる。使徒、事件、賢人、何と言うことか困惑に至らしめたる原因だらけではないか。

 しかし瑞雲は質問から数秒の沈黙の後、一息飲むと覇気のある声で言った。


「僕は友と行動するよ。例え何があろうともね、それが筋ってもんだろ」

ご覧いただきありがとうございます。

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