後ろの感情
「あがっ!!!!」
畜生、痛い。
今度の痛みは気絶しそうなくらいだ。ああ、クソッタレ、今一瞬だけ目の前が暗くなっちまった。
喜多は地面に倒れたくても、次に来るであろう攻撃を避けたくとも、足の裏が地面から離れないのでただ呆然と立つばかりであった。
「お前よく立ってられるな。いや、違うか本当は地面が恋しくて仕方がねえんだろ? ん?」
「そうだよ! この腐れ外道、本当は俺も地面にキスしたくて仕方がねえ。何だったらもう逃げたくてしょうがねえよ。俺の膝見て見ろよ、ガクガク震えてんだろ。怖いんだよ」
「ハハハハハ! そうかよ、そりゃあおもしれえな!」
後ろ向きにだがなんとなく奴の表情が読める。
こいつはきっと俺のことを嘲笑っている。さっきまで優位に立っていた俺が魔術を使った途端にここまで弱くなり、怯えているというのが面白いんだろ。ふざけやがって、せめて足が足さえ動いてくれれば。
足を思いっきり上げようと思ったがやっぱり地面から引っ付いて離れない。
「そういやあ、手前の足が地面から離れない理由をまだ言ってなかったなあ。聞きてえか? 聞きてえよなあ!」
ウザったい言い回しで奴はいやしく尋ねた。嫌味と悪意しか感じられない言い方だ。
「じゃあ聞かせてくれよ、クソ野郎」
「やっぱ威勢が良いねえ、こんな状況だっていうのにさ。そんなお前に敬意を払って教えてやら! 手前の足が動かねえのはお前自身の足の裏にあった空気を一瞬で膨張させたからだよ。空気は膨張すりゃあ冷たくなるだろ、その理論を利用したってわけだ。タダイの時の氷も同じ原理さ、あの時は俺の手の中にあった空気をやっぱり膨張して投げたってわけだよ」
すげえな、敵ながらその魔術のセンスは素晴らしいものだ。空気を膨張させて凍らせるなんて普通は思わねえ。でもなんでこんなにセンスがあるやつが五級なんだ? 不思議でしょうがねえ。
「そりゃあすげえ。敵ながら天晴だよ」
「そうか! そうか! ハハハハ! 俺を追い詰めたお前に言われるなんてのは誉だよ!」
すべてを悟った、どうせこの後行われることが分かっているからだ。俺は言ったように殴られて意識を失うだろうからな。痛いのかしら、それとも痛みが無いうちに気絶できるかしら。
でも、それでもたった一つだけこいつに聞きたいことがある。
「そうかい。じゃあ最後に情けで一つ聞かせてくれ、どうせ俺はこの後意識がなくなるまでボコボコに殴られるんだろうからさ。今までお前に狙われてたやつがそうだったようによ」
「オーケー、何が聴きたいんだ?」
「質問だ。なんでお前は第五級魔術なんだ、お前のセンスだったら間違いなく第一級になれただろ。いや俺みたいな底辺の眼からのことだから何とも言え無いんだけどよ」
そう尋ねると高秀はあからさまな怒りの雰囲気を身にまとった。鬼の気配、憤怒の気迫、ひしひしとこういうものが屋上に漂っている。もはや空は茜色となっている。昼に来たのにもう夕暮れだ。
しかしこの質問は地雷だったか? でもなんでだ、こんな素人目の質問にガチギレするなんてのは至極おかしい。いやこいつの場合はおかしいのが正常だと思うんだが、それでもおかしい。ここまで激昂するのなんてのは、待て、もしかしてこいつまさか……!
「ああ何だそんなことかよ。俺が何で第五級かってことかあ? それはヨお、ああ畜生、思い出すだけでイラつくぜ。でもここで答えなきゃ俺のプライドが許せねえ。そんなのは簡単だ、ただ俺の素行が悪いからだ。もとは俺も第一級だったんだけどよお、素行の悪さが目に付いてよお第五級に落とされちまったんだ」
やっぱりこいつは落とされたんだ。でも素行の悪さで落とされるなら使徒の十二人も落とされるはずだろうよ、上夜ちゃんでさえもドン引きする行動を取るやつがいるんだから。
「それは災難だったな」
「お前はそう思ってくれるのか。第十級のお前でさえ思ってくるのか、そこは良い奴だなあ。そうだよなあ、使徒たちは何やっても許される癖によお、こう見えても俺、一回使徒に選ばれかけたんだぜ。なのによお、なのによお! あのクソ女、絶対に許さねえ!!!」
刹那、奴は懐から何かを出し俺の右肩に当てた。
なんだこの鉄? プラスチック? みたいな塊は? 何かの道具か?
俺が肩に当てられている何かを推測している間、突如、肩に焼けるような激痛が走った。次いで、緑の光線が目に入った。
「ああああ! なんだこれは! 畜生!」




