感情乙女と新事実
俺たちは冷め切ったたこ焼きをしょうがなく不味そうに食べながら談笑していた。
魔術検査で伊野さんはどのくらいの強度を叩き出したんだ、俺はあの研究員のあっさりとした態度から察するに相当低かったみたいだけど使徒にもなるとその強度は常識を超えた強度なのだろうか。なんせ二十万分の十二人だからな。
話している最中このことがなぜかひどく気になったので尋ねた。
「あっ! そういえば伊野さん。今回の魔術検査はどうだったんだ」
伊野さんは口に頬張っていたたこ焼きを一つ飲み込むとニヤリと笑ってこっちを見た。
しかしやっぱりこの人の顔は何度見ても引き込まれるほどの美しさがあるな、まつ毛長いし、目も大きい、どこか扇情的だ。
「うん? 気になるのかい薊君」
「まあね、俺が検査受けたときはひどくあっさりと結果を言われたもんだからさ。使徒にもなると研究員たちの態度もそれはそれは恭しくなるものかと思ってさ」
皮肉ったように彼女の笑みに返した。
「いいやそんなことは無いよ、研究員たちは相変わらず無機質な態度しかとらないよ。でも僕の魔術の強度も相変わらず最高さ。精神感応系ではね」
彼女は自信たっぷりな様子でどこか子供の予感を感じさせて俺の質問に答えた。
「まぁ君もそこでおいしくないたこ焼きをバクバク食べている金髪頭君も魔術はきっと伸びると思うから、そのための努力を忘れないでいると僕としても嬉しいかな」
にこやかに、朗らかにでも静かに笑いながら彼女は言った。
あのクソ先公とは違ってこの人の言葉にはなぜか信じられるところがある。不思議なことだよ、同じような言葉をでも言う人によっては大きく受け取り方が異なるんだからな。
あと、喜多よお前凄いな。こんな冷めて美味しくないたこ焼きをそんなに食えるなんてさ、いや確かに腹が減ってるけどさ。
喜多は俺たちの会話を無視してただひたすらとたこ焼きを食べていた。ちょっとくらい会話に興味を持ってもいいと思うんだけど、せっかく使徒第十位様がありがたい言葉をかけてくださったんだから。
「そうですか……」
「なんだいその煮え切らない返事はさ。せっかく僕が君たちを応援してあげてるというのに、というよりもそこの金髪頭食べるのを止めたまえよ」
おっ! 喜多が食うのを止めた。
「っ! んん! ゲホゲホ!」
いや違うや、ただ伊野さんが魔術を使って食べる思考を止めただけだ。
喜多はむせると急いで自販機の所に行き、IDカードをかざすとコーラの様な赤い缶の炭酸飲料をグッと一気に飲んだ。
炭酸を一気に飲むとか、またむせるぞ。
「ゴホゴホ!!」
案の定、喜多は目に涙を浮かべながらむせていた。
流石に可哀そうだと思う。
かくして喜多は過酷な目に合うと最初に座っていた俺の隣の席に戻り、一息吸って落ち着くとどこか疲れたような目で伊野さんを見つめた。
「上夜ちゃん! やめてくれよいきなり思考の方向を固定するのはさ! マジで死ぬかと思ったよ」
「いや、別に死ぬわけじゃないだろ」
俺は冷めた口調で喜多に向かって言った。
だがそんな目の前にたこ焼きの様に冷め切った俺とは打って変わって伊野さんは腹を抱えてゲラゲラと喜多の行動を笑っていた。
おやおや、伊野さんはひょっとするとドSなのかしら。
「ところがどっこいこれが本当に死にそうになるんだ、薊! なんか途中で食べ物を飲み込むっていう感覚が無くなってきてのどに詰まりそうになるんだよ」
おっかねえ……。
流石使徒だよ、普通の人がやらないようなことを平然とやってのけるんだからな。もしかするとドSというよりかは人格破綻者なのでは? 伊野さんあの陳情を聞いてさらに笑ってるし。
うわ、でも伊野さんこっち見てるよ。また、俺の思考読んでるのかな。できれば読んでほしくないんですけどね。
「御名答だよ薊君! しかしそれにしても金髪頭君の行動は面白いね、久々に腹を抱えて笑ったよ! ハハハ!」
「笑い事じゃないんですけど!」
絶対この人、人格破綻者だ。
「いやいや薊君、僕なんてまだマシな方だと思うよ。聖使徒とか三賢人の二人とかはぶっちぎりでいかれてる人だからね。聖使徒なんて『聖』なんて字が付いてるけど全然清らかな人間じゃないさ、たまに僕でも引くような行動をする人もいるしね。特に賢人の二人はやばいよ」
いやだから頭の中を読まないで、恥ずかしいから。それと自分のことを人格破綻者だと自覚しておられるんだったらなるべく早くその性格直した方がいいと思いますよ。
俺はそんな思考を頭の中で繰り返し、こねくり回していた。するとまたある一つの疑問が頭の中に思い浮かんできた、それは聖使徒と賢人の差というものだ。伊野さんでもこれだけ強い、そして他の上位の使徒は伊野さんよりも強い魔術ならばそれをも上回る賢人の人たちはいったいどれだけの強さなのだろうか。そして聖使徒と三賢人とを明確に分けるさとは何だろうか。
「そうだ、伊野さん。もう一つ教えてほしいことがあるんだけど、いいかな」
「うん、いいとも。僕は今機嫌がすっごく良いからね知っている範囲なら何でも教えてあげるさ! でもプライベートなことは無理だよ」
伊野さんがそういうと俺は早速さっき浮かんできた疑問をぶつけようと思った。ところが俺が質問を口にしようと思ったタイミングにかぶせるかのように隣に座っていた馬鹿がまた大きな声で質問をした。
「はいはい! スリーサイズはどのくrっ!」
だが隣の馬鹿は低俗な質問を言い終わる前に顔が真っ赤になった伊野さんにグーで殴られた。
魔術で止めれば良いものを自らの手で止めたということはよっぽど嫌だったのだろう。でも少し気になるな伊野さんのスリーサイズ、これだけ良いスタイルなんだから実際はいかほどのものなのか。
んん? 伊野さんなんでこっちに向かって殴りかかろうとしてくるんだ! まってよ! あなたに殴られたら今日妹のを含めて計四回目なんですけど!
「問答無用!」
「へっヴァ!!」
俺と喜多はグーパンチの痛みに顔面を手で覆いながら悶えていた。
痛ってえ! やっぱ朝言った通り美人さんは怒らせちゃダメですね。
俺はそのことを肝に銘じた。
「「痛たたたた……」」
「本当に君たちはどうしようもないね」
伊野さんの顔はすっかり熟れたリンゴみたいだった顔からいつも通りの顔に戻っていた。
「っで、そっちの変態金髪野郎は置いといてさ。薊君、君が質問したかったことっての何かな?」
喜多の呼び方が酷くなってるな。まあ確かにセクハラ紛いのことを二たび繰り返されたらそうもなるわな。
いや、今はそんなことはどうでもいいんだ。あの疑問をぶつけなければ。
俺はさっきとは変わって神妙な面持ちで質問した。
「伊野さん、聖使徒と三賢人との明確な差っていうのは何ですか?」
その質問を聞くと伊野さんも俺と同じような表情となり、またさっきまでおチャラけた雰囲気とは異なるこれぞ優等生の様な口調で返した。
「今から言うことをどうかそのまま受け止めてほしい。僕もいつ言おうか迷っていたんだ、でも事実さ。さっき君が賢人に近いって言った理由はここにあるんだからね」
「使徒と三賢人との差はね、まあ色々あるんだけどね。一番の差は未来視の魔術を保有していること、要は君みたいな魔眼のことだね」
だから、俺が賢人になれるかもって言ってたのか。でもそれだけじゃ、伊野さんが言っていた使徒の完全上位互換というのには全然当てはまらない。
「うん、そうだよね。それだけじゃ当てはまらない、だからもう一つのしっかりとした理由がある。そうそれこそが僕たち新世代の定義を外れたモノ、新世代の常識を超えたモノ、使徒を超えた人間、つまり予言の魔術の他にもう一つの魔術を保有していることさ」
「はあ! なんで二つも魔術が使えるんだ! そしてどうして俺は賢人になれるかもしれないんだ! 俺は二つも魔術を使えないぞ!」
俺は身を乗り出すとテーブルの向こう側に座っている伊野さんに対してすごい剣幕でどこか脅すように尋ねた。
そんな中、隣にいた喜多はオロオロしていた。
「分からないんだ。でもそれこそが賢人、君が未来なるかもしれない人間。未来を照らし、僕たち使徒なんかよりも強大なそれこそ神の子の奇跡の様な魔術を使う人間さ。そして君は知らないかもしれないが実は二つ魔術を保有しているんだ。一つはまだ未発達なその透視の魔術そしてもう一つは……、残念ながら僕には分からない。でも確実に君の中にある、君の頭の中に確かに透視以外の魔術情報があったんだ」
驚愕、その一言に尽きるであろう。
俺が二つ魔術を使える……? 意味が分からない、理解不能だ。
俺は急に力が抜け、座布団に精根尽きたようにポスンと座り込んだ。




