夜空の電球
ハクション!
機械オタク老人のニックと共にパワードアーマーの修理を終えた、セフィロスとリッキーは、夜空に浮かぶ遠い『故郷』を眺めていた。
「おい、何だよいきなり。風邪か?」
「違うよ。ちょっと鼻がムズムズしただけだよ。」
残念ながら、俺は悪い方のカンはむちゃくちゃ当たる。間違いなかった。このクシャミは不吉な事の前触れだった。
月の間近で常に分厚い天井で覆われている環境で育ったせいか、地球からみる月はまるで闇夜を照らす一つの電球の様だった。大昔、我々人間の祖先達は、あの月の石ころを持って帰ろうと大気圏を飛び出す事にチャレンジしていた事があったらしい。その千年後には宇宙から地球に戻ろうと再び大気圏を抜けようとしている。
皮肉だ。
「なぁセフィロス、パワードアーマーを直したところで、俺たちこの先どうすんの?まさかこのまま地球に残るなんて事は無いよね?」
リッキーは、せっかくのロマンチックな雰囲気をぶち壊しやがった。
「んな事聞かれてもわかんねぇよ。」
俺はいつもそうだった。後先の事は一切考えない。こうしていつもリッキーを振り回してたんだ。ゴメンなリッキー。
「ホント、お前と一緒に居ると退屈しないよな。」
「そりゃア・リ・ガ・ト・ウ!」
俺は皮肉混じりに返してやった。
男二人で地球の夜空に浸っている頃、暫くして遠くから声が聞こえて来た。
夜の薄暗さではっきりと解らなかったが、徐々に近づいて来てようやく声の主が強面の男である事がわかった。二対一だったけど、相手のマッチョで鍛えぬかれた肉体には勝てっこなかった。
「中央総監府の物だ。貴様の登録番号を述べよ。」
かなり上から目線の喋り方といい、特権を持った人間である事は間違いなかった。
「オジサン誰?」
俺は答えると、強面の男は懐から小さなディスプレイを取り出し、検索を始めた。
「おかしい、このエリアにはお前達のような若い男は居ないはずなんだが・・・。」
男が検索している最中、俺は横にいたリッキーの顔をみた。
「おい、さっきお前俺と居ると退屈しねぇって言ったよな?」
俺は引きつってはいたが余裕な笑みをリッキーに見せた。見せた。今がチャンス。
「行けッ!」
その合図の瞬間、俺は闇雲に男に拳をふるった。見事男の顔面ど真ん中にヒットした。それに間を開けずリッキーも非力な身体で男に猛突進し、男を押し倒した。
「リッキー何やってんだ!早く逃げるぞ!」
俺達は猛スピードで逃走した。今までも二人で学校抜け出しては先公達と『鬼ごっこ』していたので、走るのは慣れていた。
「セフィロス、昼間のニックの倉庫に隠れよう。最悪の時はパワードアーマーで逃げ切ろう。」
「・・・グッドアイディアだな。」
月明かりのみの暗い夜道。ニックに頼み、倉庫にかくまってもらった。
俺とリッキーは、倉庫の中で眠っている二機のパワードアーマーの中に隠れていた。案の定、俺たち二人を追い、強面の男はニックのもとを尋ねてきた。
「お役人さん、こんな真夜中に何か様かの?」
「うむ、ここに不審者が逃げてこなかったか?」
男は鼻血が出ている鼻を手で抑えている。ニックには言ってなかったが、その様子を見て何があったのか察したようだった。
「不審者?この辺で盗人でも出たカナ?」
「実は住民からの一報でこの辺に未確認飛行物体が落下してきたとの情報があってな、まさかザルタークではないかと思ってな。」
「ほう、それは物騒だな。」
俺は、シートの隙間からその様子を覗いていた。
(ザルターク・・・?知ってるのか?)
男は気付いたのか、しきりにこっちを意識していた。
「とにかく、ザルタークは宇宙で生活する原始的な人間だ。地球に下りて勝手に繁殖なんてされたら、我々人類の生存の危機に関わる事態になるからな。気を付ける様に。」
そう言ってやっと男はニックの前から立ち去って行った。だけど、少し感づかれたかもしれない。しかし、この一件が後に俺達の人生で大きな展開に繋がって行く事は知る由も無かった。
夜空の電球はそんな二人の展開を見守っていた。