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地球降下計画

場所を変わって、月軌道上に無数存在する俺の故郷。宇宙人類の生活エリア『人工小惑星』に話を移す。その丁度中心部分に位置する直径四キロほどある人工惑星がある。この小惑星こそが宇宙人類の神聖にして不可侵なるザルターク皇帝の居城と中央政庁が存在する。その形から人々は『クリスタルキャッスル』と親しまれていた。約三百年前、人類の宇宙開拓を急進させる事となった重力発生装置『グラビティコントロール』を発明し、ザルターク王朝は政治経済の中枢の全てを月面からこのクリスタルキャッスルに遷都したそうだ。

さて、皇子である俺。セフィロス・ザルタークが禁断の地球大気圏に消えてから三日が経って、国内では皇子のご乱心という事で騒然となっていたそうだ。

「皇帝陛下様、コーヒーのお味は如何でありましょうか?」

親父は執事から差し出されたコーヒーの香りを暫く楽しみながらカップに口を付けた。

「うむ、いつもながら貴殿の入れるコーヒーは格別だな。この様なときでも、貴殿の入れるコーヒーは心を和ませてくれる。」

クリスタルキャッスル内で自家栽培されたコーヒー豆は一千年以上前に地球から持ち帰った物だ。

「畏れながらに皇帝陛下。セフィロス皇子の事ですが・・・。」

執事が口を開く。

「それを聞くな・・・。親である私が一番頭を痛めているのだ。」

飲んでいたコーヒーが急に苦く感じたのか、カップを受け皿に戻した。

「しかしながら、開闢から一千年続いてきたザルターク王朝の皇帝になろうお方。地球に行って何かがあってはなりませぬ。」

「実は、息子に見られてしまったのだよ。」

親父は懐から書類を取り出した。

「陛下、それは・・・。」

親父が取り出したのは、地球降下計画の資料だった。

「建国神話の時代から数えて約一千百年余、我々は遂にこの時を迎えたのだ。祖先達の悲願であった地球帰還が現実となるのだ。」

親父は、その資料を執事に渡して見せた。はじめは途惑っていたが、遠慮がちにもその資料に執事は目を通した。

「しかし、地球には我等の移民以来、ネオロイド種達が生活しています。我々も無傷では済みませぬ。」

「多少のリスクは覚悟の上だ。平和的に解決できるのであれば私もそうしたい。しかし我らには時間がない。国内では増えすぎる人口と食料供給が追いつかず、深刻な食糧難に瀕している。この問題を解決する手段として、地球降下計画は内閣に於いて立案されたのだ。場合によっては武力攻撃も辞さぬ覚悟だ。」

親父は自室にある。先祖代々伝わる家宝の古い地球儀を手にした。人類史上最も犠牲者を出したとされる第三次世界大戦で住む場所をネオロイド種に奪われた祖先は多くの流刑者と共に、絶滅が目的の月面上にある原種収容所に抑留された。

希望は一本の苗木だった。この苗木こそが我々がかつて地球人であった何よりの証拠であり、この苗木を上手く増やし、育てたいという想いから民が生活しやすい環境が発展して行ったといっても過言ではない。

現在ではその苗木をモチーフにした通称『青樹紋』がザルターク朝の国旗となっている。

「確かに私も承認し、国民も満場一致となった。これは侵略と代わらぬ今回の決断は後に禍根を残す事となるだろう。」

「皇帝陛下の御意志でありますか・・・。元老院も黙っておりますまい。」

静かになった二人のいる正殿は、時計の秒針はただ、その運命の時に向って刻み続けているのだった。



ここは、地球から約十九万キロ地点。ちょうど地球と月の昼間地点に位置する宙域。そこに浮かぶ未だ新しいザルターク帝国宇宙開拓軍連合機動艦隊。

旗艦『ぺテルギウス』艦内に大きな音が鳴り響いた。それは何かを蹴飛ばしたような音だった。その音は艦内の司令室から響いていた。

「許せない!」

未だ若い軍服姿の少女は下唇をグッと噛み締めていた。少女の襟に見えるワッペンは帝国宇宙開拓軍司令長官のものだった。

「何を考えているの?セフィロス皇子!私という女がいながら、この様な暴挙。地球を攻略した功績で私は皇帝に認めてもらい、皇子と結婚するつもりだったのに。」

ガーネット・アノウ。彼女はまだ十六歳の少女である。ツインテールの長い髪はまだ成熟していないあどけない姿を物語る。

彼女の父親はザルターク朝の宰相アーネスト・アノウ。軍人出身で、親父である皇帝から厚い信頼を受けていた。その宰相アーネストからの強い提案でこのじゃじゃ馬・・・ガーネットを許婚にされている。

俺は男勝りのこの女と結婚するなんて絶対嫌だ。

「失礼します!長官、アーネスト卿がお見えです。」

ガーネットの前で直立不動に報告する将校。

「御父様が?何故この艦に!?」

その反応から間を空けず、司令室の自動扉が開く。

「ガーネット。精が出てるか?」

「御父様が直々に訪問されるなんて珍しいですわ。」

「用件は只の訪問でないという事は解るな?」

ガーネットは白い歯を見せていた顔を引き締めて見せた。

「先日起こった皇子の一件だが・・・。」

「知っています。私たちも後を追い、地球に降下します。」

「うむ、長年の研究によれば、ネオロイド種というのは我等元の人類に対し差別意識が高く、皇子ももしや捕まっているやむしれぬ。」

「皇子様がもし地球の人間に捕まってしまう事を思うと・・・。皇子の救出を急がねば。」

「しかし、事を荒立ててはいかぬ。我が国は今、地球帰還計画の初期段階に在る。もし何かあれば、この計画そのものも凍結しかねん。」

アノウ家は代々ザルターク家に仕えてきた歴史ある家系だ。さすがにアーネストは非常に冷静だった。

「御父様、私に地球降下を命じて下さい。必ずや皇子様を救出してご覧に入れます。」

「うむ、地球降下の日はそう遠くは無いだろう。」

この時、ガーネットは知らなかった。地球降下計画の本質を・・・。


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