大気圏内
光がまぶしい・・・。
(ここはあの世なのか・・・?)
脳裏に残像のように浮かんでくる記憶。
(そうだ・・・俺は地球に降下したんだった・・・。ちゃんと降下出来たのか?俺は。)
遠くで女の声がする・・・。
※
「キキ姉ちゃん!宇宙人起きたよ!」
(宇宙人だと?)
子供たちが五月蝿い。気付いたら俺とリッキーはベットの上だった。
「コラッ、宇宙人なんて失礼でしょ。」
奥から娘が出てくると子供たちは走ってその場を去って行った。娘はベッドの傍にある花瓶の花を入れ直している様だ。体の節々が痛い。
「目がさめた様ね、私の名前はキキ。キキ・ロザーナっていうの。
ねぇところで、アンタ達、何で空から降ってきたの?もしかしてホントに宇宙人?」
俺とリッキーは互いに顔を向き合った。
「俺達は宇宙人なんかじゃねェよ・・・ってもみたいなモンか。」
確かに俺達は宇宙から『降って来た』訳だから、こいつ等から見れば地球外生命体と変わりが無い訳だ。リッキーが口を開く。
「ここは地球なんですか?」
「そうよ。あんた達ホントに宇宙人なの?」
「ボク達の乗ってきたパワード・・・いや、宇宙船ってどうなったんですか?」
リッキーは、俺達が宇宙人だと認めた前提で言い直した。
「アレなら今ごろは近所のニック爺さんのコレクションになってるわよ。うちの爺さん、メカニックには目が無いのよ。」
「そのニックって爺さん、それ直せれるかな?」
思わずベッドから飛び起きた俺は、リッキーと共に爺さんの所へ案内してもらった。
※
キキに油臭く薄汚い町工場のような風貌の小屋へつれて行かれた二人は、外で待つようにと言われ、娘一人が小屋の中に入って行った。出てきたのはゴーグルを常にかけている作業服姿の変人・・・じゃなく老人。何処から見ても『変なジイサン』だ。
「これを直すじゃと?」
「ああ、爺さん、メカに強いんだろ?」
俺の言葉の反応したのか、爺さんの眉間に皺がよった。
「お主、初対面のダンデーに『爺さん』とは何事じゃ。ワシはニック・テイラーって名前がちゃんとある。」
気付かれない様、キキはニックの背後でクスクスと笑っていた。
(こいつ・・・ウゼッ!)
と、俺は正直そう思った。でも俺は今、突っ込めれる立場じゃない。リッキーは俺の代わりに言葉で援護してくれた。
「男前のニックさん。今はどうしても、貴方の力が必要なのです。」
ニックは自分の胸を拳で押し当て、自信満々のポーズを見せた。
「任しとけ!・・・といいたい所じゃが・・・。この宇宙船は見たこともない機械ばかりでさすがのワシもお手上げじゃ。」
「だったら、ボクに手伝わせてください。ボクは、昔から機械いじりが得意なんです。こいつも手伝いますから。」
(こいつ・・・俺を巻き込みやがった。)
リッキーにがっしりと腕を掴まれた俺は、思わず深い溜息をついてしまった。
※
リッキーは三度の飯よりメカが好き。つまり『メカオタク』だ。そういう意味ではこの変人ニックとウマが合うのかもしれない。
「オーイ!セフィロスそこつっ立って無いでそこの工具取ってよ。」
リッキーの甲高い声が飛んだ。
「へーい!」
全くオタクの世界は理解できない。ネジ一つで一時間分の話のネタにできる。ニックはパワードアーマーの中身に興味心身で、リッキーが自身満々に説明する。全く付き合ってられない。
「これを使ったらどうじゃ?」
ニックが取り出していた物体。どうやら先史時代の産物らしい。メカに強いリッキーも、見た事が無かったらしい。
「これはプロペラじゃ。」
「プロペラ?そんなモノ付けてどうやって飛ばすんですか?」
「飛行機に改造するんじゃよ。」
「ヒコウキ?」
後からリッキーから教えてもらった事だが、常に上に天井がある俺達、宇宙育ちには空や風が無いから『航空力学』って学問が退化してしまったそうだ。だから俺達に解るはずもなかった。だけどこんなモノで空を飛べるって想うと、さすがに俺も少し興味が湧いてきそうだった。
大気圏内は俺達の知らない事でいっぱいだった。