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07:双葉とデザートイーグル


ここまで来ていただきありがとうございます。


ニチアサがなかったことを恨みつつ、頑張ってモンスターを狩っていきましょう



「どうして私がこんなことを」



 双葉が、今日で何度目かの文句の言葉を垂れてくる。



「もとはといえばお前のせいだからな」



 桜前線も北上していき今日は最高の花見日よりのはずなのに、どこかの馬鹿のせいで絶賛仕事中。



「罰なら外地任務とかでいいでしょう。私はこんなちんけな人を守るためではなく、パラズメアを殺すために生まれたのですよ」

「知るか、そんなの。それに付き合わされるこっちの身にもなってくれ」



 あれから一週間後、議会が発行する依頼への審査が通り、ある人物を護衛するために茨城県つくば市まで来ていた。

 たかが東京までの護衛。こんな世界の状況下でも二時間くらいしかかからない道のり。拘束時間もほとんどないから、あの報酬は適切だったのかもしれない。


 そんなことに思いを馳せつつ、今回の護衛対象に目を向けた。

 灰色の瞳に白髪。徐々にデコ前線が上昇していっているのが分かる。あと数年すればつむじに到達するだろう。

 皮膚も(ただ)れたようにしわくちゃで、それまでの人生の長さを感じさせる。


 そんな容姿に加え、腰から折れるような姿勢で杖を突いていたから、はじめは七十歳くらいに思っていた。

 しかし、そいつのプロフィールには五十二歳と書かれていたから驚きだ。あの年で、ああはなりたくない。


 筑波は、昔から研究機関が多くて有名だ。双葉のようなマギナもほとんどがここで生まれている。



「まさかこんなことでここに帰ってくるとは思いませんでした」

「懐かしいのか」

「さあ、どうでしょうね。生まれた場所であって育った場所ではありませんから」



 だが、哀愁(あいしゅう)に浸れるほどのものがここにはないようだ。




「一応、今回の護衛対象――黄金崎政道(こがねざきまさみち)はお前の親に当たるんじゃないのか」

「私に生みの親も育ての親もいませんよ。何とち狂ったことを言っているのですか、クソ主様」

「とち狂った行動をする奴には言われたくねえよ」



 あまり興味がなかったことなので知らなかったが、黄金崎はマギナの権威であり双葉たちの生みの親らしい。


 今でこそ車を作るように決められた工場で製造されることが多いマギナだが、十年前くらいはこいつ一人で作ったのだとか。

 とんだ天才だ。もしくは……。


 そんなことを考えていると、双葉が手ぶらでここにいることに気が付く。



「おい双葉、お前武器はどうした」

Castor(カストル)はまだメンテですが、Pollux(ポルクス)は二本とも持ってきていますよ」

「いや、そういう事じゃない。普通の武器はどうしたと言っているんだ」



 こいつ、諸事情でポルクスを一本落としたとか言っていたが、山の手線を止めるために使ってやがった。

 なんでも、車両の連結部を斬りおとして停めたらしい。そのせいで損害請求もたんまりだ。まあ、自警団が負担してくれたが。



「普通の武器? なにを言っているんですか。私にはこれさえあれば十分です」



 そう言って、誇り気にポルクスを見せびらかしてくる双葉。

 たしかに攻撃力は申し分ないが、今回言いたいことはそういうことではない。



「何考えてんだよ、このアホは。今回の仮想敵は人間だぞ。パラズメア用に武器持ってきてどうするんだよ」

「ですが、人間も殺せますよ」

「人体への使用は禁止だろうが」



 はぁ、と大きく嘆息をして頭を抱える。

 戦闘の時でこそあそこまで切れ者なのに、なんでほかの部分では非常識なんだ。疲れる。



「ダメ、なんですか」

「ダメだ。何が起こるかくらい知っているだろう」

「も、もちろんですよ。そのくらい知ってます」

「なら言ってみろよ」



 ちなみに、一つは過剰な攻撃力。これは良い。いや、よくはないがパラズメア用の武器だけに言えたことではない。


 問題はもう一つのほうだ。



「お、」

「お?」



 苦い表情で双葉は口を開く。

 マギナでも人間でも、自分が不利なときになる顔の形はそっくりだ。



「お金がかかるからですね」

「違う!」



 要因の一つとしてあっているかもしれないが、それが理由ではないのは確かだ。

 お金は副次的なものでしかない。



「プラズマ化した武器で攻撃したら、被弾したほうがパラズメア化するリスクがあるだろ。寄生されやすい体になるんだよ。小学生で習わなかったの――……ッ」



 ここまで言ってから、しまったと痛感する。双葉がにらみつけるような目でこちらを見てくる。


 地雷を踏みぬいてしまった。



「お言葉ですが、私は小学校なんて通っていませんので分からなくて当然ですね。そんなことすら分からないとか、ほんと私の主様はなんと稚拙(ちせつ)なんでしょう。ああ、誰かこのクソ主様と変わってくれる白馬の王子様はいませんでしょうか」


「なっ。こっちだってお前なんて願い下げだ。毎度毎度、迷惑をかけてきやがっ――」

「はいはい。戯言(ざれごと)はどうでもいいですから、とりあえず武器でも借りてきます」


 毒を通り越して、もうなんて言ったら分からないほどの暴言を吐かれる。

 いつもは軽く流すのだが、今日までに溜まった鬱憤が爆発してしまい『売り言葉に買い言葉』で返してしまう。


 だが、双葉はどこで覚えて来たのか『見ざる言わざる聞かざる』といったように、目・口・鼻を順番に抑えて三猿の真似をした。


 そのままあしらうような言葉を吐き、自衛隊のテントに向かっていく。



「ああ、くそ」



 その場に座り込む。なんでいつもこうなるんだ。


 マギナと人間。

 世間では、何の例えか『指揮者』と『奏者』などと呼ばれている。だれが初めに行ったか分からない。

 しかし、なかなかに的を得た言葉だろう。


 マギナがパラズメアを討伐する時に音を奏で、指揮者はどう音を響かせるか指示をする。

 防衛大でも似たようなことを言っていた。


 面白い例えをした人もいた。

 私たちは絵描きでマギナたちは筆だ、と。



 だが俺たちはどうだ。


 仲が悪い。



 二人とも思い通りに動かない。筆を使っているのではない。筆に使われているのだ。

 そう言われている気がしてならない。


 だから、少しでも仲を良好に保とうと努力はしたし、いまもしている。

 だけど、あいつの前では頭に血が上るのだ。これがつらい。



「見てください、クソ主様」



 そんなところに、声を弾ませて双葉が戻ってくる。

 両手には黒光りする鉄の塊。それをぶんぶん振り回すように持ってくる。


 それはまるで、サンタからプレゼントをもらった子供のようなものだった。

 先ほどの不機嫌さなどどこと吹く風だ。



「なんだ、それは」

「優しい自衛隊の人からもらいました。なんでも買ったはいいが自分には過ぎたものだとか。ちょっとお願いしたらくれました。やはり、私が可憐で湖の乙女のようにかわいいからですね」



 作りものだけどな。


 その言葉をギリギリで飲み込む。また機嫌が悪くなっても困る。今はそのままでいてもらおうと考えた。今日は穏便に済ませたかったのだ。



「ほらほら、見てくださいクソ主様。あなたのものとは違って、とてもでかくてとてもおおきくてずっしりしていますよ。芯もカチカチです。発射される弾もあなたのような小さいものと違って、力強く激しいものでしょう。スピードでは負けますが、その分威力はこちらのほうが上ですよ。これなら、何回もやらなくても一発でKOですね。どうですかクソ主様。悔しいですか」



 その両手に抱える黒光りするものを俺に見せてきながら、恍惚(こうこつ)的な表情で瞳をうっとりしている双葉。


 先ほどの事を忘れ、見せびらかしてくる彼女にいら立ちが募ってくる。



「デザートイーグルですよ。五十口径のブラックモデル。こういうのが欲しかったんですよ。やはりグロッグでは力不足ですね」



 徐々にむかむかしてきた。


 我慢の限界を迎えようとしたとき、運よく集合の合図がかかる。

 一人で語り始める双葉を放置し、呼ばれた場所に向かった。


 ようやく、この面倒くさい依頼が始まったのだ。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


小説の一章が一番難しく、こんなものじゃダメだとはわかっているんですけど、こんなできなんですよね。


楽しんで頂けると幸いです。


次回は夕方には更新の予定です。


――埋木埋火



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